やる気も人気も無いけど、とりあえず日々を過ごしている。そんなダメダメなアラサーの男女が所属する小劇団を描いた映画『夜明け前 朝焼け中』は、中盤から観客が思っても見なかった方向に物語が展開する。良い意味で期待を裏切られる作品です。
主演は「特命戦隊ゴーバスターズ」のブルーバスター役で注目を集めた馬場良馬さん、劇団主宰者の石田役にミュージカル「テニスの王子様」の八神蓮さんというイケメンを迎えた本作は、何気ない日常に起こった事件をきっかけに変わり始める人間関係をリアルに表現しています。
本作のメガホンをとったのは、「失恋殺人」(2010)、「CRAZY-ISM クレイジズム」(11)、「僕の中のオトコの娘」(12)の3作品が連続でモントリオール世界映画祭に出品された窪田将治監督。年1本ペースで作品を生み出しながら、撮りたいテーマはまだまだたくさんあるそう。今回は窪田監督に、作品への想いから「若手俳優を起用し育てる」という、日本映画を豊かにするべき発想まで、色々なお話を伺いました。
――若者がダラダラと日々を過ごしている冒頭から、最後への展開は驚かされました。この作品の構想を得たきっかけを教えてください。
窪田:はじまりは青春物で、途中からガラリと雰囲気が変わる映画を創りたいという企画は前からあったんですね。3、4年前かな。それで今回若手の役者を使って作品を創りましょうとなった時にその枠組みを使って映画を撮ろうと。プロデューサーの佐伯さんと飲みながらよく話していたんですが、僕が『CRAZY-IZM』という作品を作った時にも若手の俳優を使っていて、その流れで映画を1本撮りたいと。
若いこれからの役者を使うと予算もなかなかつかないし、大変なのはあるんですけどね。20、30代の役者って激戦じゃないですか。その中でなかなか一歩出るっていうのは難しいと思うんだけど。若手のうちに僕の映画に起用していて、後に売れてくれれば自分が楽になるかなって(笑)。青田買いみたいなもんかもしれないですね。あと仕事していて楽しいですし。
――若手俳優を育てたいという気持ちもある?
窪田:育てたいというか、やらないといけないと思うんですよ。昔の映画監督って小津安二郎監督とか、黒沢明監督とか、“先生”って呼ばれてたんですよね。今の監督は下手したら“さん”付けですから。監督とも呼ばれない。
昔は撮影期間も長かったり、スタジオで女優を育てるっていうのもあって教師と生徒みたいな関係が出来ていたと思うんです。そんな大先輩達を見習いたいな、と。今やっているのは園子温監督とかなのかなって思いますけどね。後は女優を育てるのが上手なのが金子修介監督とか。やっぱり映画を創る中で育てないと、ちょっと偉そうだけど、そんな事を考えたりしています。
――本作はもちろん、他の作品でも若者のリアルな物語を描いていますが、常日頃から人間観察をしているんでしょうか?
窪田:観察っていうより体験でしょうね、結構今の自分のスタッフとかも20代前半の子とかが入ってきて、ひどい時なんて平気でいなくなりますからね。“飛んじゃう”ってやつですね(笑)。それを、ゆとり世代って言ったらそれまでなんだけど、でもそのままじゃだめだよね。
この作品でもそうなんですけど、人間ってギリギリまで追いつめられないとやらないじゃないですか。夏休みの宿題みたいな。僕もいつも切羽詰まってるんで、それは自戒の意味をこめて話を書いてます。
――本作は劇団に所属していながら、夢も無い若者を描いていますけど、監督は昔から映画の仕事に携わる事が夢だったのでしょうか?
窪田:未だに映画監督って名乗っていいかも分からないんですけど、映画監督になろうと思ったきっかけは無いんですよ。気付いたら映画を撮っていたという感じで。僕は九州の宮崎出身で、実家が田舎だったので娯楽が少なくて、劇場で映画観るしかなかったんですよね。映画とは近かったけど、それは娯楽の一つという感じで。
僕、昔いじめられっ子で小・中学校と友達がいなかったので映画ばっかり観てたんですけど、毎日先生に日記を提出するという嫌な習慣があって。「友達とこういうことして遊んだ」とかそういうの。でも書く事無いから、創作で話を書き始めたんですよ。そしたら先生が意外と騙されてくれて、だんだん楽しくなってきたんですよね。
上京してからは、映画を撮りたいと切望はしていましたけど、やることが映画しか無かったという事でしょうか。だから最近なぜ映画監督になろうとしたんですか? と聞かれたら「モテたいから」って言う様にしてます(笑)。
――(笑)。でも監督の描くニッチな世界ってとても面白くて、作品を観て「自分はこれでいいんだ」って救われている人もいる気がします。
窪田:『僕の中の男の娘』がモントリオールで上映された時は、カナダは同性愛の結婚が認められているので、「日本は何でジェンダーに対してそんなに批判的なんだ」とは言われましたね。男の娘は女装文化であってジェンダーじゃないですけど、日本はそう言う社会的に難しい世界で生きる事に優しくない感じはありますからね。僕もまた、食えるか食えないか分からない世界で生きてるわけで社会的には難しいですし。だからですかね?
僕基本的に狭い世界が好きなので、女子プロレスラーとか、今回の小劇場とか。自分の日常に置き換えやすい世界なんです。自分がまず面白いと思えて、それでいて別第三者の世界に置き換えても共感を呼べるような物語を書きたいと。
――だからこそ海外の観客には新鮮で、共感も得られるのでしょうね。
窪田:日本での評価は低いんでね(笑)。海外の映画祭に参加して思うのは、とにかく映画偏差値が高いですね。とにかく映画を観てる。モントリオールもそうですけどヨーロッパとか行くととにかく細かく感想を言ってくれるのですごいなーと思って。日本でもたまにブログで詳しく感想を書いてくれている人を見ると嬉しくなります。本作もそうですが、観た人が自分たちそれぞれの意見を持ってくれる作品を創り続けていきたいですね。
――どうもありがとうございました!
『夜明け前 朝焼け中』ストーリー
旗揚げ当時からの劇団員・渡辺泰介は、やる気も人気もない劇団を何とか立て直そうと考えていたが、主宰の石田亮は台本も書かず、合宿所に着くなり飲み会を始める始末。他の劇団員たちもまるで遊び気分だったが、そこへ突然、拳銃を持った男が現れ……。
11月2日より全国順次公開
http://www.faith-pictures.com/yoruasa/
配給:FAITHentertainment サモワール
(C)2013「夜明け前 朝焼け中」製作委員会
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