大スターがどのような生涯を送ってきたか、つまり伝記映画はこれまでいくつも作られてきた。なぜかといえば、有名人の下世話な面、つまり観客には知り得ない私生活を覗き見したいからだろう。奇しくも、今同時期に公開されている『スティーブ・ジョブズ』と『恋するリベラーチェ』が、まさにその伝記映画だ。これがとても対照的だったので、公開後ではあるがざっくりと紹介してみよう。
まず『スティーブ・ジョブズ』。これは私生活をのぞき見るというより、周辺人物の発言から構成した伝記映画のようだが、これはざっくり言ってしまうと、その業績を「追う」だけの映画になってしまっているようだ。
映画の中では、彼は天才的な発明家というよりも、強引で優秀な「プロデューサー」であることが描かれる。専門家を従えて、一つのプロジェクトをなし得るオーガナイザーなのだ。ということはさておき、ここでは彼の私生活がほとんど描かれていない。作り手側としては、その業績を讃えることがメインなのだろうが、個人的な悩みが今ひとつぐっとこない。冒頭でiPodの発表をするところから、過去のジョブズ、アップルを立ち上げるところまで遡って描かれ、アップルに解雇され、また舞い戻るわけなのだが、彼がどのように当時の彼女と付き合い、「いま」の家庭を作ったのかがちらっと画面に移るだけで、アップルの商品がどのように生まれたのかだけを描いているようにしか感じられない。まあ、それだけアップルのガジェットが偉大だったということだろう。
筆者としては、アップル製のmacは高くてデザインは良いが、今でいう「情弱」というイメージがあった。もちろんファンも多くて優れたコンピュータであることは間違いないだろうが、一般的にその名を轟かせたのは、iPhone以降ではないだろうか。彼は映画の中で、優れたインターフェースを理想として試行錯誤していったわけだが、それが最も効果的な形で具現化したのがiPhoneだと感じる。ジョブズはiPad2までは生きているうちに開発したいと言い、それを実現させたわけだが、映画ではそこから先を描いてほしかったし、周囲のガジェットマニアをまとめるプロデューサーに何故彼はなれたのか、そしてそこまでに至る彼の心の内を描いてほしかった。アシュトン・カッチャーのそっくりさんぶりは評価に値するとは思うが……。
それと対照的なのが『恋するリベラーチェ』だ。これは手放しで賞賛したい伝記映画だ。ゲイ・カルチャーを知る人にとっては、まさに巨人であった豪華絢爛のエンターテイナーでありピアニストである彼の、裏の裏側まで(それが真実なのかは分からないが)良い意味で下世話に笑い飛ばす、これぞゲイ・カルチャー・ムービーだ。
主演はマイケル・ダグラス。私生活ではセックス依存症であった彼がリベラーチェを演じきるのは見事としか言いようがない。冒頭で、クラブの中のカウンター越しに、二人の男(その一人はマット・デイモン)が何も言わずに近づいていって、ゆっくりと自己紹介するシーン、これが妙なリアリティを持った描き方で、そこからリベラーチェの私生活が次々と描かれていく。インプラント性器を使ったセックス、美容整形(この整形外科を懐かしのロブ・ロウが演じているのだ!)などなど、「ノーマル」であるように綴られた都合のいい自伝ではあり得ない。想像力たくましい描き方で、見る人によっては悪趣味で、リベラーチェがエイズにかかってからは陰鬱な印象を与えるかもしれない。だがそれを差し引いても、リベラーチェと彼を取り巻くゲイ・カルチャーを描いた名画として後世に残る映画ではないだろうか。ゲイがいちゃいちゃするシーン、マット・デイモンがマイケル・ダグラス扮するリベラーチェに嫉妬するシーン。いわゆる腐女子が一人で観に行っても、女性二人で観に行っても、「ノーマル」なデートムービーとして観に行っても、楽しめる映画だろう。下世話で楽しくて煌びやか! 監督のスティーブン・ソダーバーグは、これで監督としては休業するとのことだが、これは非常にもったいない!
というわけで、伝記映画は虚構ありきでも、下世話な物がいいのだ!
映画 『スティーブ・ジョブズ』公式サイト http://jobs.gaga.ne.jp/index.html?type=fc
映画『恋するリベラーチェ』公式サイト http://liberace.jp/
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