普段から身近なメニューとして昼食にも夕食にも登場するカレーライス。現在ではマイルドなものから激辛のものまでさまざまなレシピのものがあり、市販のルーも充実していますが、その際に切っても切れない関係なのが水の存在。複数のスパイスでの味付けを楽しみながらスプーンを進めるためには、必ず必要なものですが、あまりにも当たり前のものすぎて深く考えられていなかったというのが実際のところなのではないでしょうか。
そこで、日本のカレーに合う水は一体どんな性質のものなのか、レストランのプロデュースやメニュー開発、料理イベントの企画を手がけているカレー総合研究所代表の井上岳久さんをはじめとする有識者が本気で議論。用意された五種類の水とカレーとの相性を実際に食べながらジャッジしました。
テレビ東京『ソロモン流』にも出演し“カレーの達人”として活躍中の井上さんは、日本のカレーを「ルーが脂と小麦粉が中心に、クミンの香りがボディなので、どうしても濃くなる。こってりして残りやすいから、飲み物は味を邪魔しないものがいい」と分析。
また、「インドではラッシーやチャイを飲むけれど、それは水の方がまずくて高いから」と海外特有の事情があるとも指摘。「以前にイギリスでカレーを食べた時もあまり美味しくなかった。同じカレーを食べても味が違うのは、水が違うからだったのでは」と話す一方で、「コーヒーを飲む場合もあるけれど、意外とココアが合いますよ」とさまざまな選択肢を示します。
カレー総研の研究員で、1000種類以上のレトルトカレーを制覇しているという八巻宏さん。
「いくつものカレーを試食する際には、本来の味を楽しむために水を選びますね」といい、「若い頃はカレーと一緒にコーラを飲んでいましたが、年齢と共に水に落ち着きました。一般の家庭で食べるルーのカレーは、ねっとりして口に残るので、水でリセットさせるのがいい。中でも硬くないものがいいですね」と語ります。
新進気鋭の料理研究家で、埼玉・川口のカフェテラス『Saya Soyo』のオーナーシェフでもある岸晃弘さんは「個人的には炭酸水がシュワっとしていて飲みやすく、カレーもフレッシュな感じになる気がします」と意外な発言。
「皆さん好みが分かれますが、基本的には日本のカレーには水や麦茶、ウーロン茶が飲み慣れていて合うと思います。特に水は無味無臭で、口の中のものを流して、味わいそのものが楽しめます」と話し、「本場のカレーはさらっとしていますが、日本のカレーはとろみが強いので、キンキンに冷えた水よりも常温の水のほうがいいです。冷たいと脂分が固まって残ってしまいます」とシェフの立場から分析しました。
食育や薬膳料理が專門分野で、野菜ソムリエでもある魚住咲巴さん。
「日本のカレーはスパイスの刺激だけでなく、お肉のうまみや野菜の甘みを味わうもの。食べるうちに発汗作用があるので、すっと水分が採れるものがいいと思います」とコメント。
また、「私は家でも身体にに入りやすいのでアルカリのお水を飲んでいます。浸透性が高くて粒子が細いから、お茶を淹れる時にも色がよく出ますし、料理でもだしを取る時に使います」と健康に気を使いながら水を選んでいるとのことでした。
この日用意されたのは、硬水・炭酸水・水道水と、『キリン アルカリイオンの水』、超軟水の5種類。審査をする4名にはどの種類か知らせずに、AからEまで振り分けられたコップで飲み比べてもらいます。
カレーライスは、岸さん自らが考案した新レシピのもの。市販のルーにトマトの甘みと酸味とお酢を効かせてさっぱりとした味わいに。チーズ入りのメンチカツのジューシーさも楽しめる一皿です。
スプーンとコップを交互に口を運びつつ審査を進める様子は真剣そのもの。「ルーを足してもらってもいいかな?」と何度もリクエストしつつ、5種類の水を舌の上で転がして、カレーに最適の水を探っていきます。
「こんなに真面目に水のことを考えたことはなかった」という井上さん。「飲み比べてみると全然違う。Dは明らかに見た目で炭酸水と分かるけれど、AとEは本当に微妙な差しかない。Cは森で飲む水という感じがする」といいつつ、スプーンとコップを往復させました。
終始言葉少なに鋭い視線で水を吟味していた八巻さん。「最初に水だけ飲んでいる時と、カレーを口にしている時とでは印象が変わりますね」といい、「Aはマイルド。Bは明らかに硬水です」といいつつ、スプーンを進めます。
「もっと濃厚な感じの味にすればわかりやすかったかも」と苦笑した岸さん。「水自体の味とのマッチングで、次の一口の前にすすぐと違ってくる。Aは食べながら調和して一体化して胃に入っていく感じ。Cはいつも飲んでいる味です(笑)」と飲み比べ。
また、硬水については「水を飲んでいる感がすごい。和らげてくれるというよりも“僕を飲んで”という感じで、カレーとは仲良くないですね」とコメントし、他の審査員もうなずきます。
「硬度が高い水はカルシウムがカレーの成分の結びついて、味が楽しめない状態になるのでは」という魚住さん。
「日本のカレーは極端に刺激があるわけではないから、柔らかいお水の方が相性がいいな、と感じました。炭酸水は飲み終わった後の脂っこさ感は残ったままで、思っていたよりもさっぱりしなかったです」と話します。
お皿がなくなる頃には、Bが硬水でCが水道水、Dが炭酸水だと意見が一致。「すっと入ってきているのが、AかE」(井上さん)と残った選択肢の2つは、甲乙つけがたい様子。
結果的には、Aは『キリン アルカリイオンの水』で、Eは超軟水でした。軟水の中で硬度に差があり、ミネラル分が少ないことで浸透性に違いが出るという説明に対して、「確かにAはまろやかだった」(井上さん)、「水としてはAが一番美味しくて、一番すっきりした」(八巻さん)と納得の表情。
「飲み比べると意外に差があって、水ってこんなに違うんだ、というのは盲点だったというのが今日の気付き。カレーに合う水を探すというのも面白い」と井上さんが話すように、カレー総研として新たな研究テーマが見つかった今回の“利き水”会。
「以前に超軟水が出る土地に合わせたカレーをプロデュースしたことがありますが、スープカレーだと水によってより味が違ってくる。ラーメン店が水にこだわるように、水に合わせたカレーを開発するという発想も面白いですね」(井上さん)という声も出て、カレーと水との関係を追求したレシピや商品の開発につながりそう。
普段カレーを食べる際に何気なくコップに入れている水ですが、自宅で友達を呼んだパーティーなどで、比較しつつ“利き水”をしてみるのも楽しいかもしれません。
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