今回はメカAGさんのブログ『疑似科学ニュース』からご寄稿いただきました。
■日本の労働生産性は悪いのか?
「企業に体罰を与えれば良くなるのか?」 2013年02月01日 『メカAG』
http://mechag.asks.jp/
よく日本の労働生産性は諸外国に比べてあまり良くないという。それをもってまるで日本人の働き方が非効率だという主張が少なくない。しかし労働生産性が低いことと、働き方が非効率なことは別なことだ。
まず一般に製造業などの労働生産性は高く、小売業やサービス業の労働生産性は低い。日本は後者の比率が高いので、そうでない国と比べれば必然的に全体の労働生産性は低くなる。しかしそれは日本の国の産業の配分の特性であって、別に日本人が怠けているわけではない。
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しかし小売業やサービス業だけを比べても、日本の労働生産性はあまり高くない。それ見たことか!やっぱり日本人は怠け者で非効率なんだ!と早合点しないでほしい。
そもそも労働生産性とは何か?基本的に付加価値を労働者数で割ったものだ。つまり労働者一人が生み出した付加価値が労働生産性。それ見たことか!やっぱり日本人は付加価値を生み出すのが不得意なんだ!と早合点(ry
付加価値とはなんだろうか? 80円で仕入れたものを100円で売る。この時の差額20円が付加価値だ。20円の中にはその店の利益のほか、光熱費や人件費、家賃などが含まれている。
つまり付加価値の中には人件費(労働者の給料)が含まれているのだ。この点、わりと誤解している人が多いのではなかろうか。
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80円で仕入れたものを、労働者を安い給料で働かせて、90円で売れば、きっと沢山の人がその店で買うことだろう。100円の店で買うよりも安いのだから。
しかし90円で売っている店は10円の付加価値しか生み出していない。労働生産性は低いのだ。コストを切り詰めて安くすると労働生産性は低くなる。ちょっと言葉から受ける印象と違うのではないだろうか。
もちろん労働生産性とは労働者一人当たりが生み出した付加価値だから、コストの切り詰め方で変わってくる。上記は労働者数が同じで、一人あたりの給料を下げてコストを切り詰めた場合だ。一人あたりの給料は同じで、人数を減らした場合はまた違ってくる。
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製造業だと物を作っているから、生み出している付加価値はわかりやすい。しかし小売業やサービス業の場合、付加価値というのはしょせん客がどれだけそこに価値を見出すか?だ。客がそんな労働に高い金は払えないよといえば、付加価値を下げざるを得ない。
鉄板から自動車を作り出しているのが製造業の付加価値であり、問屋から80円で仕入れたものを100円で売って20円の付加価値を生み出しているのが小売業の付加価値。前者の方が労働生産性が高いのは当たり前。
製造業と違って小売業やサービス業の付加価値は、生み出した価値というよりも、客が認めた価値といえるのではなかろうか。まあ、根本的には製造業も同じはずだが、「物」の場合、国境を超えて輸出や輸入ができる。自動車の価値はどこに国でもさほど変わらないだろう。
ところが小売業やサービス業の場合、地域に密着しているから、たとえば「物を右から左に流して儲けるような卑しい商売に金なんて払えないね」という価値観の地域では、小売業やサービス業の付加価値は低くならざるをえない。
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こうして考えると、日本の小売業やサービス業の労働生産性が低いというのは、日本人が小売業やサービス業が生み出している価値(と彼らの給料)を低く評価していることの裏返しだと思う。
低く評価せざるを得ないのは、長年の不況とデフレのためだろう。そんなところに金は出せないということだ。バブルの頃は小売業やサービス業も金をかけていたと思う。安全・安心・親切・丁寧。金がかかってもクオリティが求められた。客が求めていた。
バブル以降はデフレによる価格破壊ブームで、そういうクオリティよりも安さの方が求められた。商品の説明もろくにできない店員、効率重視で無造作に商品を棚に並べたディスカウントショップが流行った。ファーストフード店は安いアルバイトの店員で済ませるし、ファミレスとかではドリンクバーとか客のセルフサービスが増えた。付加価値を圧縮せざるを得なくなったわけだ。
一方、労働者の人数がそれほど減らないのは、薄利多売の商売が多いからではなかろうか。人海戦術でとにかく売りまくる。売れる商品の数が店員の数に比例するなら、労働者の人数は多くして、ただし一人あたりの給料は減らすことで安く大量に商品を売った方が得策。でもそうすると数字の上では労働生産性は低くなってしまう。
またここで言う「価値」とはあくまで「価格」だから、いかにクオリティの高いサービスでも、それを格安で提供していれば、付加価値は低いことになってしまう。
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どうも労働生産性というと労働者の勤勉さみたいな印象を受けるが、異なる業種を比較しても意味がないし、背景の異なる国や地域を単純な数値だけ比較するのも適切ではない。
「労働生産性が悪い=怠け者、非効率、作業をせずタバコをプカプカ吸っている」というのとは、実態は真逆だと思うのだよね。確かに投入している人数に対して、儲けが少ないのはその通りだから、労働生産性の定義としては正しいのだが、そこから一般に連想される「もっと仕事を効率的にやりましょう、勤勉に働きましょう」みたいな改善案は、まったく意味を成さない。
改善の方向としては、景気が良くなり、客が付加価値の部分にもっと価値を認めるようになる(簡単にいえば客が贅沢になればいい)のが一番だと思うのだが、それが難しいとなると、そもそも現状の日本人は小売業やサービス業が生み出しているはずの価値を認めていないし期待もしていないわけだから、そういった産業は縮小し、製造業や農業などに比重を移すべきではなかろうか。
執筆: この記事はメカAGさんのブログ『疑似科学ニュース』からご寄稿いただきました。
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