今回は中原淳さんのブログ『NAKAHARA-LAB.NET 東京大学 中原研究室』からご寄稿いただきました。
■「トッピング全部入り的ラーメン」のような人材スペックの謎!? : 企業って、そんなに"すごい人"が集まっているところなんですか?
最近、ちょっと前に就職活動を終えた、ある学生さんが、研究室にきて、こんなひと言を残していきました。
「就職活動をしていたとき、頭がクラクラしたときが何度もありました。企業は、学生に、いったい、どこまでを求めているんでしょうか? そして、企業が今求めている人材は、現在の従業員の中に、どれほどいるんでしょうか? 企業って、そんなに"すごい人"が集まっているところなんですか?」
興味深いので話を聞いてみると、こういうことだそうです。
最近、この学生さんは、いくつかの企業の説明会に出かけたのですが、そこで語られる「企業の求める人材」が「スゴイ=恐ろしいほどハイスペック」だそうです。
学生さん曰く、求められているスペックは・・・
「情報メディアを操れて、英語も堪能、世界中のあらゆる人と、仲良くなれるスキルをもつ。世の中の流行には非常に敏感でアンテナは高いが、それでいて、流されず、自分の芯をしっかりもっている。他の人が恐れるどんな困難にでも果敢にチャレンジできて、物怖じせず、メンタル強く、ガシガシと生き残っていける。しかし、それでいて、察する力はもっていて、引くときにはひける。受験はもちろん成功していて高い基礎学力や文章能力はもっているが、しかし、それでいて、受験の成功には固執していない」
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「企業の採用担当者の方曰く、ウチが欲しいのは、そういうものをかねそろえている人材ですというのですが、そんな人、本当にいるんですかね? そして、入社後、そういう従業員の方ばかりと、わたしは仕事をするんでしょうか? なんか自信がないなぁ・・・」
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学生さんの話を、なかば同情しつつ、聴きながら、僕はいくつかのことを考えていました。
第一に、経営学の教科書的にいえば、採用活動とは、人材マネジメントの一貫であり、「自社の競争戦略」と同期する必要があるといわれています。
ならば、こういう「トッピング全部入り的ラーメン」のような人材スペックとは、何を意味しているのでしょうか?
「すべてが盛り込まれている」ということは「何も決め切れていないこと」のようにも一見感じますが、実際のところ、こういう人材像はどのようにつくられるのでしょうか?
第二に、僕は、職場研究・マネジャー研究をしておりますので、一番、ここが気になった点ですが、仮に、こうした人材が入社した際、こうした人材をどのように「組織社会化」するのか、非常に興味深く思います。
学生さんは「こういう人材は、現在の従業員の中に、どれほどいるんでしょうか?」と問うていますが、この問いは、組織社会化の問題にリンクしているような気がします。
「ハイスペックな人材を採用する」ということは、それをマネジメントする方、受け入れる職場、人事制度にも、「ハイスペックな水準」が求められるということです。
時と場合にもよりますが、多くの場合、「ハイスペック」であることは「ハイメンテナンス」を必要とします。つまり、そういう人材が満足できる仕事やキャリアを構築する期待が、組織側には高まる、ということですが、それに対する備えは十分なのでしょうか。
第三は、いわゆる「アイロニー」です。この「トッピング全部入り的ラーメン」のような人材スペックで、本当に求められているものは、「この人材スペックに真に受けないこと」であったとしたら、最高に皮肉(アイロニカル)だな、と感じました。
そして、これは「新しいタイプの採用手法」として有効かもしれない、と少しマジに考えてしまいました。まさか、そんなアイロニーはないとは思いますが、不謹慎にも、ちょっとだけ想像してしまいました、笑。
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帰り際、学生さんには、ひと言だけ声をかけました。
「君は、これから社会で何度もクラクラするよ。でも、根拠ないけど、大丈夫だよ、そんなものだから。まずは、クラクラすることを、自覚できるようにしよう。どうしても、しんどかったら、クラクラを誰かにお裾分けしなさい。みんなクラクラしてるから、意外に盛り上がれるかもよ」
来春、社会にまたひとり学生が旅立ちます。
そして人生は続く
執筆: この記事は中原淳さんのブログ『NAKAHARA-LAB.NET 東京大学 中原研究室』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年10月01日時点のものです。
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