今回は大関暁夫さんのブログ『日本一“熱い街”熊谷発コンサルタント兼実業家の社長日記』からご寄稿いただきました。
※この記事は2013年05月01日に書かれたものです。
■猪瀬知事の失言~広報担当は仕事をしたか?
東京都の猪瀬知事がニューヨーク・タイムスのオリンピック誘致に関するインタビューに答えて「ライバル批判発言」をしたとされる事件で、昨日知事は謝罪会見をしたそうです。
今回の件ではもちろん全ての責任は知事本人にあることは間違いありませんし、外部的に責めを負うべきは知事一人であるでしょうが、私は組織内部の問題としては本件から、マスコミ対応ポジションとしての広報の役割と心構えを再認識する必要があると感じています。
私自身若い頃に、銀行におけるプレス部門の確立をミッションとして新聞社に1年間派遣され、現場の記者を経験させてもらうことでマスコミの基本的な姿勢や考え方を学ばせてもらいました。その経験をもって広報室の設立をしたわけなのですが、その際に強調したことは、「広報の役割は外よりもむしろ内の管理」であるということと、「攻めよりもむしろ守りの役割」であるということでした。
広報には実は二つあって、英語で言うところのプレスとパブリシティがそれです。プレスとはおカネのかからない広報、いわゆるニュースリリースの実施や取材対応が主な業務です。一方のパブリシティは、平たく言えば宣伝広告のことで、おカネをかけてメディアを通じたPR活動をすることです。新聞社で言うならば、前者は報道局が相手の仕事であり、後者は広告局が相手の仕事になります。
今回問題になるのはもちろん前者であり、おカネで紙面を買うわけでない以上それなりのリスクを負ってマスコミ対応をするという認識が必要で、広報担当は取材対応に関するリスク管理こそが最重要業務であると言っていいと思います。今回のようなインタビュー取材において、東京都の広報担当に欠けていたのかもしれない、リスク管理の立場から見た具体的な取材対応のポイントを3点あげおきます。
まず第一は、インタビュー前の被インタビュー者への注意事項確認です。
これはもうごくごく常識的なことですが、先方より出されているインタビユーの目的、こちら側で話すべきポイント、対応上の注意、特に話せる範囲と話してはいけないことの確認をします。トップインタビューであっても、通常は広報担当が事前にトップに直接説明し念押しをするのです。特に、東京都のようにトップがその組織で育っていない“落下傘トップ”の場合には、特にここは重要になります。詳細は分かりませんが、今回この点はかなり甘かったのではないかと感じさせられるところでもあります。
二番目に、インタビュー同席時における記者質問の吟味。
取材申し出の段階でいかに好意的な取材趣旨を伝えられていようとも、裏側に潜んでいるかもしれない隠れた意図や発言リスクは可能な限り想定した上で取材に同席します。こうした隠れた意図やリスクの想定をすることで、記者から出された質問によっては、トップがその段階では答えてはまずいと思われるものが振り分けられることになります。今回のイスタンブールという具体名を付した記者の質問は、まさにこれに該当するわけです。この質問が出された段階で広報担当は、「これは同じ立候補地の立場ではコメントできませんので、質問を変えていただけますか」と切りかえす必要があるのです。
銀行協会の会長会見やインタビューでよくあったのは、政治的な質問や相場に関する質問。答えないだろうと思っても敢えてぶつけるケースもありますし、言い方をかえて誘導するようなケースもあります。この類は出された段階で即座に、「立場上お答えできない」と却下します。答えてしまってから、「すいません、今のはまずいのでオフレコでお願いします」などということを言い出す広報担当が稀にいますが、これはもう完全にあとの祭り。発言の取り消しは基本的にできないと、考えなくてはいけません。今回の件では猪瀬知事が答えてしまったことは確実であり、広報担当が質問の段階で選り分けができなかったことは重大な落ち度であると思います。
さらに三番目は、発言内容によって発言を止める役割。これはもう最後の砦です。会見などでこれをやるのは難しいのですが、個別インタビューでは質問自体に問題がなくとも、被インタビュー者のサービス精神が旺盛であると不要に広範囲にわたる回答をしてしまうことがあります。この場合には、発言を聞きながら「未公表案件」や「不用意発言」に触れそうだと思われた段階で横から発言を止めます。
「社長すいません、ちょっと待ってください。Mプロジェクトの件はまだ未好評です」
「あ、そうか。悪い悪い。記者さんごめんなさい。この話はここで終わりね」
などというやり取りは、実際のインタビュー現場でよくあるお話です。
トップ・インタビューには、以上のような立ち回りができる広報担当が同席するという意味から、広報部門の責任者がその任にあたるのが原則です。若い担当者がいかに優秀であろうとも、ベテラン記者の質問やトップの発言を遮ることは至難の業なのです。そしてインタビューに広報担当が同席する意味が何であるのか、被インタビュー者に事前に理解をいただくとともに、広報担当自身もしっかりと自己のミッションを認識した上で同席することが何より重要です。
私は今回の件は猪瀬知事の自身の発言におけるリスク管理の甘さともに、東京都の広報体制のお粗末さが露呈した事件であると思っています。メディア取材を受ける機会のある企業や団体は、これを機に取材対応リスク管理の重要さと広報担当の役割の再認識を徹底すべき事案であると感じさせられました。
執筆: この記事は大関暁夫さんのブログ『日本一“熱い街”熊谷発コンサルタント兼実業家の社長日記』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年05月03日時点のものです。
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