今回はうさみのりやさんのブログ『うさみのりやのブログ ~新潟は柏崎からお届けしています~』からご寄稿いただきました。
■法律を破るのは悪いことです
イケハヤ師がこんなエントリーを上げてました。
「「違法だから悪いこと」は本当なのか」 2013年07月14日 『ihayato.書店』
http://www.ikedahayato.com/index.php/archives/25539
内容は「善悪の判断は個人でするもので、法律に反していることをしたからと言って倫理的に間違っているとは言えない」というものです。人の考え方は人それぞれですし、私は基本的にイケハヤ師の考え方は好きなのですが、これについては明確に「民主主義を壊しかねない危険思想である」と言っておきたいと思います。この記事の中で「極論法律が人を殺してよいとしたら、人を殺すのは善なのか?」という疑問を投げかけているのですが、これは基本的人権というものを理解していない発想で、人類が体験的に学んできた社会的英知を軽んじています。一応少し前まで法律の条文を書いていた立法のプロの端くれとしてどうしても看過しがたいので少しここで反論しておきます。
そもそも近代民主社会というものは「強いものが勝つ」といういわゆる「万人の万人に対する闘争状態」をいかに脱して平等な社会を作るかという発想から作られています。細かいことは割愛しますが「人間はみな自然にして神聖不可侵な権利を有する。だから何人たるもの暴力によってそれを奪うことは許されない」これが近代社会の根っことなる基本的人権の思想です。そしてそれを実現するために個人の身体の安全を脅かす暴力的な機能は行政で一元的に管理し、その行使に関するルールは人民の代表が集まる国会で制定し、それを執行するかどうかの判断は裁判所にゆだねる、という三権分立の原則が現代国家機構の基本的枠組みとなっています。今さら言うことでもないかもしれませんが。
だから「個人が個人を殺してよい」という法律は近代民主主義社会では「原理的に自らの命が侵される危機にある場合を除いて(いわゆる正当防衛)絶対成立しない」のです。近代社会にとって人間の基本的人権はそれくらい絶対不可侵なものです。ちなみにナチスドイツは全権委任法が成立した時点で近代民主主義国家ではなくなったと理解すべきだと思っています。「ナチ政府が制定した法律は憲法に違反しても有効である」とか言ってる時点で、立憲国家ですらありませんでした。
話はそれましたが、では、個別の法律上の基準と善悪との関係とはどう考えるべきなのか、ということなのですが、この点はイケハヤ師のおっしゃる通りで、個別の法律の基準は善悪の基準を示しているわけではありません。そもそも社会全体で倫理をすり合わせて共有するなどということは不可能なのですから、みんなで合意できると最低限のルールを作ったということにすぎません。だから誰にでも個人的な倫理観からすれば間違っている法律というものは世の中にはたくさんあります。(薬のネット販売など議論が分かれる典型ですね)ただ大事なことは「それはあくまで個人的な感覚であって、、社会で通じるものではない」ということです。如何に個人の自由の範囲が拡大しようが、そもそも自分が平然と生きていられるのは基本的人権を保護してくれる国家という機構があるからで、あたり前のことですが社会のルールは個人的な倫理観に優先して適用されるものなのです。すなわち「社会的な倫理たる法律」の範囲の中でしか、個人の善悪基準は通用しない。それが民主主義国家というものだ、ということです。一言でいえば順法精神とは民主主義社会における「徳」そのものです。
それでも「目の前の命が法律の制約で救われない」というのならば、やってしまって裁判所の違憲立法審査で争えばよい。それが嫌なら日本は民主主義社会なのだから政治家を選ぶ選挙というプロセスを通して改革を訴えればよい。ちなみに個人の善悪感と社会倫理たる法律との関係を倒錯させて、こういった民主主義のプロセス外で革命をはかり、暴力的行動にでることを普通は「テロ」と呼びます。やや過剰反応だったのかもしれませんけど、今日書いたようなことは僕の変わらぬ信念で、ジョン・ロックの「市民政府論」から学んだことです。学生時代この本を読んだ時、あまりに感動して鳥肌が立ったのを思い出します。
ちょっとまとまりが悪くなりましたがではでは今日はこの辺で。そして最後に面白いお題を与えてくれたイケハヤ師に感謝。
執筆:この記事はうさみのりやさんのブログ『うさみのりやのブログ ~新潟は柏崎からお届けしています~』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年07月19日時点のものです。
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