『崖のふちプロレス』の宗教戦争に登場した大槻ケンヂインタビュー! 宗教を軸にプロレスの世界を語ってもらいました!
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――『崖のふちプロレス』の宗教戦争に登場した大槻さんの「プロレスに宗教ネタを持ってきちゃダメですよ」というシメの言葉に惹かれて取材に伺いました!
大槻 出ちゃったんですよ、「崖のふちプロレス」。ボクはね、客席から女子プロレスを見ていたかったんですけど。
――『崖のふちプロレス』に引き寄せられていったんですね。
大槻 仕掛け人は松本都選手ですけどね。あれはちょうど清水富美加騒動があったときで、都ちゃんがそこに乗ったわけですよ。彼女が天才すぎたからなのか、宗教戦争はあっという間に終わってしまったんですけども(笑)。
――もうちょっと続くのかなと思ってたんですけど。
大槻 もっと引っ張ったら何かとてつもない何かが生まれたかもしれないですけど、彼女は天才すぎるので次はラップに移っちゃいましたから。宗教からラップですよ?(笑)。
――ハハハハハハハ。大槻さんがおっしゃるように「プロレスと宗教」の組み合わせは危険なんですが、最近ではUWFを巡る議論が宗教戦争の様相を呈していたり。
大槻 ああ、『1984年のUWF』ね。
――『1984年のUWF』はお読みになったんですか?
大槻 もちろん読みましたよ! この本の表紙のイラストを描いた寺田克也さんから「本をあげる」と言われたんですけど、先に買っちゃいました。いろんな意見を聞きましたけど、これは宗教的熱狂についての本ですよね。著者の柳澤健さんに一度だけお会いしたことがあるんですが、著作から想像できない物腰の柔らかい方で。『パックインミュージック』について書かれた本(『1974年のサマークリスマス 林美雄とパックインミュージックの時代』)も面白く読んだんですけども。今回のUWF本に関して言えば、これは同じ意見の方も多いと思うんですが、前田日明、藤原喜明、佐山サトル……といった選手たちの話を聞かず、ターザン山本、堀辺正史の言葉をチョイスしたのがいかがなものかなと(笑)。
――ターザンや堀辺さんはとっても面白い2人ですけど、あの本の中では誰よりも信用できないですよね(笑)。
大槻 まあ柳澤さんが前田さんに話を聞いてもね、「おまえはUWFのことを何もわかっとらん!!」って怒られるだけだからね(笑)。前田さんを取材しなかったことは仕方ないと思うんですけどね。
――それは凄く想像できる光景ですねぇ。
大槻 もうひとつ。中井祐樹で締めくくるのは、いかんせん作為的ではなかろうか? ということは思いましたよね。本としてはメチャクチャ面白かったんですけど! やっぱりドキュメントやルポタージュと称されるものは、作ろうとした人の意図によって物語が流れていくものなんですよ。それは森達也さんもそう言ってますよね。
――ドキュメンタリーは嘘をつくってやつですね。森さんが撮った、佐村河内守さんを題材にした『FAKE』にも通底しているテーマでもあります。
大槻 ちょっと話が外れるんですけど、マンガ家・田中圭一さんの『うつヌケ』という本がありまして。内田樹さんとか鬱病を経験した人の話が載っていて、そこにはボクも出てくるんですよ。
――『うつヌケ』はかなり売れてますね。
大槻 かなり売れてます。そこからボクにも鬱に関する取材が来るようになりまして、じつは世の中には妙な『うつヌケ』プチバブルが訪れてるんですよ(笑)。
――『1984年のUWF』をきっかけに、どこもUWFを取り扱う状況と似てますね(笑)。
大槻 ただ、ひとつふたつだけ受けてその手の取材を断ってるんです。というのはね、たしかに『うつヌケ』は良書だし、興味深いテーマではあるんだけど。UWF本と同じで、あれは田中さんが考えた鬱の抜け方のレクチャー本なんです。「こういうふうに鬱が抜けられるんだ!!」っていう田中さんの信念が描かれてて、きっとご本人がそれを自己確認したかったんだと思う。ボクをはじめとする登場人物をその信念……いや、信仰にハメ込もうとしている部分が少なからずある。たとえば代々木忠監督。
――AV監督ですね。
大槻 代々木監督はスピリチュアルな方で、なんとお経を読み上げることで鬱を抜け出したと言ってるんです。でも、田中さんのマンガにはその言葉は出てくるんだけど、あまり話を広げないんです。代々木監督にはそこが一番重要だと思うんだけどね。
――田中さんの考えにはハマってないってことなんでしょうね。
大槻 おそらく田中さんには自分の『うつヌケ』信仰があるから、そこに誘導したいんですよ。『ううつヌケ』はとっても面白い本だし、UWF本も面白いんだけど、やはりそこにディレクターの思いが入っちゃってるということなんですよね。ある意味UWF本の中井さんは、ボクであり代々木監督なんでしょうね。
――大槻さんの考える鬱も違うわけですね。
大槻 ボクの『うつヌケ』の信念……信仰は田中さんとは違うから。なので『うつヌケ』プチバブルが起きているけど、鬱に関する取材を受けるのはやめておこうと。田中理論をボクは語れないから、ニーズに応えることはできない。でも、田中さんの本によって実際に鬱を抜ける人も多いと思いますけどね。柳沢さんのUWF本もすべて間違った歴史が書かれてるわけじゃないんですけど。
――だからこそ論争になるんでしょうね。
大槻 これからUWF史は柳澤健史観が優勢になるかもしれない。最近のプロレス格闘技界には増田俊也史観も気になるところですが。
――『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』の増田先生。
大槻 歴史は改竄されるとは言わないけど、書く人によって歴史は違って見えますから。これもずっと言ってることなんだけど、ロックの歴史も「はっぴいえんど」史観が支配していると思うんですよ。「はっぴいえんど」から音楽の歴史が語られることが多い。なぜかというと「はっぴいえんど」のリスナーにはテーマで書ける人や語れるといった識者が多いから。
――ファンからしても耳触りもいいんでしょうね。
大槻 その「はっぴいえんど」原理主義者(笑)は、ほかの歴史を消そうとする傾向があるように感じる。「はっぴいえんど」以外を聞いていた奴に対して、なんて言うんだろう、知的優越を感じる。その中で「そうじゃないんだ!」と戦う人もたまにいるんだけどね。伊藤政則さんとか。
――メタルゴッドの伊藤さん。
大槻 伊藤政則さんは「はっぴいえんど」史観の勢力強大な日本ロック界の中で、いかにメタルがロックを築き上げてきたかを熱く熱く語っていますよね。ただ、伊藤政則史観が主流になってもロック正史というわけではないだろうけど。
――かつてのプロレスでいえば、ヤオガチ論も含んだ原理主義者同士の争いが日常的でしたよね。
大槻 いまのファンには言ってもピンとこないだろうなあ。だってボクはリングスのヴォルク・ハンvsディック・フライもガチだと思ってましたよ! FMWの異種格闘技戦でさえガチが入り込んでるんじゃないか?と。大仁田厚vsベリチェフとかね。
――まさかの!
大槻 いやいや、信じてましたよ!「大仁田さんがなんでこんなに強いんだろう?」と不思議だったんですけど(笑)。
――大槻さんは物事を俯瞰して見ているイメージがありましたから、そんなガチ信仰は意外ですね。
大槻 いやいや、そんななもんでしたよ。強い信仰心がゆえにきちんと調べなかったんでしょうね。言われるがままに受け入れてしまっていた。みんなそうだったんですよ!
――ガチじゃないと発覚したときその信仰心はどうなったんですか?
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