池田信夫はグラフの描き方を勉強した方がいい

今回はメカAGさんのブログ『疑似科学ニュース』からご寄稿いただきました。

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■池田信夫はグラフの描き方を勉強した方がいい
「安倍晋三氏のためのインフレ入門」 2012年11月28日 『ガジェット通信』
http://getnews.jp/archives/275291

池田信夫はどうして異なる種類の数値を一つの尺度でグラフを描くのだろう。

池田信夫はグラフの描き方を勉強した方がいい

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今度はマネタリーベースとマネーストックだ。両者は別な性質の数値なのだから、変化量が同じになる保証はない。むしろならない。一方が2倍になったからといって、他方も2倍になるとは限らない。勉強時間を2倍にしたからといって成績が2倍になるわけではない。でも大雑把な傾向としては勉強時間を長くすれば成績は上がる。

変化量の相関の有無を見たいなら、両者の変化が見えやすいようにスケールを調整してやらなければならない。池田信夫自身が別なグラフで描いてるのだよね。

「橋下徹氏のためのデフレ入門」 2012年04月21日 『池田信夫 blog part2』

http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51785333.html

池田信夫はグラフの描き方を勉強した方がいい

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「貨幣数量説について*」 2011年01月22日 『池田信夫 blog part2』

http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51669057.html

池田信夫はグラフの描き方を勉強した方がいい

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上のグラフの青線がマネタリーベース、下のグラフの青線がマネーストック。比較すれば、形は違うが、大雑把には同じタイミングで増減しているはず。

たとえば2001年はマネタリーベースもマネーストックも落ち込んでいる。2002年~2003年はどちらも増加している。2007年はどちらも大きく落ち込んでいる。2009年はどちらも増加している。

他のさまざまな要素が影響するから全く同じ形にはならないが、増減はそれなりに連動しているのだ。マネタリーベースの増減の結果を受けてマネーストックが増減するから、多少ラグ(時間的遅延)はある。よく見ればグラフのピークや谷間が若干遅れている。

2002年から2004年の間にマネタリーベースの2つのピークがあるが、マネーストックもよく見れば2002年から2005年の間に2つのピークがある。後の方のピークは若干遅れてしかも形が崩れてはいるが。

池田信夫が「両者は連動していない」と主張したいなら主張すればいいが、いずれにせよ両者の変化がわかりやすいグラフで比較しなければ意味がないだろうに。

なんでわざわざ見難いグラフを描くのかねぇ…。だいたいマネタリーベースを増やしても意味がないというなら、なんで上げたり下げたりしてるのだろう?意味がないならどんどん増やしていってもいいはずじゃん?そうすれば少なくとも「もっと増やせ」と責められることはなくなるんだから。そうではなくちゃんと意味があるから、増やしすぎないように適時減らしているのだ。

   *   *   *

先日の池田信夫と高橋洋一の対談を見てて思ったのだが、高橋洋一の方は為替相場の方から国内の物価を考えているんだよね。円高だから国内はデフレなのだ、と。だからインフレにするには円安にすればよくて、為替相場は日米両国のマネタリーベースの比で決まるから、円安にするには日本のマネタリーベースを(アメリカ以上に)増やせばいい、と。

高橋洋一の説明によく出てくるグラフ。

「日米マネタリーベース比率と為替の関係」 『持続可能性を考える』

http://park.geocities.jp/astroecology/DATA/Keizaishihyou/MBandKawase.html

青線が為替レートで下に行くほど円高。赤線が日米両国のマネタリーベースの比。つまり日米両国がお札を刷った比。高橋洋一はこのグラフから両者は概ね一致していると主張している。

まあ完全に一致しているというには苦しいが、そもそも1970年ごろは固定相場だったわけで、そこから紆余曲折を経て徐々に円高になり、1985年のプラザ合意(ドル安誘導)を経て、現在に至る。

2001年~2006年の量的緩和により日本のマネタリーベースが増加し(赤線の上昇)、その影響が若干遅れて2004~2008年の円安(青線の上昇)として現れている…と高橋洋一は言っているようだ。

ここで安定するかに見えたが(この頃日本経済も比較的上向きだった)、2008年のリーマンショックによって今度はアメリカ側が量的緩和をしたので(赤線の急降下)、それにつられて円高(青線の下降)に現在なっている、と。

   *   *   *

円相場はマネタリーベースで決まるというのが高橋洋一の持論。まあ俺も大雑把にはそういう気がする。その時その時のきっかけで為替相場は上下するが、大きな流れとしてはマネタリーベースの比と同じになる、もしくは同じ方向を目指して変化する、と。

そして高橋洋一は国内の物価も為替相場に連動していると考えている。簡単にいえば円高で安い輸入品や労働力が入ってくるから、日本国内はデフレなのだ、と(これも俺は同意する)。

だから高橋洋一のいう期待インフレ率というのは、実質的に期待為替相場であり、為替相場はマネタリーベース比を目指すから、マネタリーベースを増やせば、インフレになると主張する。俺はこの主張は大きな流れとしては一理あると思うけどね。

   *   *   *

一方池田信夫は考え方が全然違う。為替相場はほとんど考えてない。というよりも国内の物価下落の結果として円高になっていると思っている。俺はとても同意できない。だってデフレになったのはそもそも1990年代後半の円高がきっかけだし。

当時1ドル=120円ぐらいだったが、それでも円は安すぎると言われていた。日本経済の強さから考えて、もっと円高になるべきだ、と。で結果的に1995年頃に1ドル=75円とかになったわけだ。そこから国内のデフレが始まり、同時に不況になった。

日本経済が好調だったから輸出が伸び、円高になった。そのため安い輸入品が入ってきて国内がデフレになった(「価格破壊」とか言われた)というのが1995年前後の状況なのであって、池田信夫が主張するような、国内経済の不調がデフレをもたらしているというのは、当時の状況をまったく説明できない。

繰り返しになるが当時は円高が先行し、次にデフレが起こり、それでもしばらくは日本経済は耐えていたが、ついに耐え切れなくなって不況になった。この順序で起きたのだ。池田信夫が言うような、日本経済が不況だからデフレになり、さらに円高になったわけではない。

1990年代後半に起きた事象の順序

日本経済の好調→輸出増加→円高→安い輸入品→デフレ→国内産業の衰退

池田信夫の主張

国内産業の衰退→デフレ→円高

   *   *   *

しかしながら池田信夫はそうは考えておらず、国内の経済不調がデフレの原因だと主張する。だからデフレを克服するには構造改革をして経済を復調させるしかないという。

正直俺には妙な理屈だと思うんだけどね。だって別に経済が好調ならデフレでもいいわけで、経済にとってマイナスだ(と言われている)から、デフレを何とかしようとしてるのだし。それなのにデフレを克服するには経済を好調にすればいいって、鶏と卵の話だよね。

そしてマネタリーベースを増加しても(ゼロ金利状態では)経済には影響を与えない、つまり無駄であると主張するために、冒頭のマネタリーベースとマネーストックの関係の話になる。両者は無関係だから、マネタリーベースをいじっても無意味だ、と。(この無関係というのが上述の通り池田信夫のグラフの描き方が下手だからそう見えるだけなのだが。)

   *   *   *

池田信夫は円相場と国内景気は無関係だと考えているらしい。以前「いまはデフレじゃない」とか主張していた。円相場を考慮して国内物価を補正すると、おおむね一定の値になるという。これも考えが逆立ちしている。円高だからそれを反映して国内の物価が下がっている(デフレになっている)のであって、その意味では為替相場と物価を掛け算すれば一定の値になるのは当たり前。シーソーのようなものだ。

で、その値が一定でも国内経済にとっては全然嬉しくない。デフレ自体が経済にとってマイナス(実質金利が高騰し結果的に金融引締めと同じになっている)なのだから、池田信夫はまったく意味のない計算をしている。

池田信夫は自分がなにを計算しようとしているかも、わかってない。学生の頃方程式を解くために一生懸命に式を変形してたら、最初の式にもどっちゃったとかあるじゃん。方向を定めずに機械的に計算するとそういうことになる。

   *   *   *

どうも池田信夫は1995年頃にさんざん言われた「円高=輸出産業壊滅」という話が頭にこびりついているようだ。もちろん円高は輸出産業にマイナスだが、いまやそんな段階ではなく、円高によるデフレが国内産業も衰退させている。輸出産業だけの問題ではなく、安い輸入品すなわちその背景にある安い人件費の流入が、国内産業を衰退させる段階になっている。

そういう実情を見ず、「円高=輸出産業の問題」と思い込んでいるから、構造改革をして競争力のある製品を作ることが大事なのだとか、いうのだろう。それはそれで大事だが、いま深刻なのは国内産業。

かりに今の状態で輸入品と同じ競争力をもつには、日本人全体の人件費を下げるしかない。それは円安にするのと変わらない。日本人全体の人件費をドル換算で下げるのだから。

たとえばいま時給1000円の労働者がいるとする。1ドル=100円なら時給10ドルだ。人件費を半分に下げて時給500円にすると、ドルで考えれば時給5ドルとなる。でもこれって1ドル=200円にしたのと同じだよね。時給1000円のままで1ドル=200円なら、やっぱり時給5ドル。

海外と競争力をつけるには、日本人の時給を(ドル換算で)下げるしかない。これは動かない。ただしそれは円で見た場合の数字ではない。海外の人件費と比較するのだから、ドルで比較しなければならない。

ドルで見た日本人の人件費を下げるには、時給をそのままで円安&インフレにするか、円高&デフレのまま時給を下げるかだ。どちらでもドルで見た日本人の時給は下がるが、デフレだと実質金利が高騰したままだから経済の活力がどんどん失われていく。円安&インフレにすることで、日本人の人件費を下げるべき。

   *   *   *

●追記


BIFF: 「円安・インフレにして日本人の人件費を下げるべき」とは、それはつまりインフレにしてかつ所得が増えない状況にせよという意味かな?まぁ、恐らく現実にそうなる可能性が高いですけど。

ドル換算の人件費を下げる=円換算での所得が下がるということでは必ずしもないだろう。インフレになれば円換算での人件費は上がっていくはず。人件費も物価の一部なのだから。

国内の物を買う限り、いまよりも物が買えなくなるということはないはずだし、産業が活性化する分だけ、むしろ給料も増えるはず。ただし海外のものは今ほど手軽には買えなくなる。そもそもそうする(国内の産業を活性化させる)のが目的なわけで、国内の物を買えばいい。

原材料費は値上がりするだろうから、それが国内産業の活性化による所得の増加とどちらが上回るかは微妙。いずれにしても産業が衰退しつつある国が、海外のものを安く買えている現状が異常なのであって、どんな道を選んでも、それは長くは続かない。

myogab:  円高誘導がデフレ不況を招いた~ってのは同意できるけど、逆をやったら元に戻る~とは到底思えないんだよね。

円安にすればそれだけで景気が良くなるという考えがそもそも短絡的。円安にすることで、景気が良くなる「可能性」が生まれる。その可能性を実現できるかは努力次第。現状はそもそも努力する舞台にすら立てないのが問題。

ryozo18: 池田信夫氏は「デフレは貨幣的現象ではない」という立場に立っているというだけの話のような

だからその話が間違っているという話をしてるだけのような。池田信夫のファンはバカが多いな。

執筆: この記事はメカAGさんのブログ『疑似科学ニュース』からご寄稿いただきました。

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