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「ほんとうに不安だから居場所を作りたい」 家入一真氏が東京都知事を目指した理由

2014/01/28 14:00 投稿

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私のインタビュー取材中も、ネット上から質問がどんどん届く。家入氏は、合間をぬって真剣に回答していた。

猪瀬直樹東京都知事の辞任を受けて、再び知事選が行われることになった。

「有名な候補者ばかりが並ぶ選挙になったが、誰に投票すれば、自分の生活が楽になるか想像がつかない」

これが、大多数の人の正直な気持ちではないか。一部の熱狂の影で、あきらめムードすら感じる。その中で、不思議な候補者を見つけた。家入一真氏だ。若くして、いくつものIT企業を興したことは知っていた。ビジネスで成功した人が、政治の世界に転身することはよくある。

だが、自分が都知事になれたら実現したいこと(政策・公約)を掲げずに、出馬するのは奇妙だ。なぜ都知事になりたいのか。また、生活がぎりぎりまで追い込まれている20代―40代の非正規雇用のネット世代の人たちの不安定な暮らしを変えたいという意思はあるのか。あるとしたら、どうやって実現していくのか。

家入氏に、直接話を聞いてみたくなった。ネットはありがたい。まったく面識のない人でも、すぐに連絡が取れる。家入氏に単独取材を申し込んだところ、アポが取れた。

●候補者に聞いてみたいことはありますか? ネット上から聞こえてきた切実な声

インタビューの前日、家入氏に質問する内容をまとめていて、あることに気付いた。私もよく使う短文ブログソーシャルメディア『Twitter』のハッシュタグ「#ぼくらの政策」で、家入氏は、都知事になったら実現してほしいことを広く募集しているのだ(注:『Twitter』にはハッシュタグという機能があり、「#」にキーワードを付けて投稿すると、多くのユーザーの投稿の中から、共通のキーワードの投稿のみを一覧できる)。

フリーのしがらみのない立場で取材できるので、私自身有権者に近い目線になれるはずだ。インタビューの前日、自分が使っている『Twitter』アカウント 「@naoki_ma」で、家入氏に直接聞いてみたいことを募集してみた。

すると、切実な声ばかり届く。胸が苦しくなった。「派遣労働で収入が上がらないし、家賃を支払える状態でも、正社員じゃないとアパートを貸さないとか、保証人がいないと契約出来ない、などと言われることばかり。このままだと部屋を借りられずに路上死してしまうのではないかと感じていて、とても不安。所得が少ない人や高齢者以外のためにも都営住宅を増設してほしい」「小さな子供がいて、二人目を妊娠中なので、役所に行きたくても外に出られない。役所で必要な手続きをネットですませられないか」など。

家入氏がハッシュタグ「#ぼくらの政策」で募集している内容にも、様々な問題が寄せられている。驚いたのは、ネットユーザーらが、それらの意見を分野別にまとめていて、とても分かりやすいが、途方もない状態になっていることだ。こういった問題をどうやって解決していくのか? ますます疑問は深まった。

●ぼくら目線とぼくらの居場所
家入氏のインターネット上の発言を見て、気になったことがある。「別に僕じゃなくてもいいんだよ。ぼくら目線を持っている人ならね」といった趣旨の発言だ。それと、「ぼくらの居場所」という言葉。選挙で、若い人たちが外に置かれているという意味だろうか。
私自身、昨年『うちの職場は隠れブラックかも』(三五館)という、ブラック企業対策の実用書を上梓しているが、実際に取材させていただいた若い人から聞いた中で切実だったのは、「居場所がなくなりそうで恐い」という意見だった。インタビューに先立って、家入氏に聞いてみたいことという意見を募集したが、住む場所、つまり「居場所を失うのではないか」という切実な問題が多い。こういった事と、家入氏の「ぼくらの居場所」という言葉は重なるのだろうか。
アポをいただいた都内の場所に出かけてみると、既にNHKが取材に来ていて、私はその次のインタビューとなるとのことだった。時間も30分いただいた。とはいえ、家入氏は手持ちの『iPhone』でネット上からの質問にリアルタイムで答え続けていて、他の候補者とはずいぶん違ったインタビューになるのは間違いなさそうだった。

DSC_0857.jpg

●「都政の問題を"居場所"というキーワードを掲げて解決していきたい」

松沢直樹(以下、松沢):はじめまして。早速ですが、僕自身ネット以外のリアルな集団を色々見ていて、どの集団も20代から40代の人が危機的な状況になった場合に、50代以上の人から理解してもらえないことが多すぎるような気がするんですね。たとえば、仕事がなくなって、ネットカフェで生活しなければいけなくなったような時に、誰に相談していいかわからないし、連絡の取りようがなくなってしまう。そういった時に、最後まで連絡が取れるのがネットなんで、命綱の代わりに使えないかと思っているんですが。

家入一真氏(以下、家入):それは、『ツイキャス』*1でも寄せられていました。たしかにそうですね。

*1 『TwitCasting』。PCやスマートフォンで動画を生中継出来るサービスの一つ。視聴者はコメントを書く事ができ、配信側はそのコメントを見ながら答える事で、リアルタイムにコミュニケーションできる。

松沢:50代以上の人の多くが、ご自分も若いころに生活が苦しかったと思うんですけど、20年位なんとか頑張ると生活が楽になるという、おぼろげな実感があったわけですね。若い人は、それが実感できる仕組みがすでになくなっているのを理解してもらえないというのが、一番の温度差になっているように思うのですが。

家入:簡単に是非を問えないと思うんですけど、たとえば会社なんかだと何十年か働く場合、働く年数が長くなるとお給料が上がっていく、とかいった仕組みが50代以上の人だけに機能しているように若い人には感じるから、あきらめムードになってしまうような気もしますね。今の若い人は草食化していると言われるんですけど、そうならざるを得ない時代背景があると思うんですよ。国の経済が成長している時代のころに若かった世代の人は、何かを追い求めている雰囲気があるから満足度は高かったかもしれない。ただ、今はそうじゃないし、会社に入っても結局仕事で大変な目にあうだけで、「何も変わらないんなら、別にニートでもいいんじゃないか」と思う人も出てきちゃうんじゃないでしょうか。

松沢:僕自身、学校で失敗したんですね。ただ就職もできたんで、ある意味ドロップアウトしても元の状態に戻れる敗者復活戦みたいなものがいくつもあったと思うんです。それすら今はないので切実だと思います。僕自身、困窮している若い人と同じように生活が苦しい状態なので、若い人の問題は他人事とは思えないんです。その中で感じているのは、アパートを放り出されるとか、会社で暴力を受けているとかいった深刻な危機に陥った時に、若い人が最後の最後まで誰かに連絡を取れるのが、ネットになっているんじゃないかと思うんですよ。選挙で公約を掲げなかったのは、そういった意見を拾い上げる目的もあるんでしょうか? ふつう、選挙に出馬するというと、自分が当選したらこういうことをやりたいということを明白にする人が多いと思うのですが。

家入:そうですね、公約を掲げないからネット上で怒られたりすることもあります。政治に反映する以上、最終的に絞らなければいけないことになると思うんですけど、その前段階で意見が活発に出てくる状態にならないといけないと思うんですよ。たとえば、都政には直接関係ないかもしれませんが原発問題を論じる時に、原発推進と原発反対という意見が二つ出てきますよね? そのどちらにもある問題とか中間の意見を拾い上げて、判断しないとまずいと思うんです。

松沢:なるほど、たとえば原発問題に絡んで東京電力を解体するべきという意見がありますが、東京都自体が東京電力の株を持っていて都民にも負担がかかるかもしれない話は論じられないですしね。二つの対立する問題というのは分かりやすいですけど、それぞれリスクを取らないといけないし理解しなければいけない問題がありますから、ネット上で意見を募集しているという意味もあるんですね。

家入:そうですね。選挙の中では伝わりにくいんですけど、都政を考える中でエネルギー問題や、オリンピック、労働問題、医療問題とかはじめ、色々な課題があるわけですけど、僕自身明確な"居場所"というキーワードを掲げて解決していきたいなと考えているんです。

松沢:居場所?

家入:そうです。居場所を作るというキーワードです。ネット上で松沢さんに寄せられた都営住宅の増設というのもそうですね。たとえば、物理的に都営住宅の増設が難しくても、民間の賃貸住宅を借りるサポートを行政でしたりもできるかもしれない。僕自身、シェアハウスを運営してたりするんですけど、民間で解決しやすい問題もあるし、どうしても行政に介入してもらわないといけない問題にぶつかることもあります。また、官民が協力して解決しないといけないと思う問題もあるんですけど、なかなかうまくいかない。

松沢:さっきおっしゃってた、みんなが居心地のいい居場所をつくるという目的ありきで都知事選に立候補したということもあるんですかね? ビジネスマンとしては解決できない壁を、政治側から解決できないかという意図もあるということでしょうか?

家入:そうですね。ただ、できるだけ多くの人の意見を反映しないといけないと思っています。僕自身『ツイキャス』で朝まで人生相談ってのをやっていて、1回の放送で延べ5000人くらいが観にくるんですけど、どこに相談したらいいのかわからないという人が多いような気がするんです。その中には、ディープな問題もあって、相談できる窓口を教えてあげたりすると、「こんなところがあるんですね」って返事が返ってくる。

松沢:ああ、僕の言いたかったことは、まさにそれです。どこに相談していいかわからない人が多すぎて、最後まで若い人が連絡を取れるのがネットなんで、そういう仕組みを、誰でもいいから用意してほしい。

家入:それと、ネットを使わない人、たとえば高齢者の方とかもすごい悩みや苦しいことを抱えていて一人で悩んでいることが多いと思うんですよ。僕も地方に行くと健康ランドに泊まったりするんですけど、そこで缶ビールを飲んでいたら、経済的に苦しそうな高齢の方から「アルミはお金になるから集めているので、その蓋をちょうだい」と言われ、考えこんじゃったことがあるんです。経済的に問題なさそうな人でも、あれだけ人が集まる健康ランドにたった一人で来てビールを飲んで帰る人がいたりするんです。なんだかとてもさみしそうなんですよね。そういった苦しさは若い人と同じで、誰にも相談できなくなっているんじゃないかという気がします。

●「みんなと仲良く生きていける場所を作りたい」

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松沢:さっき、若い世代と50代以上とではお互いを理解し合うのは難しいと言ったんですけど、僕自身は年齢が年齢ですから、年配の人の苦しいことも分かる気がするんですね。大多数の人は経済的な成功を収めれば苦しいことが全てなくなってしまうような錯覚を持っていると思います。だけど、一人になってしまうといった不安もあるだろうし、それがわかってもらえないとか、誰に相談すればいいのかっていうことがわからない。それは、若い人とまったく同じ状態なんですよ。

家入:僕自身、学校に行ってた時にいじめにあって一人になってしまったことがあって、それが嫌だからビジネスで頑張ったんですけど、やっぱりみんなと仲良く生きていける場所を作りたいんですね。

松沢:つまり、家入さんが言っている「ぼくらの居場所を作る」というのは、若者だけの居場所を作るということではなくて「若者vs年配者」、「政治家vs市民」みたいなおかしな状態を変えて、社会全体でみんなで生きていける居場所を作りたいということですね。

●候補者自らボランティアとポスター張り

インタビュー終了後、選挙のポスターを貼りに行くというボランティアの方たちの集いを取材させてもらった。インターネット上の呼びかけで、都内各所にある掲示板にポスターを貼りに行くらしい。その掲示板の場所リストは、市区町村の行政ごとに独自の形式で紙資料のみで提供されており、インターネット上に公開されていないそうだ。そのため、ボランティアらがそのリストを全てデータ化し、ネット上の地図サービス上に掲示板の位置を表示させるシステムを作り上げた。

その地図を頼りに掲示板の場所を探し、ポスターを貼り、『Twitter』に報告する形で、他のボランティアに情報共有していく。掲示板の場所が判るこのシステムを「他の候補者にも開放したらどうだろう」と家入氏が発言していたのが意外だった。

ネット上のよびかけで参加したボランティアの人たちが、てきぱきとした作業分担をしていて自律した機能が生まれていたのも驚いた。非常に不思議だったのは、候補者の家入氏と記念写真を撮る人もいたものの、大多数のボランティアの人が家入氏に熱狂的な関心を持つわけでもなく、黙々と作業を進めていたことだ。

家入氏が言っている「ぼくら感覚」ということは、こういうことなのだろうか。やはり政治にしか解決できない問題もあるのは事実だし、政治が自分の生活に影響してくることも肌に感じられる時代になった。民意という言葉が、こういった形でできるだけ多くの人に反映されることを今回の選挙では祈りたい。

※この記事はガジェ通ウェブライターの「松沢直樹」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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