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日本は民主主義なのに「自分が正しい主義」が蔓延したのか?(中部大学教授 武田邦彦)

2014/04/04 20:00 投稿

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日本は民主主義なのに「自分が正しい主義」が蔓延したのか?(中部大学教授 武田邦彦)

今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

■日本は民主主義なのに「自分が正しい主義」が蔓延したのか?(中部大学教授 武田邦彦)
「正しいとは何か?」というタイトルの本を小学館から出してしばらくしたときに、ある人から「先生の書いた本を見たとき、正しいって決まっているのに何が書いてあるんだろう?」と思ったといわれました。

確かに、今の日本は正反対のことを同時に言うという病的状態にあります。つまり多くの人が「これは正しい!」、「間違っている!」と自信たっぷりに言って、他人をバッシングしたかと思うと、「他人を尊重する教育」とか「多様性が大切」などと書いたりします。

人は一人一人、考えを持っています。どの人の考えが正しいかわからない、他人の意見が自分と違っても、直ちにそれが間違っているとするのではなく、じっくり話を聞くとか、他人は他人の正しさがあると思うのが「他人を尊重し」、「多様性を認める」と言うことだからです。

特に民主主義では、それぞれが考えを持ち、議論し、投票し、少数意見を尊重するという原理があり、それは一人の人が「これが正しい」と決めるより優れているという考えに基づいています。一人の人が「これが正しい」と決めたほうが能率が良いのですが、面倒な民主的手続きを取るという決意が現在の日本なのです。

原発再開、大阪市長選、STAP細胞・・・このところ続く日本社会の問題について、どうしてこれほど「自分の考え」を「正しい」と思うのか?といぶかるばかりです。

「正しい」というのは、現在まで4つしかありません。神様が決める(宗教)、偉人が決める(道徳)、相手が決める(倫理)、そして社会が決める(法律)ですが、神様と偉人は民主主義では使わずに、倫理と法律です。倫理の倫という言葉はにんべんに論理ということで「相手の理」、つまり相手の希望や意見に沿うことを言います。

だから「倫理の黄金則」は二つあって、「相手のしてほしいことをしなさい」(積極的黄金律)、「相手のしてほしくないことをしてはいけない」(消極的黄金律)です。

ですから、相手が決まっている時にはできるだけ倫理に沿い、社会全体の時には法律に従うというのが「正しさ」の基本になります。ところが、テレビ、新聞、ネットを見ていますと、二つの現象がみられます。

一つは、法律でも倫理でもなく「自分が正しい、相手が間違っている」と言う確信に基づいているものです。たとえば、「国民の70%が原発の再開に反対しているが、原発を再開するのが正しい」という考えで、この考えは「国民の多くより自分が正しい」と信じていることから来ています。

そんなことを言っていたら、日本には1億2000万人もの人がいるのですから、「正義」は1億2000万もあることになり、到底、キチンとした社会を作ることができません。

第二に、「自分は悪であっても、正しいことを言える」という論理です。つまり「泥棒に「泥棒するな!」と言われる」という現象です。たとえば、NHKのツバル報道では、地盤沈下している地域に大潮の満潮の時に撮影に行って、温暖化とは関係ない映像を放映し、ナレーションでは「温暖化によってこんなに苦しんでいる。私たちは***をすべきだ」と言うという例です。

STAP細胞の場合は、「論文とはこういうものだ。許せない!」と言う人がいるので、聞いてみると文系の人で外国に論文を出していないという場合がありました。文系の論文は「文章」が命ですが、理系では「事実が命」なので、文章は重要視されません。理系は「創造」してはいけないのですし、文章ひとつで事実が変わるわけではないので、差が出るのです。

いずれにしても、人間は「法律に違反しない範囲で、自分がこれが正しいと思う行動をする」ということですから、法律に違反しているかどうかは問題ですが、そうでない場合は「自分には納得できない、少なくとも自分の考えと違うけれど、相手はそれが正しいと思っているのだな」と考えるべきです。

このように「自分が正しいと思い込み、相手が間違っていると断定する」という文化は、恐ろしい社会を招くことは歴史的にも繰り返されていることです。

このようなことになったのは、テレビの罵倒番組やネットの匿名バッシングにもよると思いますが、私たちはもう一度、正気に返って「自分が正しいと思っていることは、正しくない可能性がある。自分はお釈迦様ではないのだから」と思い返すこと、そして、匿名の時には「匿名自身がルール違反なのだから、自分のルール違反を認めてくれているのだから、少し遠慮して名前を明かして活動している相手を尊敬しよう」ぐらいは必要でしょう。

大阪市長選についてもご意見をいただいていますが、私は「議会が市長を批判するなら、選挙にでなければいけない」というごく当たり前のことを言っていますが、市長を批判するマスコミやネットが多いことに驚きます。そして私は橋下市長の意見に反対ですが、「民主主義を守ろう」というと「武田は橋下の肩を持つのか」というような反論があって、これも困りものです。

最近、街を歩いていたらすれ違いざまに「タバコを吸っても良いなんで、いい加減なことを言うなっ!」と私を罵倒した人がいます。私はすぐその人のところにいって、「あなたも紳士なら紳士らしく、キチンと話をしてください。私も私なりの根拠をもっていっています」と言いました。

まさか、追っかけてくるとは思っていなかったのでしょう。その人はびっくりした顔で「先を急ぐから」と言われました。そこで私が「そちらの方から言ってきたのですから、私が反論するぐらいは認めないといけない」と言いますと、

相手「すみません。私が不十分でした。本当に先を急ぐので」、

武田「わかりました。でも、紳士的にやってくださいね」

で終わりました。

これが発展すると、その人が憲兵になり、シベリア送りになるというが歴史の教えることです。私は「日本はあかるい民主主義」を希望しています。それは一人一人が日本人としての誇りを持ち、誠実で礼儀正しく、他人を尊重し、堂々と名を名乗り、謙虚に自分の考えを言うという社会です。

執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年04月02日時点のものです。

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