リーマンショックをきっかけに転落する富豪の姿を追ったドキュメンタリー『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』が8月16日(土)より公開となり、破天荒なセレブの暮らしぶりや、その密着ぶりが話題を呼んでいます。
本作は、不動産業で巨万の富を得たアメリカの大富豪シーゲル夫妻を描いた物語。100億円をかけてフロリダにベルサイユ宮殿を真似た全米最大の邸宅の建築を開始。本来映画はその大邸宅完成までを記録したドキュメンタリーとなるはずでした。ところが、突如襲ったリーマンショックで彼らは窮地に陥り、会社は大ピンチ、ベルサイユ宮殿の建築もとん挫して、夫婦は急転直下、転落の一途をたどることになってしまい……。
こちらの映画、もともとはドキュメンタリー作家のローレン・グリーンフィールド監督が、シーゲル夫妻のアメリカンドリームを記録するための企画。大豪邸の建設途中にリーマンショックが起こり、急遽転落していく姿を映像に収めたものなのです。監督がシーゲル夫妻に興味を持ったきっかけは? この夫妻のどんな所を面白いと思った? などなどコメントをご紹介いたします。
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Q1:シーゲル夫妻が豪邸を建築をしていることを何で知り、なぜ彼らのことを映画にしようと思ったのですか? 興味を惹かれた理由を教えて下さい。
監督:私がジャッキー・シーゲルと出会ったのは、2007年、ELLE誌のためにドナテラ・ヴェルサーチを写真撮影していた時でした。ジャッキーはその当時、ヴェルサーチの上客の一人で、洋服に100万ドルを使っていました。彼女は、とても社交的かつフレンドリーで、彼女の7人の子供たちが自家用機のタラップに立っている写真を私に見せてくれました。そして彼女の友人たちが、私がフロリダに行き、ジャッキーと子供たちの写真撮影することを提案したのです。
その後、ジャッキーからアメリカ最大の邸宅を建設していると聞いた時、私はその話に惹かれて、ぜひ家を見たいと思いました。家を持つことと、アメリカンドリーム、そしてそのアメリカンドリームが、好景気の間にどんどん大きくなっていく様、この三つの関係性に、私は長い間、興味を掻き立てられていたからです。ヴェルサーチの開店パーティの晩に、私が撮影したジャッキーと彼女の友人たちの金色のバッグの写真は、TIME誌によって「新・金メッキ時代」というタイトルとともに、「今年の一枚」に選ばれました。
映画を撮影しているさなかに金融危機が起こると、二人の性格のもっともっと魅力的な面が明らかになっていきました。デヴィッドは、億万長者であるにも関わらず、持っていたもの全てを自分の事業に賭け、彼の事業における最大の遺産、ラスベガスタワーを失います。ジャッキーは逆境に負けない人で、夫には彼らのライフスタイルをこれ以上続けられる資金がないかもしれないと思った時でも、夫に対し本物の愛情を示します。彼らの人生に起きたドラマティックな出来事によって、彼らの人格がより魅力的な形で浮彫りになったのです。
Q2:監督から見た大富豪夫妻の面白いと思った点と、疑問に思った点はどんな所ですか?
監督:デヴィッドとジャッキーの人生すべてに興味をそそられました。二人が貧しい生まれであることと、無一文から大富豪になったという物語が、皆が思う「普通」の億万長者より、もっと地に足がついた、親しみやすい存在にしているのです。
ジャッキーは信じられないくらい寛容で、心が広く、付き合いやすい女性です。デヴィッドの労働観や、事業や従業員に対するひたむきな献身ぶりは、尊敬に値します。しかし、二人はアメリカ最大の邸宅を建設するという計画を持ち、並外れた生活を送っていました。ほとんどの人が、常軌を逸していてやりすぎだと考えるような目標です。しかし、リーマンリョックや、財政的な苦労によって、彼らは現実の世界に呼び戻され、それがある意味、思いもよらなかった形で、彼らを共感できる存在にしたのです。
撮影で彼らを知るにつれ、本当に驚いたことがありました。一つはデヴィッドがラスベガスでではなく、自分の事業において、ギャンブラーだったということ。彼は10億ドル以上の大金を持っていましたが、6億ドルのラスベガスタワー(その当時、世界で最も高いタイムシェアのビルになる予定でした)建設に必要だったビジネスローンの、個人的な保証人になり、資産の全てを事業の成長に賭けたのです。
また私は、最初はジャッキーにも驚かされました。彼女は自家用機や豪邸を持ち、買い物三昧する億万長者の生活を愛しているように見えます、しかし、金融危機に見舞われると、家族を大事にする思いや、夫への愛が引き出されます。 私が思っていたほど、彼女にとってお金は重要ではなく、どんなことがあっても夫のそばにいるであろうことは明白でした。ジャッキーは自分にお金が無い時でも、困っている友人にお金を貸してあげていましたし、つらい時期も家族をまとめようと努力していました。ジャッキーもデヴィッドも、金融危機による厳しい日々を通じ、サバイバーとしての彼ら本来の姿を見せてくれたのです。
Q3:撮影中にリーマンショックが起こり、作品が当初の予定より変わることが予想されたと思いますが、正直「これはおもしろい」と思いましたか?
監督:金融危機が、シーゲル夫妻の計画や人生、財産に与えた影響は、撮影開始時には予想もしていなかった形で、映画の語り口にとって極めて重要なものとなりました。この映画はアメリカンドリームの研究として始まりました。しかし次第に、アメリカンドリームと、私たちが、国として、個人として、アメリカンドリームを追い求め、道を失っていく様を、深く探求するものへと変わっていきました。
しかし、私はそれを「笑える」ことだと言いたくはありません。この映画は、ベルサイユ建設計画についてのコメディとして始まりますが、デヴィッドとジャッキーが金融危機の圧力に対処していくにつれて、悲劇へと変化していきます。それは、家や夢を失うという現実に直面した、あらゆる社会経済レベルの家族たちと同じなのです。
Q4:聞きにくい質問ですが、映画公開後にシーゲル夫妻と裁判になったと伺っています。そのことはアメリカでどのような反響がありましたか?
監督:デヴィッドは映画祭の晩、私たちとサンダンス映画祭を名誉棄損で訴えました。この物語が、彼自身が言った言葉なのですが、「大金持ちの転落物語」だと報道をされたことに基づき、訴訟を起こしたのです。私たちは訴訟に勝ち、弁護士費用として75万ドルを勝ち取りました。判事はこの映画内の発言はすべて真実だと判断しましたし、実際すべて真実です。
デヴィッドによると、訴訟を起こした理由は、映画の最後で、彼の人生においてとてもつらい一章である、ラスベガスタワーを失う自分の姿を映っていることが、気に入らなかったためだからそうです。マスコミはこの訴訟を馬鹿げたものだと考え、そのように報道しました。マスコミや他の映画製作者は、最終的に私たちが裁判に勝ったこと、これが表現の自由の圧倒的な勝利でもあることを、とても喜んでいると思います。
Q5:この映画を日本のどのような人に見て欲しいと思いますか?
監督:『クィーン・オブ・ベルサイユ~』をアメリカで公開して分かったことは、この映画は幅広い観客、若者やお年寄り、お金持ちや貧しい人々、中産階級、あらゆる出身の人たちにアピールするということです。ユーモラスでありながら悲劇的であり、普遍的でありながら象徴的で、娯楽性がありながらためにもなります。金融危機や強欲さ、野心、そしてそれを引き起こした消費主義についての訓戒的な物語なのです。この作品はアメリカンドリームの美点と欠点の両方について語っています。しかし、金融危機が世界中に与えた影響から我々が学んだように、アメリカンドリームは、世界中で同じような例を持つどこにでもあるような夢なのです。日本の観客の皆さんにこの映画を楽しんでいただければと思います。
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