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先月アクセスナンバーワン記事だった船木誠勝ロングインタビュー。なんと自伝における自らの証言を否定するという驚愕の内容となり、これまで語られてきたUWFやパンクラスの歴史の前提が覆ってしまったのだ。


――なぜ『1984年のUWF』で船木さんが「(新生UWFが)格闘技じゃないことに失望した」というように書かれているのかと言えば、先ほどお話した『船木誠勝の真実』からの引用でもあるんですね。『船木誠勝の真実』には「UWFの試合は自分が思っていたほど格闘技ではなかった」「UWFの試合はセメントをやってるのだと勘違いをしていた」と書かれてるんです。

船木 えっ、ホントですか?

――はい。『海人』にもそのように受け止められる記述がありますね。これは船木さんがしゃべられたんですよね?

船木 いや、それは絶対にないですね。UWFが思った以上に格闘技ぽかったので戸惑っていたんです。その本に書いてあることは間違いですね。

【検証「1984年のUWF」】船木誠勝「えっ、そんなことが書かれてるんですか? それは全然違いますよ」 http://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/ar1258245

いったいどういうことなのか――。

プロレス格闘技の取材の難しさをフリーライターの橋本宗洋氏に語ってもらいました。



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【検証「1984年のUWF」】船木誠勝「えっ、そんなことが書かれてるんですか? それは全然違いますよ」

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「斎藤文彦INTERVIEWS⑬」/『1984年のUWF』はサイテーの本!

『1984年のUWF』には描かれなかったリングスの実態……■金原弘光




――『1984年のUWF』絡みで船木誠勝選手を取材したんですけど、自分の自伝(『船木誠勝の真実』)について「こんなことは言ってない」と否定するという凄い展開になりまして。

橋本
 松本伊代が『オールナイトフジ』で自分の本を「初めて見た」と発言して以来の衝撃だね(笑)。でも、タレント本ではありがちなんだろうね。「取材は受けましたが、あとはどうなってるのか知りません……」という。

――じつはDropkickでは2014年にも船木選手は取材してるんですけど、そのときも自伝の内容と合ってないことがわかってたんですよ。

橋本 そのときはどうしたの?

――大きな声では言えないですが……まあ、よくあることなのでスルーしました。

橋本 ククククク。

――今回は取材テーマだった『1984年のUWF』が船木選手の自伝から引用していたので、確認しなきゃいけなかったんですけど。

橋本 まあ、そのときどきの選手の立ち位置や団体の事情によって言動もいろいろ変わってくるだろうしね。

――決して嘘をついてるわけじゃないんですよね。でも、自伝じゃないですか。お金を出して本を買った方は「こんなことでいいのか?」って怒っていたり。

橋本 まあそりゃそうなんだけど……。「嘘がまったくない、完全なノンフィクション」ってありえるのかって話にもなってくるしねぇ。今回の件は極端だけど。あとプロレスラー、格闘家の本ってどっかしら“盛ってる”ところはあると思うよ。記憶違いも含めて。

――そんな特殊なジャンルの取材経験が豊富な橋本さんとこの件についていろいろと話をしたいんですが、船木選手の否定発言はどう思われます?

橋本 こうなると、10年後にこの発言ですら覆る可能性もあるのかなって(笑)。

――10年後に取材します!(笑)。

橋本 でも、今回の「新生UWFはプロレスだと思って参加した」という証言は自然なのかなって感じはする。ボブ・バックランド戦でミサイルキックをやったりしたのは「プロレスであるならば……」ってことなんだろうし。

――プロレスラーがいきなり格闘技をやるって凄くハードルが高い時代ですし、新生UWFが格闘技をやるなら、前田日明も船木選手もお互いに確認しますよね。ところがしていない。

橋本 そういえば、UWF入りする際の話し合いで船木が前田に「じゃあ、俺はちゃんこ番をやらなくていいんですね?」と言ったって話を読んだことがあるよ。つまり一人前扱いしてくれることに惹かれたっていう。

――レスラーとしての扱いがどうだったか。

橋本 あと、これは新生UWFが分裂した後の『週刊プレイボーイ』で読んだのかな。U系3派の展望で、リングスにはプロレスの経験のないオランダ勢ファイターが多いし、格闘技的な方向に向かうだろうと。Uインターに関してはどんな記述かはおぼえていないんだけど、藤原組はプロレスのカラーが濃くなるだろうという予想が立てられていたはず。なんてったって職人・藤原喜明がボスだから。

――藤原組はメガネスーパーのプロレス団体SWSとも繋がっていましたしね。

橋本 でも、U系で一番早く全面的に格闘競技をやったのは、藤原組から派生したパンクラスだったわけでしょ。そのパンクラスの旗揚げ戦を見て「とんでもないことをやってくれたな!」と怒って現場で関係者に詰め寄った人がプロレス雑誌の編集長だったらしいけど(笑)。

――ええと、ターザン山本さんという方ですかね(笑)。


元パンクラス代表・尾崎允実インタビュー
あのターザン山本が近寄ってきて「おまえ、何をやったのかわかってるのか!?(怒)」って絡んできたんですよ……。
http://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/ar613256


橋本 その人の記事を読んで育った俺みたいなファンが「ついにパンクラスがやった!」と喜んでたんだから不思議な話ですよ。

――「UWFは真剣勝負をやれ!」とか煽っていたのに、実際にやったら怒るって意味不明ですよね(笑)。思ったんですが、それってターザンは自分たちの手でやりたかったんじゃないですかね。堀辺師範や更科(四郎)さんが新生UWFにやけに冷たいのは、すでに自分たちの影響下ではないからという印象がありますし。

橋本 あー、なるほどね。以前はUWFのブレーンだったわけだもんね。

――ターザンの話はともかく! この船木自伝の制作経緯を調べてみたんです。まずこの本はエンターブレイン(現KADOKAWA)から出版されていて、杉本喜公さんという元『週刊ゴング』の方がメインライター。本には「執筆協力」というかたちでクレジットが入っています。

橋本 要するに船木がしゃべったものを杉本さんがまとめたということか。

――エンターブレインにパンクラスのほうから「まだ書いていないことがある」と売り込みがあったそうですが、エンターブレインの担当者にどんな取材が行われていたのかを聞いてみたんですね。そうしたら「取材には同行していない」と。

橋本 じゃあエンターブレイン側は杉本さんもしくはパンクラスから送られてきた原稿をチェックするだけだったと。

――この杉本さんにも話を聞こうとしたんですけど、あくまで執筆協力ですから「書いたのは船木」って話になりますよね。杉本さんが書いたノンフィクションでもないですし。

橋本 ライターまで団体が用意したとすれば、船木ひとりだけの考えじゃない可能性もあるよね。パンクラスのオフィシャル本というか。

――「UWFに失望してパンクラスで格闘競技を……」というのは、選手やマスコミ、ファンみんなが
共有していた船木誠勝のストーリーですよね。

橋本 それが定説でしょ。でね、『1984年のUWF』はもの凄く時間をかけて作られてるけど、タレント本の類は2、3回メシでも食いながら話を聞いて、それをもとに作っちゃうケースもけっこうあるんだよね。で、取材時間が限られてるから、定説とされているものについてはイチイチ聞かない。



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