特許代筆業の違法性・・・STAP論文に見る社会の誤解(中部大学教授 武田邦彦)

今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

■特許代筆業の違法性・・・STAP論文に見る社会の誤解(中部大学教授 武田邦彦)
科学者や技術者は新しい発明をして、それが産業上の有意義だと思ったら、知的所有権(特許権)を主張できる。今回のSTAP細胞関係もおそらくは2013年の春ごろには理研は特許を出しているだろう。

特許を出願すると1年半で一般に公開されるので、いそいでNatureに論文を出したということと推定(今のところ推定)している。特許は複数出したと思うが、特許の発明者は執筆しないのが普通である。

特許になる発明が行われた場合、それを特許権として出願し知的所有権を持つために、弁理士が発明者のところにでむき、発明の内容やデータを聞き取り、発明からどの程度の「法律的に認められる権利」を主張できるかを判断し、「特許請求の範囲」を決める。

また博士論文の第一章に当たる「これまでの発明」についても、弁理士が書き、もし発明者が書く場合は、「実施例」と言われる実験の結果だけと言うことが多い。

だから、特許の名誉は発明者に与えられ、特許権にともなう収益は出願人(たとえば理研)だが、執筆者は別人で影の人である。というのは、特許権は冷酷なビジネスに関係するので、本人に書かせてまずい特許になる(請求範囲、つまり権利範囲が狭い)より、専門家が執筆する方が「得策」だからだ。

得になるならなんでもよい。先ほど非難していたこともコロッとひっくり返るなら、他人を批判することなどできないだろう。

つまり、この例でもわかるように、理系の発明、発見はその真なる部分を発見者が説明すれば、その結果を誰がまとめても同じであり、特許の場合で大きな組織なら組織内の専門家が、個人の場合などは「特許執筆業」に依頼しても何の倫理的な問題も起こらないのだ。

コピペより丸ごと執筆業に依頼するのだから、現在の日本のマスコミやネットで「科学者にあるまじき」という論調からいえば、とんでもないことだが、理系の発明は「事実」であり、文章などは「わかりやすいように説明する」と言うことだけだから、オリジナリティーも学問的価値もない。

それではある研究者から「論文執筆」を依頼され、アルバイトで論文を書いたら、「とんでもないこと」、「あってはいけないこと」であろうか? 「科学論文」は「自分の手で書く」ことが必須だろうか? 著作権もない科学論文は何のために書かれているのだろうか?

文系の人を「文系」とイッパひとからげに非難するつもりはないが、哲学や文学が「その人の書いた文章」が大切だからと言って、自然科学の論文の同じでなければいけないということを言う人は、表現は悪いけれど、「学問は雰囲気ではない。厳密な論理が最も大切」ということを勉強したのだろうか?といぶかる。

第一、自然科学の論文は、特許の申請と違い、自然の摂理を解明し、時々は、それを人間社会に役立てるという学問であり、お金も利権も無関係である。発見者はその栄誉を称えられることがあっても、発見したものの所有権を持つものではない、それは人類共通の財産である。

また、博士論文の第一章をコピペして良いか悪いかは、

1)指導教官がコピペをしてはいけないといったか、研究の方が大切だから第一章はコピペしろと言ったかという指導との関係がはっきりしないと何とも言えない。

2)もともと教育中の作品である博士論文に問題がある場合、論文が認められないことはあっても、認められた後、その欠陥が問題になることはない。

という二つの原則と比較すると、日本社会の反応はきわめて非論理的、村八分的、リンチ的であるといえよう。今回のSTAP細胞の事件で、非難されるべきは、曖昧な情報のままで、一緒に実験をしている人が10人以上<上司も含めた関係者は20人ぐらいだろう)、論文の共著者が10人程度、そしておそらくは特許の発明者も10人ぐらいなのに、一人だけを犠牲にしたのは誰だろうか。

この際、せめてもの償いは科学論文のあり方、教育のあり方をどうするか、マスコミやネットは法令に違反しない人までもリンチしても許されるのか、など日本がまだ遅れている分野について、議論を深めることだろう。

執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年04月02日時点のものです

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