小飼弾です。ブロマガをお届けいたします。
200 Any Questions OK
Q. ヒットの条件
『エヴァ』、『まどマギ』、『進撃の巨人』、『半沢直樹』、『あまちゃん』、『パシフィック・リム』(はちょっと限定的ですが)など、ヒット作のヒットの理由は色々あると思いますが、小飼さんが考える「ヒットの条件」がありましたらお聞きしてみたいです。
A. おふくろの味2013
もう答え書いちゃいましたが、「おふくろの味2013」が一体何を意味するかを披露する前に、補題を考えていただきましょうか?
Lemma. なぜ物語の主人公は中高生ばかりなのか?
質問にある作品のうち、「パシフィック・リム」と「半沢直樹」を除けば、これにほぼ該当します。エレンやあまちゃんは厳密には中高生ではありませんが、年代は一緒ですし訓練兵団もまあ一種の全寮制の学校。マンガやライトノベルのミリオンセラーの世界では、中高生以外の主人公を探すのが困難なぐらいです。英語圏では日本よりは大人の主人公は増えはしますが、ルーク・スカイウォーカーにハリー・ポッターという具合で、中高生人気が高いのは同様です。
ティーンエイジャーしばりがどれだけきついかは、「ガンダム」を一目見れば瞭然です。普通自動車免許もとれないティーンエイジャーたちが、それよりはるかに操作が難しそうなモビルスーツをひょいひょい動かしている。リアリティを求めるのであれば「ニュータイプ」って設定をわざわざつくるより、素直にアラサーアラフォーにしておいた方がよさそうなのに。
まあそれを言えば「クルマより簡単に盗める」という答えを返しそうにはなってしまいますが。ケータイにすら指紋ロックが、ユンボにすら盗難防止用のGPSが搭載されている21世紀人には、宇宙世紀人のセキュリティ感覚がいまひとつ理解できないところです。
話がそれました。なぜ物語の主人公は中高生ばかりなのでしょう?
そういう物語を見たり読んだりするのが中高生だから?
いやいや、人口で見ても財力で見ても、先進国において彼らが主たる購買者にはなりえません。作品のリアリティを犠牲にしてでも避けられてしまうオバサンオジサンたちが買ってくれないと、ミリオンセラーに手が届くわけがありません。
ということは、中高生な主人公を望んでいるのは、実はオバサンオジサンだということになります。
なぜでしょう?
彼らも中高生だったからです。
99%の正常と1%の異常
「中高生のための文章読本」は、よい文章を以下のように定義しています。
- 自分にしか書けないことを
- だれが読んでもわかるように書いた文章
一般化すれば、よい作品とは
- 自分にしか創造できないことを
- 誰が視聴してもわかるように表現した作品
ということになります。"Creation"だとか「創造」という言葉をきくと、つい1.ばかり優先させがちなのですが、作品がブレイクするにあたっては、2.の方がずっとずっとずっと重要なのです。どれくらい重要かといえば、
名作は99%の正常と1%の異常からなる
と言いたくなるぐらいです。作品の大部分は読者がすでに知っていることで出来ていなければ、読者にとってしょっぱいだけの作品になってしまうのです。
なぜブレイクを標榜する作品が中高生をえこひいきするかの理由が、ここにあります。日本において高校生までは、体験していることを前提にできるのです。中卒の私のような例外もありますが、九割の潜在読者は「だいたいそんな感じ」をすでに体験しているのです。これを利用しない手はありません。
社会人を主人公にすると、そうは行かなくなります。ホームレスからビリオネアまで全ての「科目」を「制覇」した「社会人」などどこにも存在しない以上、主人公を理解するには主人公の社会をまず作中で説明しなければなりません。つまり「前菜」が必要なコース料理になってしまうということであり、カレーやラーメンのように単品で完結する「定食」とはなりにくいのです。ヒットを狙うにあたって、これはかなりの不利になります。
もちろん例外がないわけではありません。「動物のお医者さん」に「おたんこナース」を経て「チャンネルはそのまま」に至る佐々木倫子などその代表ですが、それですら元の質問に出て来た作品に比肩するほどのヒットとなると「動物のお医者さん」のみとなるでしょう。
百姓貴族な荒川弘ですら、その体験を雌牛一人称で語るより「銀の匙」を錬成した方が売れることを鑑みれば、中高生しばりというフォーマットがチート級の有効策であることは疑いようがありません。
作品をブレイクさせたかったら、まずは常識を身につけよ、ということです。
花より男子女子
念のため、「中高生しばり」から小学生が抜けている理由も補足しておきます。
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