今回扱うのは、第三十段。冒頭部分を紹介すると…眞乘院に、盛親僧都(じょうしんそうず)とて、やんごとなき智者ありけり。芋頭(いもがしら)といふ物を好みて、多く食ひけり。談義の座にても、大きなる鉢にうづたかく盛りて、膝もとにおきつゝ、食ひながら書をも讀みけり。煩ふ事あるには、七日(なぬか)、二七日(ふたなぬか)など、療治とて籠り居て、思ふやうによき芋頭を選びて、ことに多く食ひて、萬の病をいやしけり。人に食はすることなし。たゞ一人のみぞ食ひける。仁和寺・眞乘院の盛親僧都という人の話。冒頭から「やんごとなき智者」という、最大級の賛辞で紹介されているのだが、なぜだかこの人が「やんごとなき智者」であることを表す具体的な話はその後一切登場しない。出てくる話は、どう見ても奇行としか言いようのないエピソードばかり。それでも奇人変人ではなく、「やんごとなき智者」なのだという。逆に、これだけの奇行をしていても人々に一目置かれているということ自体が「やんごとなき智者」の証なのか?なんとも不思議な印象を残す一段。
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