政府の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)対策本部が今月23日からの交渉参加を前に実施していた意見募集が、17日の17時に締め切られました。この意見募集は主に団体を対象としたものですが、個別の問い合わせに対して事務局より「個人でも提出可能」とする回答があったとの報告が相次いだことから個人で意見を提出した人も多かったようです。
17日までにインターネット上で公表されている団体や個人の意見は報道で大きく取り上げられている農業や社会保障、食品安全などの分野だけでなく、現在の交渉参加国間で意見の対立が激しく協議がほとんど進展していないと見られている知的財産分野。これに対する論点に対する意見の提出が目立っています。その背景には、9日付けの日本経済新聞で政府が著作権保護期間延長・著作権侵害の非親告罪化・懲罰的賠償制度の導入を受け入れる方針と報じられた1件があります。甘利明経済財政担当大臣は当日の定例記者会見で「報道された内容について決定している事実はない」と否定。しかし「火のない所に煙は立たず」で、米国の強硬な主張の“丸呑み”を画策している勢力が政府内に存在するのではないか、という危機感が広まったことが大きく影響していると見られます。
実際、交渉参加国の中でもカナダやニュージーランド、マレーシア、ベトナムは米国やオーストラリアと著作権や特許権の強化をめぐって激しく対立。そんな中で日本が日経で報道された通りの“手土産”を携えて交渉に参加しても「日本は米豪とグルだ」とみなされて他の参加国と別の分野で連携しようにも上手くいかないということが大いに予想されます。
それに、団体・個人を問わずインターネット上で公開されている提出意見のほとんど全てが指摘しているように、一律・無条件の著作権保護期間延長は現在でも大きな知財分野の貿易赤字を天文学的数字に膨れ上がらせることが確実視されています。
のみならず、権利所在不明の著作物を大量発生させて権利者の捜索に費やされるコストの増大を招くだけで、ごく少数(2%弱)の長命なコンテンツの収益増加というメリットに比較してデメリットの方が圧倒的に大きいのは疑うべくもありません。
また、日経の記事では触れられていなかった戦時加算の問題も、米国やオーストラリアに対してバーターを持ちかけようにも、元から著作権保護期間が日本と同水準のカナダやニュージーランドには譲歩する理由がないので、結果的にバーター不成立で日本だけが一方的に損をするという事態も起こり得る可能性があります。
今回実施された意見募集は行政手続法に規定されたパブリックコメントではなく任意の意見募集とされていますが、政府には報道で大きく取り上げられている農業や社会保障、食品安全の分野だけでなく知財分野にもこれだけ多くの重大な懸念が寄せられている事実を直視すべきでしょう。
また、知財分野で強硬な主張を繰り返している米国では今年3月にパランテ著作権局長が異例の「保護期間短縮」に踏み込んだ著作権法の全面改正を提言したことが国内外の大きな注目を集めています。政府は提出意見と合わせてこれらの重要なサインをしっかりと受け止め、自由貿易に名を借りた横暴な要求に対しては理路整然と「No」を突き付ける態度が求められていることを認識して交渉に当たるべきでしょう。
thinkTPPIP:TPP政府対策本部(内閣官房)への意見提出
http://thinktppip.jp/?p=196
内閣官房TPP政府対策本部にTPP交渉に関する意見を提出しました(クリエイティブ・コモンズ・ジャパン)
http://creativecommons.jp/weblog/2013/07/4996/
内閣官房TPP政府対策本部に「日本のTPP交渉参加に関する意見」を提出しました(インターネットユーザー協会)
http://miau.jp/1374030461.phtml
画像:『TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム』のトップページ
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