Mother and Child

● 代理出産の問題点
オーストラリア人夫婦が、タイ人の代理母を使って産ませた赤ちゃんがダウン症だったために引き取らなかったとして、世界中で議論を呼んだ。

また、バンコクでは、日本人男性が所有するマンションから9人の乳幼児が保護された。他にも代理母を使って何人かの赤ちゃんを産ませていることも発覚した。

なぜ、タイで代理母の問題が注目されたのであろうか?

それは、代理出産がタイでは比較的自由にできること。医療技術が高く、医療費が安いこと。貧困層が多く、代理母を希望する女性が多いことなどが背景にある。また、タイは仏教国であり、人の役に立つ行為は功徳があると信じて代理母を希望するケースもあるという。

日本で代理出産が話題になったのは、女優の向井亜紀である。向井は子宮頸癌で子宮は全摘していた。卵巣は残していたために自身の卵子(がんの放射線治療のため質が落ちていたというが、奇跡的に3つが採卵できた)を使って、高田の精子と体外受精させることができた。

それをアメリカ人の代理母の胎内に移植したところ2つが着床し、2003年に双子の男児が誕生した。この双子は、高田と向井の両方と血縁があり、出産した米国人女性と子供たちの間には血縁はない。そこで夫妻は自分たちの実子として日本での出生届を出したが、日本の法律では「分娩者が母親」となるために、向井を母親とは記載できずに不受理となった。

夫妻は、出生届不受理決定を不服とし、そこから東京家裁(不受理)、東京高裁(受理)、最高裁(不受理)と戦い、米国の裁判所では高田・向井夫妻が実の両親と認められたものの、日本では2007年に夫妻の敗訴が確定した。結局2008年に家族は特別養子縁組を認められることなった。

子供がほしい夫婦にとって、代理出産という方法で子が得られるならばありがたいことだ。しかし、タイのケースは何かがおかしい。法律上はどうなっているのだろうか?

● 法律上の問題点
代理出産が議論になるのは、ひとつに法律の解釈上の問題がある。そもそも日本には代理出産に関する法律がない。

法律上、代理出産は禁止も許可もされていないのが現状。民法ができたのは100年以上前、明治時代のことで、当時は高度な生殖補助医療もDNA鑑定もなかった。

そのため最高裁は1962年、母と子の関係は「分娩の事実により発生」、つまり出産という事実によって成立するとの判断を示している。

民法は生殖補助医療を使った出産を想定しておらず、ずっと子どもを妊娠・出産した女性を「母」とすることが前提となっていた。最高裁は2007年にも、代理出産による子どもを実子とする届け出を認めない判決を出している。

国内では、日本産科婦人科学会が指針で禁じるだけで、公的な規制がない。厚生労働省の部会や日本学術会議が禁止を求める報告書をまとめてきたが、法制化には結び付かなかった。

一方、長野県の医師が、学会の指針を破り今年3月までに21組に実施。海外に渡る日本人も相次ぐ。最近は、米国より安価なタイやインドなどで依頼する日本人が増えているとみられる。

こうした中、自民党のプロジェクトチームが今年4月、「特定生殖補助医療法案」をまとめ、子宮がない、または病気で失った女性に限って代理出産を容認した。

代理出産などを海外で行う人が多く、「必要な治療を国内で安全に受けられるようにしたい」とプロジェクトチームは秋の臨時国会への法案提出を目指すが、プロジェクトチームの議論でも障害児の引き取り拒否の問題が指摘され、そもそも出産のリスクを他人に負わせることへの批判も根強い。

日本でも引き取り拒否の問題は今後も起こりうる。代理出産でダウン症の子を産んだからといって、その子を認知しないというケースはどうしても違和感がある。代理出産を認めるのであれば、依頼者を親権者として子への責任を持たせるのが合理的だろう。

● 倫理的な問題点
代理出産をめぐるトラブルは、これまでも世界各地で報告されている。生まれた子が病気で依頼者も代理母も引き取りを拒否。胎児に障害が見つかり依頼夫婦が代理母に中絶させた。代理母が子どもの引き渡しを拒否…などだ。

日本人が関係した例としても、2008年に日本人男性がインドで代理出産を依頼して生まれた女児に旅券が発給されず、数カ月間、帰国できなかったことがある。

商業的な代理出産では、依頼者が引き取りたくない場合に中絶を要件とする契約もあるとされ、倫理的な問題は多い。

日本医師会は倫理上の観点から基本的に代理出産を容認していない。厚生労働省・厚生科学審議会生殖補助医療部会も2003年、代理出産は「人を生殖の手段として扱うものであり、子どもの福祉の点からも望ましくない」などの理由から禁止すべきだと報告している。

しかし、海外には米国やインドをはじめ、代理出産が許容され、数多く実施されている国がある。日本では90年代初めから海外での代理出産を斡旋する業者が現れるようになり、こうした国での代理出産を仲介している。インドなどでは貧困層が代理母を引き受けて大きな問題になっているが、業者を介して海外の代理出産で子どもを得た日本人夫婦は100組を超えるともいわれる。

医療技術が進歩した結果、妊娠・出産、誰を「母」と認めるかなど、日本の民法が想定していない事態が生じている。こうした状況が今後も続くと考えられる以上、代理出産をどう取り扱うか、国会で議論してきちんと法律を整える必要性があるだろう。

● 代理母出産は最後の選択肢
最後にどうしても子が欲しい、そのために代理出産する夫婦の立場でまとめてみよう。

子宮がんで子宮を全摘した場合や、不妊治療が失敗に終わり最後の手段として、自分以外の女性(代理母)のお腹を借りて、妊娠・出産をしてもらう方法が代理出産である。

代理母出産には、2種類のものが存在している。

1.借り腹:夫の精子と、自分の卵子で受精卵を作り、それを第三者の子宮に着床させる。妊娠・出産してもらうのは、第三者。しかし、生まれてくる子供は夫婦と血が繋がっている。

2.狭い意味での代理母出産:夫の精子と第三者の卵子を使って受精卵を作り、第三者に生んでもらう方法を採った場合。この場合は、自分と生まれてくる子どもとの間には、血のつながりはない。

代理母出産には次のような、現実的な問題点がある。

1.原則的に国内では実施されていない: 特別養子制度を使うことで、日本でも代理母出産をすることができる。しかし、倫理上の観点から、医師会はこの方法を基本的には容認していない。米国やタイなど、この方法が数多く実施されている国に行くしかない。

2.心理的な抵抗: 自分の卵子を使うにせよ、第三者から提供してもらうにせよ、今までの価値観とは大きく異なる制度であることは事実。そのため、代理母出産に抵抗がある人も多い。夫婦が納得・希望している場合であっても、その周辺が強く反対するケースも珍しくない。

3.代理母が子どもに情を持ってしまう: 米国では、この問題が深刻化している。やはり自分の腹を痛めて産んだ赤ちゃんだから、どうしても情が移ってしまう。

4.代理母の問題: 黒人・貧困層など、お金に困っている人が代理母を引き受けているという現状もある。これも道徳的な観点から、大きな問題となっている。

5.情を持てるかどうか: 3とは逆に、生まれてきた子どもに対して、愛情を感じることができるかどうかも問題となる。

以上のように、数多くの問題がある制度だが、それでも、どうしても子供が生まれない。そんなカップルのため、最後に残された選択肢となっている。

Photo by John Spade https://www.flickr.com/photos/john-spade/8376954253/

※この記事はガジェ通ウェブライターの「なみたかし」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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