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篠塚恭一:地方に温かいお金の流れを ── 高齢者大国の前線から(13)

2014/11/24 10:16 投稿

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  • 篠塚恭一
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八戸市に新しいトラベルヘルパーセンターが開設されたので訪ねてきた。

だいぶ昔のことになるが、青森の遅い春、桜の頃から新緑の初夏を越え、紅葉に染まる十和田の季節まで、楽しい旅をした思い出がある。まだ、新幹線も全線は開通しておらず、一関あたりからバスで北上する長いみちのくルートには、独特の語りをするバスガイドの名調子がとても暖かだったことを覚えている。

今回、起業したセンターの主もそんな地元の若い夫婦で、公職をリタイアしたばかりという親も手伝い、一家をあげての門出となった。

まずは暮らしの安定のために公的制度で行う居宅支援とデイサービスを事業の柱に据えたが、それだけではどこもできるモデルだから、後発参入の民間介護事業者としては弱い。そこで、主人自ら全国を旅して回り、さまざまな地域の成功事例を研究し、一年の準備期間を経て、介護ロボットやカルチャー教室、さらに旅の要素を事業に取り入れることでサービスの違いをみせる計画に仕上げた。

これが先に行われた秋田県のベンチャープランコンテストでみごと最優秀賞を獲得し、知事のバックアップを取り付けての開所となった。

八戸市の高齢化率は24%強。県内ではまだ低い方だが、全国平均は上回る典型的な地方都市だ。製紙工場などの大企業があるが、昔ながらの漁業も盛んなことから、古くから北東北の海運の要衝として栄えてきた。

ところが東北新幹線が全線開通すると、東京からわずか三時間足らずで行けるのにそうした地の利は地元とビジネス客くらいにしか知られていない様子だ。そこで、まちが力を合わせて、自慢の「せんべい汁」を目玉にB-1グランプリを仕掛けて、ご当地グルメ発祥の地として今では全国に名を広めている。

しかし、それでもまだ仕事が足りないというのが現実である。

少子高齢化が進む地域では介護とともに雇用を支える柱として観光への期待が大きい。

しかし、介護のような安定した事業に比べれば、気候や景気に左右される観光は不安定で頼りないという。ましてこれまでに観光が相手にしてきたのは、お金と健康のある人ばかりだったから、健康に不安をかかえる高齢者は客ではないと思い込んでいる。

しかし、先の起業家夫妻のように、発想を変え、地域の困りごとを解決するような小さな仕事を集め、不安定な要素を補い、合わせ技で一本取ろうという知恵も生まれている。

高齢化という地域の課題を我が事と捉え、自らリスクをとることで覚悟が決まり、目線を上げれば見えるものが変わってきたという。

この日、小さな施設に入りきれないほどの人が集まった。

地元の魅力を見直し、健康に不安を抱えた高齢者を対象にビジターを受け入れ、観光でも稼ごうという貪欲な取り組みは、地元で介護を支える人たちの期待も高いことがわかっただろう。

とはいえ起業家が成功する確率は千に一つというから本当の苦労はこれからだ。それでも集う人の顔は一様に明るく希望に満ちていた。

もともと、八戸はバリアフリー観光に取り組む地域として以前から情報発信をしていた。今回、実際に歩いてみると有名な観光名所だけでなく、陸奥湊の駅前朝市など、素朴で魅力的な場所をすぐに見つけることができた。

都会の施設に預けられた年寄りは、感染病を嫌って、鮨や刺身など、生ものなど食べさせてもらえないところが多い。だから、施設に暮らす年寄りは、新鮮な海の幸に目がない。

トラベル懇話会が要介護者向けにも割引運賃制度の検討をと政策提言に盛り込んでくれた。今後さらに北陸新幹線や北海道新幹線が整備され、新たな人の流れが生まれる。

人の流れの変化は、情報の流れを変え、お金の流れも変えていく。

温かい情報とともに地方に温かいお金の流れを観光で創っていきたいと思った。


【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。



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