今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
■【普通の歴史】1-3 江戸から明治へ(3)ヨーロッパ人が占領した地域の状態(中部大学教授 武田邦彦)
地上の「場所」にはいくつかの政治体制がある。
今では、どこにも「国」があるから、昔も「国」があったと思うけれどそれは違う。昔の地球上には、「国」があるところと、「単なる地域」があった。「国」があるところは国境があって王様がいて、軍隊が守っていた。だから、「国」の「国境」を超えて他の国の軍隊が入ってくると、その国の軍隊は負けない限りその国を守るために戦う。
でも、このような「現在ではあたりまえの国」ができたのは、メソポタミア、インド、中央アジア、中国、日本、ヨーロッパなどのような場所を別にすると、割合最近で、それまでは多くの地域が「単にある部族がいるところ」で国境もハッキリしていなかった。だから、ヨーロッパの侵略戦争というのは、「ハッキリした国と戦争して侵略したところ」と、「単なる地域でそこにいる部族を殺して侵略したところ」がある。北アメリカのアステカ王国、南アメリカのインカ帝国、インド、インドシナ、インドネシアなどは歴史のある国だからそこにある国と戦争して侵略したのだが、アメリカやアフリカの大部分、シベリアやアラスカ、太平洋諸島やオーストラリアなどはまだ「部族社会」だったので、国と戦争することなくヨーロッパは植民地にすることができた。
「単なる地域でそこにいる部族を殺して侵略したところ」としては、アメリカ合衆国をはじめとするアメリカ大陸、オーストラリアなどが典型的で、そこにいる部族を徹底的に殺戮して「人がほとんどいない状態までしてから住む」という方法だった。
アメリカ人(もともとイギリス人)が今のアメリカ合衆国に住んでいたインディアンを殺した数は数1000万人とも言われるが、いずれにしても簡単に言うと「皆殺し」にしたので、今ではアメリカ人しかいないような感じだ。オーストラリアもイギリス人が先住民のアボリジニを全滅したので、今ではオーストラリアには実質的にイギリス人しかいない。
このような地域は「もめ事」が少ない。先に住んでいた人が皆殺しに遭っているからだ。アメリカ合衆国でインディアンがほぼ全滅した後はもめ事が少ないのがこの例だ。ところが中途半端に殺されたところや、インドのように古い歴史を持っていて、大勢のインド人がいるところはヨーロッパ人も手を焼いた.そのような地域ではヨーロッパ人はどのような手段で統治したのだろうか? 何しろ少人数で大多数の人を押さえ込むのだから、かなりの無理をしている。
私が本で読んだり、歴史学者などとの話の中で知った典型的な支配方法には次のようなものが標準的のように感じられる。
1)ポルトガルの支配地では、軍隊は女性を連れて行かず、現地の女性を自由に乱暴することを許した。結果として誕生してくるハーフの子どもが男子の場合、ポルトガル名と銃を渡して現地の支配の助手にした。
2)イギリスのインド支配では、インドの発展を懸念したイギリスが、優れたインドの若者が出てくると軍隊を派遣して若者の両手首を切り落とした。このような政策によって優秀な人材が育つのを防いだ。
3)フランスの植民地では、街角で少しでも怪しい若者を見つけると尋問し、無理やり刑務所に入れた。刑務所に入れられると畳一畳程度のコンクリートの床の部屋に押し込められ、両手錠を掛けられて監禁されるので短期間で死んだ。
4)イギリスのオーストラリア支配では、アボリジニを自由に殺害して良いと言う法律が成立し、住民のアボリジニの女性を大きな岩の上に集団で連れて行き、そこから落ちて死ぬのを酒を飲みながら楽しんだ。犠牲者数は100万人と言われる。オーストラリアの南のタスマニアでもほぼ同じ事が行われタスマニア人は絶滅した。
5)アメリカ(イギリス人)では、インディアンの男は「人の召使いにならない」という誇りを持っていたので、次々と騙して戦争を仕掛け、推定1000万人が虐殺されたとされる。
6)アメリカ人はアフリカから奴隷を連れてきたが、効率的に奴隷船で運ぶために、20人ずつ奴隷を鎖で繋ぎ、嵐になると船の難破を恐れて20人ずつ鎖で繋いだまま海に投げた。アフリカでは民家を襲って希望リストにある年齢性別の人を無理矢理連れ去った.家族は泣きながら別れ別れになった。
7)スペインはアステカ王国とインカ帝国でそこの住民(主として成人男子)を皆殺しにした。
これらの話には若干の誇張もあるかも知れないし、また日本人には俄に信じられないというところもある。でも、ソ連時代のスターリンの粛正(2000万人)、中国の文化大革命(4000万人)、アフリカの奴隷売買(1600万人)などから見ると、イギリスのインド支配(1700万人)、スペインによる南北アメリカの征服(1500万人)などはそれほど飛び離れた数字ではない。
執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年07月30日時点のものです。
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