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中二病化する現代社会(関東学院大学文学部 新井克弥)

2014/04/20 18:00 投稿

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中二病化する現代社会(関東学院大学文学部 新井克弥)

今回は新井 克弥さんのブログ『勝手にメディア社会論』からご寄稿いただきました。

■中二病化する現代社会(関東学院大学文学部 新井克弥)
「中二病」(「厨二病」とも書く)という言葉をご存知だろうか。1999年にタレントの伊集院光(ラジオ番組『伊集院光 深夜の馬鹿力』の中では『女医』伊集院光博士)が命名した「病名」(もちろん、学術的なものではない)で、中学二年になると発症するものをさす。「思春期特有の思想・行動・価値観が過剰に発現した病態」とされている。

この「病態」については様々な症例?が報告されているが、ざっくりとまとめてしまえば、「自己顕示欲が肥大化した状態」とまとめることができる。中二くらいになると、いわば世の中についてのある程度の認識が生まれ、それに対して自ら思考したり行動したりすることが出来るようになる。それまでと異なり、社会が見えたり、社会に対して批判的態度を取ったりということが可能になる能力の目覚めといいかえてもいいだろう。いわば「わかり頃」になったというわけだ。つまり感覚ではなく理屈で考えられるようになる。

ただし、この「わかり頃」は相対化されたものではない。社会に対して「物言う武器」を一つ獲得したに過ぎない。で、大人だったら、こういった理屈やスキルはあまたあるそれらの一つとして把握しているので、これを適切に運用することが出来るのだが、中二くらいだと、その武器は一つしかないし、しかもその武器が使えると思うと、これが翻って、自らが万能であるように錯覚するのである。このような心性は、具体的には理屈ばかりが先行する、つまり屁理屈ばかりのナマイキな言動、自らの主張を絶対化し、それ以外を認めようとしない閉鎖的な態度を結果する。まあ「青臭い」といえばわかりやすい。

こういった中二病は、伊集院博士によれば、いずれ自然治癒するといわれている。これは前述した文脈で言い換えれば、要するに自らの価値観や理屈やスキルがあまたあるそれらの一つでしかないことを認識し、それらが相対化されるからだ。

●中二病、子どもと大人ではどう違うか
ところが、これを大人になっても持ち続けるような人間が存在する。このことを伊集院博士は「中二病が邪気眼を発症する」と表現している。つまり慢性化するわけだが、こうなるとこれはいわば人格障害となり、コミュニケーションに支障を来し、しばし周囲に迷惑をかけるといった事態を引き起こす。

で、邪気眼化した大人は、中二病の子どもとは構造的にちょっと違うところがある。中二病の場合、単に新たな能力を獲得し、それに耽溺して万能と勘違いし、周りが見えていないだけ。だから、やがて周囲が見えるようになるとこの能力は相対化される。ところが邪気眼化した大人は自らが獲得した能力が万能ではないことを潜在的(つまり無意識裡、あるいは身体レベル)には知っている。というのも、それを振り回したところで社会的な反応を得られていないことを実社会の生活で嫌と言うほど思い知らされているからだ。つまり、使えないと知りながら使うと言うことは、いわば強迫神経症的な状態、使わないではいられないシチュエーションと言っていい。つまり、自分の能力を振り回すのは、それによって社会にコミットメントすると言うよりも、自らの社会性が否定されているのを抑圧しようとする心性に基づいている。

で、実は、こういった中二病=邪気眼の持ち主。現代社会ではどんどん増えているのではないか。

●ネット社会と中二病
現代社会は、やり方次第では、社会と直接的に対峙しないで済むような環境を構築することが可能になっている。たとえば、日常社会の中で他者との関わりを最小限に留め、もっぱらネットとか変わり続けるというようなライフスタイルを採るとする。この場合、中二病が固着化し邪気眼が発症する可能性が実に高いのだ。

インターネットは情報を自らの嗜好に合わせて収集していくことが可能だ。一つの事象について、インターネットは様々な視点からの情報、見解がばらまかれている。そして、原則、それらには価値づけ・順序づけといったものが含まれないスーパーフラットなもの。だから、その情報のチョイスと価値づけはユーザー側に委ねられている。となれば、ユーザーは任意に情報をパーソナライズし、自分だけの情報宇宙を構築可能なのだ。つまり白いものを黒とも赤とも青とも解釈することが可能になる。イーライ・パリサーはこういった、恣意的な情報の取捨選択を「フィルターバブル」と読んでいる(『閉じこもるインターネット』E.パリサー著、井口耕二訳、早川書房2012)。つまり、自分の認識が社会的にはおかしくても、ネット上の情報をカスタマイズすれば正当なものに化ける(理論武装する)ことが可能になってしまうのだ。

しかも、この「社会的には不適応、ネット上では適応」という状態を社会が肯定するようなインフラも構築されている。現代人の職務上の役割はシステム化され、その中に機械的にビルトインされている状態。いわば官僚制が隅々まで浸透している。こういった状況の中で労働する個人は、組織=システムの全体像が見えず、細分化された労働の一部=役割を専ら演じていれば収入・地位が確保されるという環境に置かれている。つまり、何らかのかたちでエキスパートになっていれば、それでよしというインフラが出来上がりつつある(もちろん、これは全てではない)。ならば、雇用される側も組織全体のことよりも、与えられた仕事のみをやっていればそれでよしとみなすわけだ。

ただし、これでは社会的に自らが能力があることを証明できない。そのエキスパートとしての能力は、一定組織内での「パーツ」の域を出ないからだ(M.ウェーバー言うところの「官僚制の逆機能」に該当する)。能力が組織、さらには社会全体にどう還元されているのかは不確かだ。やっぱり、自らの仕事が社会的に関わっているということの手応えが欲しい。そこで、実社会ではないヴァーチャル社会であるネット社会でフィルターバブルに基づいた価値観を振り回す。ネット環境はヴァーチャルゆえ関係は原則一期一会、しばしば匿名であったりもするので、リアルワールドに比べるとやりたい放題ということになる。まあ、絡まれた第三者側からすれば迷惑この上ないということになるのだが。

つまり中二病のまま社会に適応することが出来るようになっている。だからその慢性化状態である邪気眼を発症させる大人が多発するわけだ。ただし、前述したように、本当のところでは自らの能力が社会的に認知されてはいないということは知っている(収入を得ていると言うことと社会的に認知されているということは別の話なので)。これは実際のところ「労働の疎外」ということになるだろう。

●中二病を飼い慣らす
邪気眼化した中二病。これを「成人中二病」と読んでみよう。で、「こりゃ困ったもんだ、撲滅せねば!」と「けしからん」的なモノノイイでお茶を濁すのは簡単だ。ただし、そんなことを言ったところで何ら解決にならない。また、こういった成人中二病患者を更生・治癒するための制度を設けるというのもちょっとリアリティに欠ける。というのも、前述したようにネット社会が、こういった心性を受け入れるインフラをある程度構築しているのだから、おそらく、こういった「成人中二病患者」は今後も減少することなく漸増すると考えた方が正鵠を射ているからだ。そして、今後、情報化社会はジェネラリストと成人中二病患者という両極端なパーソナリティを量産していくと考えた方が、やはり正鵠を射ているからだ。情報アクセスの易化は、こういった情報格差(情報を横断的につなぎ合わせるエキスパートと限定的な情報にタコツボ的にはまり込むエキスパート)を作り出すのだから。

じゃあ、どうするべきか。いくつか処方箋を提示してみよう。

最も対処療法的なものは、中二病を煩っている人間から迷惑を被る人間が、これを察知し回避するというものだ。成人中二病の人間は潜在的に自らが認められたいという欲求を持っているが、それが自己顕示欲が肥大化した状態でこれを発するため、結果として相手を攻撃し、相手を引き下げ差異化を図ることによって相対的に自らの自己承認を獲得するというスタイルを採る。だから、成人中二病患者がこちらを攻撃してきたら、適当にスルーしつつコミュニケーションの場から離れることによって、少なくとも被害を回避できる。ただし、もちろん、これは成人中二病患者から被害を受ける側の話であって、患者それ自体を改善するというわけではない(まあ、する必要があるかどうかもわからないが)。

むしろ、こういった成人中二病を飼い慣らすインフラを作り上げることの方が重要だろう。言い換えれば、評価する価値観を多様化していくというようなシステムを社会が作り上げること。つまり「その中二病、十分使えますよ。あなた社会貢献してますよ」という実感を得られるような様々な評価基準と報酬を用意すること。そんなふうに僕は考える。

ちなみに、古くから、この成人中二病を組織として受け入れ、社会的地位も与え、そこそこの報酬も用意するという組織は、一部だが存在した。その典型は……「大学」。

執筆: この記事は新井 克弥さんのブログ『勝手にメディア社会論』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年04月17日時点のものです。

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