今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
■年金の完全理解と大改革(6) 積み立て型から賦課型へのトリック(中部大学教授 武田邦彦)
さて、これまでいわゆる「積み立て型年金」が崩壊する基本的な理由と現実に起こったことを整理した。でも、「何をいまさら」と言うぐらい予想通りで、このシリーズの第一回から登場している例の年金課長の談話を再び聞いてみることにする。
「使ってしまったら先行き困るのではないかとの声もあったけれども、そんなことは問題ではない。・・・将来みんなに支払うときに金が払えなくなったら賦課式にしてしまえばよいのだから、それまでにせっせと使ってしまえ」
素晴らしい!! 全く正確に始めた年金がどのようになるのかを予測していて、まさに現実になっている。人が老後に使おうとして必死に貯めたお金を「使ってしまえ」、「なくなったら賦課式に変えれば良い」と言っているのだから、道徳的には大変な問題だが、普通の日本政府のやり方(国民のお金を巻き上げて自分たちで使う)をそのまま正直に言っている。
(私の推察だが)1960年代に始まった「積み立て型年金制度」は最初から破たんすることが分かっていたので、国民が収めてくるお金は厚生省や政治家が使い込んでいた。
1990年になるとすでに破たんは目に見えていたので、それを国民に説明するために、次の二つの戦略を立てたと推定される。
1. 破たんが誰の目にも明らかになる前に、破たんの原因が「もともと破綻する計画だった」というのではなく、「誰かが杜撰な管理をしたから」ということにする。
2. 賦課型(若い人が払う方式)に変えるために、「少子化問題」を出す必要がある。国民はもともと積み立て型だったことを思い出さないようにする。
実は、1990年代の終わりに「社会保険庁の不祥事」や「少子化問題」がテレビで盛んに問題にされたとき、私もうっかりそのキャンペーンに引っかかってしまった。
社会保険庁の不祥事が次々と明らかになり、「5000万人の年金の記帳漏れ」とか「デラックスで使っていない年金保養施設」などが報道されると、「社会保険庁は何をやっているのだ」とか「銀行に預金して、そのお金が分からなくなったなどと言うことはないのに、なぜ「個人の年金預金通帳」がないのだ!」などと憤慨したものだ。
でもそれがトリックだったことにその当時は気が付かなかった。考えてみれば5000万人もの記帳漏れが厚生省内部でわからないはずもない。「記帳漏れ」自身も当初からの計画と思われる
もう一つ、「自分が積み立てて自分が老後にもらう」という「積み立て型」だった年金だから、子供とは一応、無関係である。ところが1990年代から急に「少子化」という問題が湧いてきた。
子どもの数が少なくなってきて年金の支払いに支障をきたすという話である。もともと、「積み立て型年金」の日本の制度は本人と勤め先が半分半分、お金を拠出して、そのお金を厚生省が運用して年金支給年齢に達したら、年金として戻すという説明だった。
だから、子供の数とは関係がないし、自分で貯金するより社会の変化に応じて支給できるということも説明された。だから国民は年金制度に協力したのだが、最初から実現が不可能な制度だったので、年金課長は「使ってしまえ」と言い、「払うときにはお金がないから賦課式にしろ」という計画だった。
現実には、何とか税金の応援、支給年齢を65歳にすること、支給額を減額することなどをして、年金が支払われる形にはなっているが、全体としては積み立てた私たちのお金は使い込まれてしまっているので、今になって「自分で税金を納めて、そのお金を自分が年金をもらっている」という状態になっている。
(少しわかりにくいが、年金のお金を投資している公団などが税金で運用されていて、赤字なのに年金に利息や返金ができるのは、税金だからだ。)
執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2014年03月04日時点のものです。
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