_2014_07_10_16.42.06

安倍首相のダボス会議でのスピーチ(今年1月)について、以前の記事(連載2)でもご紹介しました。

「既得権益の岩盤を打ち破る、ドリルの刃になるのだと、私は言ってきました。春先には、国家戦略特区が動き出します。向こう2年間、そこでは、いかなる既得権益といえども、私の『ドリル』から、無傷ではいられません。」

我が国には、これまで長い間「こんな規制はおかしい」「是正すべきだ」と言われながら、岩盤のように堅く維持されてきた、さまざまな「岩盤規制」があります。これらを、自ら「ドリルの刃」となって打ち砕くというのです。

2年でこれを実現できるならば、画期的なことと言ってよいでしょう。

以前の記事でも触れましたが、岩盤規制のある分野は、現状では大きくビジネスが制約されています。だからこそ、岩盤さえ打ち破られれば、新たなビジネスチャンスの宝庫にほかなりません。

http://getnews.jp/archives/620600

今回は、安倍首相のスピーチでも岩盤突破の起点として言及されている、「国家戦略特区」についてお話ししたいと思います。

「国家戦略特区」は、安倍内閣のもとで、昨年12月に新たに創設(法律制定)され、今年から本格稼働を始めた制度です。

私は実は、政府の国家戦略特区の制度設計・運用に関するワーキンググループの委員を務めており、関係者の一人でもあります。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/index.html

「国家戦略特区」とは何か……一言でいえば、「岩盤規制を打ち破るための仕掛け」です。

岩盤規制を打ち破ることは、容易ではありません。

以前の記事(連載1)でも触れましたが、既得権団体、族議員、官僚機構、マスコミが一緒になって反対するからです。

そこで有効なやり方は、いきなり一斉に規制撤廃・緩和を目指すのでなく、「まずは地域を限って実験的にやってみる。さらに、それで問題がなければ、拡大する」というステップを踏む戦術です。これが「特区」です。

「特区=規制改革の実験場」という考え方は、決して新しいものではありません。

2002年に小泉内閣のもとで、「構造改革特区」という制度が作られました。

10年以上前にことなので、記憶が薄れつつあるかもしれませんが、この制度は初期には大いに成果をあげました。例えば、農業への企業参入(ただし、リース方式に限る)が最初に解禁されたのは、構造改革特区においてでした。実験的にやってみたら特段問題はないということで、のちに全国展開されました。

「構造改革特区」は、実に秀逸な仕組みでした。

特に、意欲ある地方自治体が自ら提案して手をあげるという、「地方主導」の仕組みを組み込んだことは、中央集権的に定められた岩盤規制に穴をあける上で、画期的な仕組みだったと言えます。

しかし、この秀逸な仕組みは、初期には大いに機能発揮したものの、時を経るうちにマイナス面も生じてきます。

「地方主導」の裏返しとして、「国は受け身」(地方からの提案待ち)になってしまったのです。

そうなると、思い切った提案をした地方自治体は、強力な「反規制改革」勢力から目の敵にされ、陰に陽にいろいろな嫌がらせを受けかねません。

何年か経るうちに、大胆な提案がなされることは、ほとんどなくなってしまいました。

その結果、初期の一部の成果は除き、ほとんどの岩盤規制は手つかずのまま残ってしまったのです。

(なお、民主党政権のもとで「総合特区」という制度も設けられました。ここで詳しくは述べませんが、同様の問題があり、やはり「岩盤規制」に手をつけることはできませんでした。)

今回、新たに作られた「国家戦略特区」は、こうした過去の特区の成功と失敗を研究した上、今度こそ岩盤規制を打ち破ることのできるよう、仕組みを作り直したものです。

最大のポイントは、「国が受け身」にならないということです。

今回の特区でも、実験の担い手となる自治体や民間企業などからの提案を受け付けることは同じですが、その先のステップでは、総理と特区担当大臣の直属部隊が前面に出ます。

1)特区ごとに、国(特区担当大臣)・自治体・民間の三者で構成する「区域会議」(いわば特区ごとのミニ独立政府)を設け、

2)規制改革を進めるかどうかの決断は、最後は総理が決断して進める仕組み(「特区諮問会議」)としています。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/kokusentoc_gaiyo.pdf

思い切った提案をした自治体や民間企業などを、決して孤立させることなく、総理以下で全面的にバックアップしていくということなのです。

国家戦略特区は、今春、6つの区域(「東京圏」「関西圏」「新潟市」「養父市」「福岡市」「沖縄県」)が指定され、本格稼働を始めました。

しかし、「岩盤規制へのチャレンジ」は、まだまだこれからです。

今後2年間で、残されたすべて「岩盤」に本当にドリルで穴をあけられるのかどうか……ここからが正念場です。

これに向けて、今月から、自治体や民間企業からの提案募集がスタートしました(募集期間:7月18日から8月29日まで)。

6区域に限らず幅広く、実現すべき規制改革のアイディア等を募集するものです。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/boshu_h2607.html

特区で新たなビジネスチャンスに挑んでみようという民間企業の方々、地域で新しいチャレンジを試みようという自治体の方々などには、ぜひ、この提案への応募を検討されることをお勧めしたいと思います。

(株式会社政策工房代表取締役 原 英史)

●関連書籍
『日本人を縛りつける役所の掟 岩盤規制を打ち破れ』(7月1日刊行)では、岩盤規制の主要21分野について、それぞれの規制の内容、問題点、背後にある利権構造等を解説しています。
アベノミクスの行方に関心のある方、岩盤規制打破の先にあるビジネスチャンスに関心のある方にお薦めの一冊です。
http://www.amazon.co.jp/dp/4093897492

第1部 身近なところに潜む「役人の掟」

「道路運送法(タクシー規制)」「薬事法(薬のネット販売規制)「医師法(ワンコイン健診規制)」「食品衛生法(オフィス街の路上弁当販売規制)」ほか

第2部 成長産業の邪魔をする「役人の掟」

「農地法(農業への新規参入規制)」」「健康保険法(混合診療問題)」「社会福祉法(待機児童問題)」「電波法(電波オークション問題)」「労働者派遣法(日雇い派遣規制)」ほか

第3部 国家の仕組みを牛耳る「役人の掟」

「法人税法(税金タダの特権法人)「公職選挙法(若者の政治参加規制)」「道路整備特措法(高速道路の民間開放)」「国家公務員法(官僚の人事制度改革)」「地方公務員法(天下り規制)」ほか

■関連記事

連載:岩盤規制 – ガジェット通信

RSS情報:http://getnews.jp/archives/634670