今回はtokunoribenさんのブログ『拝徳』からご寄稿いただきました。
■半径50メートルの世界に安寧する最下層の人たち
はたらく魔王さま!というアニメが面白いと思う。
ちーちゃんかわいいよ。ちーちゃん。
このアニメはかつて魔界を制覇し勇者と死闘を繰り返した魔王が、なぜか現代社会にワープして、魔力を失い生活していくためにマクドナルドでアルバイターとして勤しみ、追ってきた勇者もオペレータとして派遣社員で働いていてなじんじゃってる、そういう世界観のアニメだ。
なんでこのアニメが面白いんだろうな、って思って理由を考えてみたのだけど、それはやはり二つの根底の価値観について前提背景を共有していてそのギャップがおもしろさの理由だと思う。
勇者と魔王の関係。それはゲームやマンガで散々繰り返される対比構造。壮大な世界観。めくるめくスペクタル。互いに憎しみ合い、血で血を洗う争い。
ゲームやアニメの世界観に触れた事が有る人なら誰でも知っている関係だ。
マクドナルドのアルバイト。それは通称マックジョブと呼ばれ仕事の中では最も下層の仕事。アルバイトの代名詞的な存在で、彼らがどんな仕事をしているのかは普段利用したことがあるなら誰でも知っている。
この作品を面白いと思う為には、勇者と魔王がそれぞれ持っている感情を理解し、面白いと思うほどにそれらの世界観を共有していて、そして日常的に彼らマックのアルバイトでの仕事が想起できるくらいに日常的にマックに行く生活スタイルを取っている、そういう二つの価値観を前提背景として持つくらいに、これの分類に染まった人たち そういうセグメント、そう、結局このアニメは最下層を主たる対象としたアニメである。
そう、どこかの会社の会長がいうように、ネットの向こう側にぶらさがっている最下層の人間がこの作品の視聴者して想定されている対象だ。
最近、コンビニに行くとアニメの関連グッズが増えた気がする。それはやっぱりそうした方が売れるからだろう。コンビニを利用するのにそういうセグメント層が増えているからだろう。
世界は急速に拡張し進化し続けている。
Googleの検索ボックスの向こうには未だかつて無い人類の叡智が広がり、FacebookやTwitterのネットワークの向こう側には世界中の十数億人といつでも自由にコンタクトができる世界が広がり、iIphoneの端末の向こう側には、新しい無限のライフスタイルが広がっている。
それなのに
僕たちはGoogleの検索ボックスに打つ言葉も見つからず、結局はまとめサイトを眺めては名前も知らない誰かのチープな意見を鵜呑みにして、FacebookやTwitterでは変わらない狭いコミュニティでなれ合っては、価値観が異なる空気読まずを叩き潰しては溜飲をさげ、無限のライフスタイルが広がるはずのiphoneのモニター越しに、色付きのパズルブロックをを必死で並べ替えている。
そしてふとした折りに自分の琴線に触れたアニメやゲームで誰かがつくった世界観に埋没して、貴重な時間と金を奪われ続ける。
世界は急速に進歩して広がっていく一方で、自分の世界は急速に狭くなっている。
マクドナルドやコンビニに行けば、24時間365日いつでもおいしい物がものの数百円で用意されていて、3.5インチのスマートフォンの画面向こう側にはタダでいつでもいくらでも楽しく時間とチープな好奇心を満たしてくれるものが用意され、誰かのつくった意見で、誰かのつくったコミュニティで、誰かのつくった世界観に埋没する。
気づけばここは最下層。半径50mの世界。
自分は、ただ時代の進歩がもたらした安易な全能感にぶらさがっているだけ。
それなのに、そんな新しい世界に安住を感じている自分に、魔王と勇者の世界観とマックジョブとの世界観のギャップに笑っている自分に、ふとした折りに気がついてしまって、胸がたまらなく苦しくなる。
「はたらく魔王さま! (1) (初回生産仕様:和ケ原聡司書き下ろし小説(250ページ超)同梱) [Blu-ray]」 『Amazon』
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執筆: この記事はtokunoribenさんのブログ『拝徳』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年06月07日時点のものです。
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