これまでさまざまな媒体で取り上げられてきた問題だが、昨日今日のように騒ぐ様に違和感さえ覚える。何か裏があるのではないかとさえ勘ぐってしまうほどだ。
取材を始めた10年以上前から風俗嬢たちをめぐる環境自体は悪化の一途をたどっている。性風俗でさえ、もはやセーフティーネットと呼べるような代物ではない。
無論、個人の性的な価値がダイレクトに反映される業種であるから高収入を得ている女性は存在している。だが、その割合も年々減少し大多数の従業員は客がつかずいわゆる「お茶をひく」日が続き、月収が生活保護の支給額を下回る人間もいるほどだ。
風俗店の公的な増減について当局は発表していないが、オーナーや店長に話を聞く限り廃業や転業は珍しくない。この番組を見た元店長は「稼げるだけ彼女は恵まれている」と感想を述べていた。そのくらい、性風俗では稼げる/稼げないの格差が激しい。
ちなみに、シングルマザーの性風俗従業員自体は必ずしも珍しい存在ではない。特に筆者が住む地方都市では、取材した女性の1/3がそうだった。あるデリバリーヘルスでは従業員のために育児所を設置しなければ業務に支障が出るほどである。
これは性風俗産業が働く女性の福利厚生として行っているというよりは、“女尊男卑”の業種ゆえのことに過ぎない。中小企業の社長は「設置するだけの余裕がない」と嘆くが、働く人間の殆どがシングルマザーである職場では、そのようにするするしかないだけのこと。
彼女らは「いつか上がって(風俗業界を引退して)普通に暮したい」と口を揃えるが、“卒業”したはずの女性の出戻り率は極めて高い。子どもの問題が就職活動に大きく響くからだ。出戻り組である従業員の女性は「面接で育児所について聞いても、まともな答えは返ってこない。無事に入社しても子どものケアのために時間を割けば肩を叩かれる。こんな環境で育児なんてできる訳がない」と話す。
待機児童が問題となっている今日、申し込んだところでいつ入所できるか極めて不透明。しかし、彼女たちは働かないことには子どもを育てるだけの賃金を得られない。生活保護の申請に行っても一部では虚偽説明をしてまで追い返す自治体がある中で、その嘘を見破るには相応の知識が必要だが、大多数にはその知識を得る機会自体がない。会社員として働いている人たちでも生活保護法について詳細は知らないのではないだろうか。
そもそも「貧困と女性」というテーマが大きく注目を集めたことにこそ問題があるのではないか。性別、年齢問わず生活が困窮している人間は一定数存在している。生活保護を受給できずホームレスになった男性は「男で売れるものは、もう臓器くらいしかないのではないか」と自嘲していた。
知識があれば生活保護は受給できる。しかし、そうしたノウハウを報じるべきメディアは口を閉ざしたままだ。行政は水際作戦なのか申請に対してはありとあらゆる方策を用いて受給させまいとする。
こうした問題を解決するためには誰しもが貧困を抜け出せる環境になることが望ましいが、これは理想論を出ない。もっとも現実的な方策は生活保護受給を確実に必要としている人に向けて正しい知識を対象へ伝える方法である。また、生活保護という単語に脊髄反射して罵る連中への啓発も欠かせないだろう。もっとも、こちらはいくら説明しても聞く耳を持ちそうにないが……。
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