著作権保護期間を満了した文章のデータベース化する『プロジェクト・グーテンベルク』(Project Gutenberg)。米国のマイケル・ハート氏がイリノイ大学在学中の1971年に、学内の大型コンピュータを活用する手段として思い付き、手始めに米国の独立宣言全文を入力したのが始まりとされています。1990年代以降にはインターネットの普及にともない『Gutenberg』の名を冠した多数の姉妹プロジェクトや、日本の『青空文庫』(http://wwww.aozora.gr.jp/ )に代表される『プロジェクト・グーテンベルク』の影響を受けた様々なプロジェクトが各国に立ち上がりました。
しかし、『プロジェクト・グーテンベルク』の活動は1998年の米国や2004年のオーストラリアなど各国で繰り返される著作権保護期間の延長に足を引っ張られ、停滞を余儀なくされているケースも多いことで知られています。そんな中、今なお精力的に更新を続けているのが『プロジェクト・グーテンベルク・カナダ』(PGCA)です。
カナダは今やG8で日本(2004年に映画著作物のみ70年に延長)と並んで少数派となってしまった、著作権保護期間をベルヌ条約最低基準の「個人の死後または法人の公表後50年」としている国。実はベルヌ条約加盟国の中で最も多いのが日本やカナダと同じ“50年”組であり、EUや南米を中心とする“70年”組の方が少数派なのです。それに、日本を含めて自由貿易協定の交渉で相手国に対して延長を強硬に主張している米国は、「個人の死後70年または法人の公表後95年」かつ1978年以前に公表された作品(1997年までに保護期間を満了したものを除く)は「個人の死後95年または公表後120年のどちらか短い方」なので実質“95年”と言う方が実情に即していますし、隣国のメキシコに至っては世界最長の“100年”なので上を見ればキリがありません。
『PGCA』は2005年以降に『プロジェクト・グーテンベルク・オーストラリア』(PGAU)が米豪自由貿易協定に基づく著作権保護期間延長で2024年まで実質“開店休業”に等しい状態になってしまった後を受けて、英語圏の“最後の砦”のような存在となってしまいました。英語を公用語とする主な国では他にニュージーランドも“50年”組ですが、『プロジェクト・グーテンベルク』の姉妹プロジェクトは立ち上がっていません。また、カナダは英語と合わせてフランス語も公用語としているので、フランス語の文献も少数ながらフランス本国に先行して収録・公開されています。例えば、イギリスの詩人であるウィルフリッド・ギブソン(Wilfrid Gibson, 1878-1962)の作品はイギリス本国では2032年末まで著作権が存続する予定ですが、『PGCA』では今年から保護期間満了で作品が公開されています。
その『PGCA』も日本と同様に「自国の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)参加で米国主導の著作権保護期間延長を義務付けられるのではないか」と言う危機感を強く抱いており、昨年からトップページに「“著作権延長反対”の声を政府に届けよう!」という檄文を英語とフランス語の2言語で掲載。著作権強化に批判的な論客の一人として知られる、オタワ大学のマイケル・ガイスト教授(@mgeist )の解説記事にリンクを張っています。
一方の日本では、政府のTPP対策本部が『TPP交渉参加に当たっての意見募集』を17日まで実施中です(意見提出方法はメールのみ)。意見の提出資格は“団体等”となっていますが、『Twitter』で対策本部に問い合わせた人のツイートによればこの“等”には団体に属していない個人も含まれているそうで、実際に個人のブログや『Twitter』で「個人の立場から著作権の保護期間や非親告罪化などの問題について意見を提出した」という報告が見られるようになっています。
画像:Project Gutenberg Canadaのトップページ
http://www.gutenberg.ca/
TPP Copyright Extension Would Keep Some of Canada's Top Authors Out of Public Domain For Decades(Michael Geist)
http://www.michaelgeist.ca/content/view/6226/125/
TPP政府対策本部:TPP関連情報(意見募集の案内は画面を下にスクロール)
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo.html
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