■新刊レビュー『穴』
●書誌情報
あらすじ奇妙な獣のあとを追ううちに、私は得体の知れない穴に落ちた――。
仕事を辞め、夫の田舎に移り住んだ夏。見たことのない黒い獣の後を追ううちに、私は得体の知れない穴に落ちる。
夫の家族や隣人たちも、何かがおかしい。平凡な日常の中にときおり顔を覗かせる異界。
『工場』で新潮新人賞・織田作之助賞をダブル受賞した著者による待望の第二作品集。芥川賞を受賞した表題作ほか二篇を収録。
【目次】
穴
いたちなく
ゆきの宿
●読みどころ
著者の小山田さんが女性ということもあり、女性の思考や心理描写が秀逸。
家族の営みの中で妻として、嫁として、そして母として役割を果たす女性という存在について深く考えさせられる。
また、日常の中に潜むさりげない恐ろしさが、そこかしこに散りばめられている点が面白い。
●レビュー
オススメ度:★★★★☆
読了時間:約2時間30分
芥川賞を受賞した短編『穴』には改行が少ない。会話文でも改行が入らないので、ぱっと見たところ、読みづらいように思えた。しかし、読み進めていくと案外一定のテンポでするする読める。会話が進められている中で、話とは関係のない思考を続けていく表現が面白かった。
ストーリー展開は、アップダウンが少なく、淡々としていた。夫の転勤に伴い仕事を辞め、図らずも自らの役割が“妻”だけになってしまった主人公の戸惑いの生活から、女性の働き方、仕事の価値観、家庭での役割について、疑問が投げかけられる。暗い話というわけではないのだが、全体的に重い空気を漂わせていた。「あぁ、そうなるんだよね」と、静かに考えながら読んだ。女性は結構共感できると思う。
いちばんのポイントは、日常中の日常に“異常”がひょっこり顔を出している点。気がつくと、ゾクリとくる。どこから異世界の“穴”に落ちていたのか、そもそもどこが“穴”だったのか。ファンタジー要素の入れ方が斬新。
全体的には、なかなか細かく作りこんでいるのに対して、最後の締めくくりには物足りなさを感じる。かと言って、これ以上書いてしまっていたら、この作品の持ち味が失われたような気もするので、この物足りなさが作品の魅力を引き立てているのだろうかと悩んでしまった。
『いたちなく』と『ゆきの宿』は続き物の短編。子どもがいない40代夫婦の話。夫目線で、友人夫婦との交流の様子が描かれている。こちらは会話文での改行が入っていたので、改行があまりないのが小山田さんの作風というわけではないようだ。
“したたか”とも思える女性の細やかな気遣いや、深く思いつめながらも秘めている気持ちが、台詞や動作で端々に表されているのがとても小気味良い。あと、小説のタイトルの付け方がうまいと思った。
●詳細情報
書籍名:穴
著者:小山田浩子
価格:1200円(税別)
出版社:新潮社
※表紙画像、書誌情報は新潮社ホームページより
http://www.shinchosha.co.jp/book/333642/
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