今回はnabokov-VIIさんのブログ『nabokov7; rehash』からご寄稿いただきました。
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■日本語は本当に曖昧で回りくどいのか
オフィスの壁にこんなプリントアウトが貼ってあった。
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://px1img.getnews.jp/img/archives/2013/10/2.jpg
○○人の言うことと、その本当の意味対応表
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://px1img.getnews.jp/img/archives/2013/10/3.jpg
では問題です。○○のところに入る国名はなんでしょうか!
答えはもちろん.........
....イギリスですね!
やっぱりー。...あれ?日本人のこと言われてると思った?
思うんだけどこれ、どこの国の人も、自分のお国柄について同じような冗談を言ってるんじゃないかな。
掲載元*1のBBCのコメント欄には、「ケンタッキー人と英国人は共通点がたくさんあるようだな」「オーストラリア人も一緒だ」みたいなコメントがついてる。
*1:「What The British Say (And What They Really Mean)」 2012年01月13日 『BBC America』
http://www.bbcamerica.com/anglophenia/2012/01/what-the-british-say-and-what-they-really-mean/
欧米人は単刀直入に結論から入る、Yes/Noがはっきりしている、といわれるけど、会った事もない別の部署の人へのメールは「あなたの言う○○というのは大変重要なポイントだと思います。しかし...」と遠回りに入るのが普通だ。
人の性格とかコミュニケーションの方法なんてね、そんな変わらんですよ。どこいっても。
ただ、「日本人ってはっきりNoって言わないんだよね」などと外国人の口から聞いて、あぁ、本当にそう思われてるんだなぁって再確認することも確かにある。日本人(/語/文化)てほんとにそんなに間接的で、もやっとしたものなんだろうか?
●仮説 1. 「日本の文化はあいまいで複雑」っていうのは日本人のセルフブランディングの結果なのでは?
この間も、日本人のあいまいなコミュニケーションの例として「どちらまで?」「ちょっとそこまで」っていうハイコンテクストな会話を挙げる外国人がいて、良く知ってるなぁって感心したんだけど、いやちょっと待ってw 実際にそんな会話してるとこなんて最近見た事ないわww
そういうの知ってる外国人って、日本通だったり日本語を習った経験のある人なんだよな。もしかしてそれ、日本語の先生が教え込んでるんじゃないの?
どっちかというと、「日本人は日本語/日本の文化が特殊だと思いたがる」という方が真相に近いんじゃないだろうか。
僕ら日本人が「日本人のコミュニケーションってあいまいな言葉ばっかでさー、なかなか複雑なんだよ。いやー面倒くさいわー。ほんと面倒くさいわー」って自虐っぽく言うとき、本当は、日本人としてのアイデンティティを最高に噛み締めているのでは?
そもそも「自分の所属文化が特殊だと思いたがる」っていうのも世界共通の現象だよね。どこの国でも、どこの会社でも「うちってちょっと変なんですよ」て言いたがる。たぶんそれが、ヒトの一般的なアイデンティティ確認の手段なのだ。
日本の場合、「俺らちょっと変なんですよー」の「変」にあたる物として、何らかのタイミングで「あいまい」が選ばれた。それを日本人自らが率先して広め、それが他の日本に対するミステリアスなイメージとうまくフィットして、日本のブランドイメージとして内外に定着していったという側面があるんじゃないだろうか。
●仮説2. 「あいまいな表現」や「まわりくどい表現」は日本語の特性ではなく、人間の言語共通の特性では?
日本語の曖昧性というか含みの多さの例としてよく挙げられるのが、日本語には「わたし」「僕」「オレ」...といろいろ一人称表現があるけど英語には「I」ひとつしかないっていう比較。
だけど、英語のIとかyouとかは格変化するパーツなので、新しい「私」を作るなら、I-my-meの変化とかI-am,you-areの対応パターンもあわせて発明しないといけない。それはもう語彙の発明というより言語自体の発明になってしまうので、そこを比較するのは不公平な気がする。それを言うなら日本語だって「私『は』」「俺『は』」「ワシ『は』」の「は」は一種類しかないですねって話になってしまう。
まとまった単位で言えば、英語にだってちょっと古めかしく"I shall"って言うとか、スラングっぽく"I ain't...nothin' ''の二重否定使うとか、あるいは"I can haz..."(lolcat語*2:かわいい小動物が喋るとされる、ちょっとたどたどしい言葉) なんてのもあって、話者のバックグラウンドをにおわす表現の幅は十分に広い。
*2:「Lolcat」 『Wikipedia』
http://en.wikipedia.org/wiki/Lolcat
もうひとつ定番なのが「僕はウナギだ」っていう例文だけど、これだって別に助詞の「は」にいろんな意味があるってだけで珍しい話ではない。子供の時に、イギリス人他の友達との間で「I'm hungry」「Oh, Hi, Mr. Hungry!」(「俺は腹へった」「はじめましてハラヘッタさん!」)みたいな他愛もないやりとりが一瞬だけ流行った。「I'mなんとか」がことごとく拾われるので、俺はトイレ行ってくるとか言おうものならひどい名前を頂戴する羽目になる。まあともかく、どんな言語でもありがちな多義性だと思う。
ちなみに英語に不慣れな人がこっちにきて買い物する時に、最初にとまどうのは数字の聞き取りではなく、レジの人が最初によく言う"how's it going?"だと思う。
金額とか支払い方法とかの重要なやりとりを聞き逃さないようにしなくちゃ!って身構えているところへ、意外なタイミングで虚をつかれるので、へっ?て一瞬呆然としてしまう(...よね?)
で、how's it goingは どう?調子は?みたいな意味だけど要するにただの挨拶で、別に本気でお前の体調や一日の出来事を訪ねているわけではないから、"good" とか適当に返しておけばよい。関西弁に直訳すると「もうかりまっか?」「ぼちぼちでんな」だと思う。先の「どちらまで?」「ちょっとそこまで」とまったく同じで、特に日本固有のコミュニケーション手法でもないんじゃないのかな。
●仮説 3. 丁寧な表現=まわりくどい表現という世界共通のパターンがあって、日本は丁寧さを要求される場面が多いため、結果まわりくどい表現が目立つのでは?
ところで「あいまい」と「まわりくどい」はちょっと違うのだけど、この「まわりくどい」表現については別な話があって、どうやら、丁寧な表現になればなるほど、もってまわった言い回しになるのは世界共通の現象らしい。
平易な話し方からほど遠く、もってまわった丁寧表現は、どんな社会にも存在する。たとえば、「ひょっとして、車で空港まで送ってくださることがおできかどうか、と思っておりましたが」という表現は、つじつまの合わないことだらけだ。「言語を生みだす本能〈上〉 (NHKブックス) [単行本]」 スティーブン ピンカー (著) 『Amazon』
http://www.amazon.co.jp/BC/dp/4140017406
例えば英語で「こちらのフォームにご記入頂けますか?」はcould you fill in this form?だ。直訳すれば「このフォームを記入することは可能でしたか?」である。悪名高い「こちらでよろしかったでしょうか?」も裸足で逃げ出すまわりくどさ。
「ええ可能でしたけれども?」とか揚げ足をとってもどうにもならないのは、洋の東西を問わずどこでも同じだ。
過去形や間接話法でどんどん回りくどくしていくのが、定番の進化パターンのようだ。
たぶん、わざと自然でない話し方をすることで、注意深く言葉を発している(コミットしている)感覚を伝える仕組みなんじゃないだろうか。
で、さっきのレジの話に戻るんだけど、
こっちのレジの人って気軽に話しかけてくるよね。一度、買い物袋の中にはいってたiphone充電器を見て、これ何?どうやって使うの?とか身を乗り出して来たときにはだいぶ戸惑った。
レジ打ちマシーンの一部と化したようなマニュアル厳守の日本の接客に慣れていると、仕事中に客と雑談なんかしていいのだろうかと不安になることもある。日本でも田舎だとこんなもんなんだっけな?
市電の乗務員を見てても、終点で止まってる間にスーパーに寄ったり、アナウンスの内容が乗務員によってまちまちだったり、旅行者に世話を焼いたり、だいぶフリーダムな感じがする。業務さえちゃんとやっていればそれ以外のことは気にしない(むしろ機械的でない臨機応変な対応を第一に期待される?)というコンセンサスがあるのだろうか?
店員にしろ、公共交通機関の職員にしろ、日本の方が、そのロールに徹することを強く求められるように思う。サービス業のマニュアルの厳格さに関しては、確かに日本の文化だと言っていい。
もし本当に、日本語に回りくどい表現が多いのだとすると、それは日本語自体がそうだと言うよりも、日本の文化がより広い範囲でフォーマリティを要求するため、そういった表現を使う機会が多くなる、ということなのかもしれない。
執筆: この記事はnabokov-VIIさんのブログ『nabokov7; rehash』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年10月07日時点のものです。
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