今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
■人間の役割はコンピュータの端末になる
このまま社会のコンピュータ化が進んでいくとして、最後までコンピュータ化できない部分というのは、エンドユーザ(素人)とのユーザインターフェイス(UI)だろうなと思う。
それを仕事にしてる人間は、どんなにわかりにくく煩雑なUIだろうと、そのうち覚える。でも素人には無理。繰り返しやる作業なら素人もそのうち慣れるが、1度しかやらない作業(たとえば極端な話、出生届とか死亡届とか)は、常に使う人は「はじめて」なんだよね。覚えても次に役に立つ機会もない。
1度しかやらない作業というのは、案外多いものだ。見知らぬ土地で売店を探したり、初めて入る店で注文の仕方がわからなかったり。子供の入園手続き、引っ越し。
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病院や役所なんかもそうだろう。次に○○に行ってくださいと、指示されても、そもそも○○の場所がわからない。探している内にトイレに行きたくなって、用を済ましたらそもそもどこに行けと言われたんだっけ?と。
たぶんこの手のUIの理想的な形は、エンドユーザ一人一人にアシスタントが付き、手取り足取り次にどうすればいいか教えてくれる形だろう。
以前、ルータの設定で「UDPポート番号に○○を入力して下してください」と言われて、「ええと、TCPポート番号というとこですか?」とエンドユーザが聞き返したという話をどこかで読んだ。知ってる人にはTCPとUDPは別なものだとわかる。だから、わざわざUDPポートと指定しているのに、なぜTCPポートだと思うのか、理解不可能だろう。
でも「知らない」人にとっては、そもそもTCPとUDPが同じものか?という段階からわからない。カプチーノはコーヒーの一種か?というのと同じだろう。同じに扱って良いケースもあるし、ちゃんと区別しなければならないケースもある。それが素人にはわからないわけだ。
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だから入力ミスとかもそういうのが多いのだと思う。「Aを入力せよ」という部分にBもAの一種だと思ってBを入力してしまった、そうしたら後でBの入力を促されて間違いだと分かった。なので最初から入力しなおし、とか。
書類とかも、欄を全部埋めなければならないと思い込んで一生懸命書いていたら、あっさり「あ、そこは書かなくてもいいです」と言われたり(苦笑)。
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結局、コンピュータには、その人がどうしたいのか?という目的がわからない。いや、人間にもわからないが、人間はその人と会話して目的を推測することができる。この時の会話はコンピュータでは処理できないように思う(人間と同じぐらいの知能を持ってれば別だが)。
たとえば人間は相手に「あと、なにか気になることはありませんか?」と尋ね、情報を引き出すことができる。それはそれまでの定型的な質問の応酬には当てはまりにくい情報。
たとえば患者に医者が「おばあちゃん、最近調子はどう?」と尋ね、患者が「どうも最近夜中に目が覚めるようになって」とか答えたとする。これをコンピュータが処理できるだろうか。毎回どの患者に対する質問にも「夜中に目が覚めることがありますか?YES/NO」と入れたら、かなりうっとうしいだろう。
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「人間から情報を引き出す」というのは、コンピュータには難しいと思う。少なくとも現状のコンピュータには。コンピュータは人間に、予め用意された質問を答えさせることは得意だ。でもその方法だと、情報を得ようとすればするほど、大半は必要のない質問になってしまう。書類に(普通は)書かなくてもいい欄があるのと同じ。
癌の闘病マンガ「さよならタマちゃん」にこんなシーンがある。急に背中をゴンゴンと叩かれるような痛みが走り、作者は痛みを新米看護婦に訴える。しかし新米看護婦は理由がすぐには思い当たらない様子。そこにベテラン看護婦が登場。「痛いのは背中というよりも、背骨じゃないですか?」と問いかける。「そういわれれば、そうです、痛いのは背骨です」。この段階で始めて新米看護婦もそれは○○という薬の副作用で、さほど心配することはないと気づく。
患者は自分の症状を的確には表現できない。何しろ生まれて初めて体験するものなのだから。「それはこうじゃないですか?」と言われて初めて、的確な表現がわかるのだ。新米看護婦は知識として「○○という薬は副作用としてまれに背骨の痛みを生じる」と覚えていても、患者の曖昧な報告ではそれが思い至らなかった。ベテランの能力というのはそういうものかもしれない。本で学んだ知識と目の前の必ずしも正確・完全でない情報を結びつける能力(経験)。
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幼児は猫のことを「ニャーニャー」と覚えると、しばらくは犬も「ニャーニャー」なんだよね。似たものはなんでも「ニャーニャー」。やがて犬と猫を区別するようになる。でも生まれて初めて「犬」を見た時は、すでに自分が知っているものの中で近いもの(=「猫」)を当てはめる。「UDPポート」といわれて、「TCPポート」ですか?と聞き返したユーザも同じ。
多くのユーザインターフェイスは「人間は常に正確で完璧に的確な返答をする」という前提で作られている(まあ最後に「確認」ボタンぐらいはでてくるけど)。それが素人にとってコンピュータが使いにくい理由。
コンピュータは「この人間、絶対間違いとは言い切れないが、なんか勘違いしてないか?」と疑い、適切な確認を随所で行えるぐらいにならないと。「なんか変だ」という「感覚」が大事。それは多分人間の頭の中では「典型的なパターンから外れたもの」なのだろう。そういうものをコンピュータに実装することが必要。
「ドイツ、フランス、オースト"ラ"リア」の旅行ガイドを買おうとする客には「それ、オーストリアの間違いじゃないですか」と確認する親切さ。
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ということで、最終的に人間の役割は、素人とコンピュータの架け橋になるのではなかろうか。コンピュータにできないこと・不得意なことを人間がやってあげる。これなら人間と同じ思考をし、人間の心が理解できるコンピュータが登場しない限り、ニーズはなくならない。まあ、あと最後まで残る職業はプログラマだろうけどねw。
執筆: この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年10月29日時点のものです。
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