プロレスラーの壮絶な生き様を語るコラムが大好評! 元『週刊ゴング』編集長小佐野景浩の「プロレス歴史発見」――。今回のテーマは先日亡くなられた「永源遥」さん! イラストレーター・アカツキ@buchosenさんによる昭和プロレスあるある4コマ漫画「味のプロレス」出張版付きでお届けします!
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――小佐野さんが選考委員として参加された『東京スポーツ』選定のプロレス大賞が発表されました。今年の選考会議はどんな様子でしたか?
小佐野 今回は「アイツだ、いや、コイツだ」って揉めるようなことはなかったですね。
――無難な受賞結果という反応が多いですね。
小佐野 MVPにノミネートされたのは新日本の選手、ベストバウトは新日本で行なわれた試合だけだったんですけども。それは結局、新日本を軸に回ってるという日本のプロレス界の現状ですよね。他団体の選手も頑張ってはいるんですけど……。
――『東スポ』のプロレス大賞のひとつの基準に話題性というものがありますね。
小佐野 たとえば去年のプロレス界には天龍源一郎の引退という大きなニュースがありましたよね。天龍さんの引退試合となったオカダ・カズチカ戦が年間最高試合に選ばれたことに対して「なぜだ?」という声がありましたけども、レインメーカー流に言えば、金の雨を降らせるかどうかだと思うんです。
――天龍さんの引退は、プロレス界に金の雨が振らせましたねぇ。
小佐野 そうなんですよ。去年のMVPはオカダ・カズチカでしたけど、私はそういう視点から天龍さんをMVPに推したんです。だって去年のプロレス界に一番、金の雨を降らしたのは天龍さんですから。マスコミ各社は潤ったし、お客さんもたくさん入った。
――その天龍さんがレインメーカーと引退試合というのは面白いですね(笑)。
小佐野 どんなに素晴らしいレスラーでも、業界に経済効果を生んでこそ初めてその年の顔だろう、と。そうすると今年のMVPに選ばれた内藤哲也はプロレス界で話題を集め、グッズをたくさん売り、『週刊プロレス』の表紙を飾った数が一番多かった。
――MVPは文句なしに内藤選手なんですね。去年は該当者なしだったことが賛否を呼んだ新人賞ですが、今年は仙女の橋本千紘選手が選ばれました。
小佐野 新人賞の基準も難しい時代になってきてますねぇ。いかにも新人っぽい選手もいれば、新人離れした凄い選手もいるんですけど。新人賞の規定はデビューしてから3年まで。いまのプロレス界だと3年もあればメインで試合ができる選手もいるから、そうすると新人賞の範疇じゃなくなることもありえる。
――今年新人賞の橋本選手も来年だと新人賞には似合わないかもですね。
小佐野 橋本選手はそれこそ今年の女子プロレス大賞でもおかしくなかったわけですよね。昔の新日本・全日本・国際プロレスの3団体の時代の頃は、キャリア3年だとまだまだ前座の若手でしたから。
――時代とともにプロレスのありかたが変わるようにプロレス大賞も変わっていくんでしょうね。
小佐野 そのときの選考委員の感覚で変わっていくんじゃないですかね。いまは価値観がひとつじゃないですからね。
――昔のMVPなんかは猪木さんか、馬場さんかの二択だったわけですもんね。
小佐野 あの時代で画期的だったのはタイガーマスクがMVPを獲ったことなんですよ。馬場・猪木以外でMVPを初めて獲ったのがタイガーマスク。
――鶴田さんや長州さん、天龍さんではなくジュニアヘビー級のタイガーマスク。
小佐野 長州さんがMVPを獲ったことは一度もないんですよね。天龍さんは天龍革命前後に3年連続で獲ったんですけど。86、87、88年。たしか3年連続は猪木さんと天龍さんだけかな。
――3年連続っておかしなことやってますね(笑)。それで今回は、先日急逝した永源遥さんのことについて聞かせてください。
小佐野 永源さんが亡くなったのは11月28日のことですよね。私が永源さんと最後に会ったのは23日のNOAH後楽園ホール。そこで挨拶したのが最後でしたねぇ。
――サウナで倒れたそうですけど、突然の訃報だったんですね……。
小佐野 その日も普通にNOAHの事務所に姿を見せていて、午後2時くらいに帰られて、その帰り道に寄ったサウナで倒れてという。最初は自宅のお風呂で……という報道もありましたけど。
――お風呂やサウナの死亡例は増えてますねぇ。
小佐野 西城秀樹もサウナで倒れたよね。ホント怖いですよ。昔は編集作業でよく徹夜したので、目を覚ますためにサウナの水風呂に入ってシャキッとして……なんてことをやってたけど。血圧が上がったり下がったりするわけですからねぇ。若い頃なら大丈夫なのかもしれないですけど。
――亡くなられた永源さんは、全日本やNOAHが興行をやるうえで欠かせない人物だったんですよね。
小佐野 永源さんは新日本時代からずっと興行に携わってましたね。タニマチが凄く多かったですし、レスラーとしては中堅でしたけど、地元の金沢を地盤にしてて。だからお葬式には元首相の森喜朗さんが参列してたんですね。
――元首相が来るくらいの大物だったんですねぇ。
小佐野 全日本プロレスが金沢で興行をやるときはいいカードが組まれてましたからね。必ずタイトルマッチをやってましたよ。
――新日本時代から存在感があったんですか?
小佐野 そうですね。なにしろ新日本で起きたクーデターの首謀者のひとりですから。
――猪木さんがいったんは社長の座を追われたクーデター。
小佐野 当時新日本の営業部長だった大塚(直樹)さんが会社のいろんな数字を見て「こんなにお客さんが入ってるのに、この経営状況はおかしい」ということで、永源さんや小鉄さんに相談したんです。
――新日本はアントンハイセルなどの事業失敗で経営が揺らいでましたね。
小佐野 そこに佐山(サトル)さんと佐山さんの個人マネージャーだったショージ・コンチャ、長州さんや藤波さんたちも加わったんですが、いろんな人間関係の中でそのうち足並みが揃わなくなって、佐山さんは引退してしまったり、大塚さんは会社を離れてジャパンプロレス設立に動くわけですね。
――しかし、やり手で有名な大塚さんが相談したのが永源さんだった時点で面白いですね。
小佐野 ジャパンプロレスの資金を用意した竹田(勝司)さんはもともと永源さんの知り合いだったりしますからね。
――あ、そうだったんですか!
小佐野 竹田さんは永源さんと繋がりから新日本のことも応援していたんですよ。そこまで各方面に顔が利くから大塚さんも相談したんだろうし。永源さんも自分で興行をやってるから、どれだけ会社が儲かってるかわかりますし、「新日本はこのままではいかんだろ」って思ったんでしょうね。
――永源さんがいなかったらジャパンプロレスは生まれなかったということですか?
小佐野 いや、その頃になれば永源さんがいなくても、竹田さんと大塚さんは繋がっていましたから。竹田さんは藤波さんとも親しかったんですよね。
――だから藤波さんも離脱濃厚と噂されて。
小佐野 結局藤波さんは新日本を離脱しませんでしたけど。永源さんのお葬式には藤波さん、カブキさん、北沢(幹之)さん、坂口さん、大塚さん、竹田さんも来てまして、プロレス関係ではこの人たちが棺を担ぎましたね。そこには当時、裏切られた側の坂口さんも混じってるという。
――NOAH勢は棺を担がなかったんですね。
小佐野 そこは諸先輩方に遠慮したんだと思う。NOAHのレスラーはみんなお葬式には来てましたけどね。
――お話を聞くかぎり、永源さんは中堅レスラー以上の存在感があったんですね。
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