伝説のプロレス団体UWFインターナショナルでデビューして、キングダム、リングス、PRIDEと渡り歩いた日本格闘技の生き証人金原弘光が格闘技界黎明期を振りかえる連載インタビュー。今回は「現代から見るアントニオ猪木vsモハメド・アリ」「異種格闘技戦」「ムエタイ八百長現場の衝撃」「道場のポリスマン」など!
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http://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/ar1027358
――モハメド・アリさんがお亡くなりになったことを受けて、40年前に行なわれた猪木さんとの異種格闘技戦が地上波で再放送されました。
金原 この試合をちゃんと見たのは初めてなんだよね。総合格闘技が確立されたいまだと「猪木さんはタックルしてテイクダウンすればいいじゃないか」って見方はできるけど。当時はこういう試合はやってことがないから、そんな発想がなかったと思うんだよね。
――戦略がなかったんですね。セコンドの(カール・)ゴッチさんのアドバイスも具体的ではなかったですし。
金原 当時は誰もこんな試合をやったことないから、わからないんだろうね。いまだと「vsボクサー」なら、パンチに合わせてタックルに入ればいいじゃないかってなるんだけど。試合後の猪木さんはリング上で「一歩踏み出せなかった」って感想を漏らしていたけど、ヘビー級のボクサーを掴みに行くのは怖いんだよ。
――当時はヘビー級ボクサーの幻想がとてつもなく大きいから「一発当たったら……」という怖さがあったでしょうし。
金原 ホントそうだよ。いまは先人たちがいろんな経験をしてきたことでボクサー対策が練られてるけど、当時は明確なボクサー対策はなかった。Uインターで高田(延彦)さんとトレーバー・バービック(元WBC世界ヘビー級チャンピオン)とやったときもそうだったよ。一発でもパンチをもらったら、倒されるんじゃないか……って。
――90年代前半でもそういう認識なんですね。
金原 まあヘビー級のチャンピオンのパンチは一発当たったら危ないんだけど。高田さんがバービック対策でヘビー級ランキング4位か5位の選手をスパーリングパートナーとして呼んだんですよ。スパーをやったらボディブロー1発で高田さんの肋骨が折れちゃって。
――よけいに警戒感が増しますよね。
金原 バービックが来日して渋谷のボクシングジムで練習したんだけど。バービックがサンドバックを叩いたら、鎖がちぎれたというからね。そんな話を聞いたら高田さんも掴みに行きづらいでしょ。ボクサーとやったことある人がほとんどいなかったし、攻略するのが大変な時代だったということだよね。
――ボクサー相手のタックルは「コロンブスの卵」だったという。
金原 パンチで打ち合わない、距離を取る。そうなるとローキックで散らすしかない。
――そう考えると猪木さんの戦い方は現実的ですよね
金原 あの戦い方が一番安全だよ。猪木vsアリはルールを発表していないから、スタンドで蹴っちゃいけなかったのか、そのへんがわからないけど。
――ルールがかんじがらめじゃなくても、猪木さんはあのスタイルを選択してたかもしれませんね。
金原 猪木さんに「タックルをやればよかった」と言うなら、アリもいまなら「相手の足を掴んで振って、パスもできるし、パウンドを入れられる」ってなるでしょ?
――ああ、アリ側にも現代MMA視点で見られると。アリは猪木さんの足を持って蹴りを入れてましたよね。桜庭vsホイス戦みたいに。
金原 あれはとっさにやったんだろうけど。あの頃の技術では、猪木さんもアリも一番ベストな戦いだと思うよ。ロープブレイクがあるから、猪木さんが勝つにはスタンドでバックを取ってチョークを極めるとかくらいしかなかったんだけど。
――この試合って何につけても諸説入りじまっていて面白いんですよね。猪木さん側は「アリは4オンスグローブを使ってた」というんですけど、とてもそうは見えないですし。
金原 総合のオープンフィンガーグローブはもっと薄いよね。一番最初にあのグローブを使ったときって「こんな小さなグローブで殴りあうのか……」って怖かったもんだよ。だっていままで掌底でやってきたわけでしょ。薄いグローブだと、両腕で顔をガードをしたってパンチが入ってくるんだよね。だから最初は怖かった。それは経験がなかったから。
――そこも「経験」なんですね。
金原 そう。経験がないから「殴られたら痛いんじゃないか?」と怖くなる。スパーリングをやるときはボクシンググローブでやるけど、オープンフィンガーグローブは怖くてできないから、殴られたらどれくらいの痛さなのかわかんなかったし。
――アリのジャブを食らった猪木さんが「グローブの中を石膏で固めていた」ってありえない指摘したのは、パンチを浴びた体験がなかったからからともいえますね。
金原 小さいグローブって外傷があるんだけど、脳のダメージは大きくないんだよね。大きいグローブは外傷はないんだけど、脳に来る。
――脳が揺れるってやつですね。猪木さんってあの試合が「格闘技のデビュー戦」だったじゃないですか。そのわりには動きがいいですよね。プロレスラーのMMAデビュー戦の中でも一番センスを感じるというか(笑)。
金原 いい身体してるよね。筋肉のつき方もいいし、無駄な肉もなくて、バランスのいいアスリートの身体。そうだ、俺が新日本のプロレス学校に通ってる頃さ、山本小鉄さんがいろんな話をしてくれたんだけど。猪木さんとアリの試合も振り返ってくれて。
――おお! それは貴重ですね。
金原 小鉄さんは「アリのバックにはマフィアがいるから、新日本サイドが脅された」と言うんだよね。「アリに何かあればただじゃすまないぞ」と凄く言われてたと。
――アリは1試合で何億も稼ぐ「金の卵」ですもんねぇ。猪木さんが一度だけアリの上になったときにアリ側のセコンドが乱入しかけましたけど。何かあったら試合を壊そうとはしてたでしょうね。
金原 「おまえらはつまらない試合だったと思うけど、裏ではマフィアがな……いつセコンドたちが乱入してくるかわからないし、とんでもない緊迫感だった」と。ラウンドインターバルのゴングが鳴ったときに、小鉄さんが毎回猪木さんの前に出て行く。それは「ライフルで狙ってる奴がいるから俺が猪木さんの盾になった」と言うんだよね。
――試合中に狙撃!! そんな馬鹿な!(笑)。
金原 それくらい殺伐としてたんだって。ゴングが鳴るたびに弾が飛んでこないようにしてたと。アリは何億も稼ぐ男。そんな人間に何かあったらマフィアが黙ってないんだろうし、それくらいモハメッド・アリって凄い存在なんだよね。猪木さんってほかにボクサーと異種格闘技戦をやったんだっけ?
――チャック・ウエップナーやレオン・スピンクスとやりましたけど、アリ戦とは違ってプロレス内異種格闘技戦ですね。競技としてやったのは、猪木さん以外では……。
金原 TさんがUインターのときボクサーとやったよね。
金原 あと船木(誠勝)さんとロベルト・デュラン。
――ありました!(笑)。
金原 船木さんがタックルを入れまくっていたでしょ。あのへんからボクサー攻略が完成したよね。ボクサーはタックルが有効なんだけど、モリース・スミスとかキックボクサーはタックルを切るようになっていったじゃん。
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