今回は宮本徹さんのブログ『宮本徹 いま言いたい』からご寄稿いただきました。
■待機児童の理由は何か 駒崎弘樹さんに伝えたいこと
認可保育園に入れない待機児童の問題がいよいよ深刻になる中で、首都圏各地で父母が認可保育園増設を求めて、勇気をもって立ち上がっています。私の住む渋谷でも認可保育園を求める931筆の署名がよせられ区議会に提出されました。
杉並のお母さん達の行動をきっかけに、メディアも大きく待機児童問題を報道しています。これまでのメディアの報道と違い、父母が求めている認可保育園と、行政が認可外の保育施設で安上がりにすませようとしている両者の溝に焦点をあてての報道が増えています。
ところで、これらのメディアの報道について、保育事業を経営している駒崎弘樹さん(NPO法人フローレンス理事)がブログ上で批判をしています。わたくしのところの新聞も名指しされています。
駒崎さん本人は「データとファクトにもとづいた議論」といっていますが、報道批判の前提となっている事実について大事な点で勘違いされているようです。駒崎さんは、保育関係者に影響力が大きい方だけに、ネット上で、事実について記したいと思います。
一番の勘違いは、認可保育所の基準が「高度成長を経た日本の都市環境には合わず、機動的にニーズに合わせて建設していくことができなかった」という点です。続く文章には、東京都が「面積基準や園庭基準等を緩和した独自のシステムを2001年に立ち上げ民間参入を呼び込み…認可保育所に入れない子どもたちの受け皿をつくることに成功しました」ともあります。
この議論にかかわって二つ指摘したいことがあります。
第一に、認可保育園の基準というのは、 いわゆる”あしき規制”といったたぐいのものではなく、こどもたちの健やかな成長のために国がもうけた最低限の基準です。都市の地価が高いことを理由に切り下げていいものでは決してありません。
保育園は、人間形成にとってきわめて大事な時期に、起きている時間の大半を過ごす場所です。
国際的に、保育の質を支えるものとされているのは、第一に施設の面積や設備等の物理的環境、第二に保育者の配置と年齢に応じた集団の規模、第三に保育の内容、第四に保育者の専門性です。
国の社会保障審議会がパリやストックホルムなど14都市の保育所の1人あたりの面積を調べたら東京は最下位でした。何十年も国の基準は変えられておらず、国際的に見たら面積基準等は狭すぎるぐらいです。また、職員の基準でみると認可保育園はすべての職員が保育士でなければならないとなっていますが、認証保育所は、6割が保育士ならよいとなっています。
2012年の保育施設での死亡事故は認可保育園6件、認可外保育施設12件となっています。認可保育園は200万人以上が預けられており、認可外保育施設が20万人弱ですから、死亡事故率は20倍もの差があります。認可保育園での死亡事故も詰め込みがはじまってから増えています。
安倍政権はやれ成長戦略だ、やれ規制改革だといいますが、こどもの命と安全にかかわる分野での規制緩和は親の立場からすれば誰もが絶対に認められないのではないでしょうか。
こどもの安全とすこやかな成長のためには、保育の質を支え、保育の質を高めるために、基準を高くすることこそ本来めざすべき方向です。
二番目に指摘したいことは、認可保育園が足りない理由は、認可保育園の基準の厳しさにあるのではなくて、自治体と国の姿勢によるものだということです。
東京新聞の2月26日付けの調査にありましたが、認可保育園に入れたこどもの比率は自治体によって大きな差があります。4月からの入所希望者で入れないこどもの割り合いが最も高いのは杉並の62%、つづいて港区60%、世田谷・江東両区の52%となっています。低かったのは葛飾区の2%、荒川区の6%。もちろん、子育て世代の増え方などあるでしょうが、それを差し引いてもこれだけの差が自治体であるのは、自治体が認可保育園を計画的に整備する姿勢をもってきたかどうかが大きいことはいうまでもありません。
杉並では山田前区長(現在、維新の会の衆議院議員)の時代から、民間の認可外保育所で対応する方針を掲げていた時期が長かったことが今日の事態の一番の原因です。葛飾区も待機児童はまだ解消できていませんが、計画的に認可保育園を整備して来たことが待機児率に反映しています。
国は待機児童が深刻化する中で、認可保育所整備などをすすめるために、平成20年度第二次補正予算で、「安心こども基金」という制度をつくり、保育所の施設整備に大きな補助がでるようになりました。父母の運動もあり、この「安心こども基金」を使って、東京でもこの3年間で1万7500人分と、この間にないペースで認可保育園の整備がすすみました。政治がやる気になれば、認可保育園の整備を数十万人おこなうことも難しくありません。
消極的な自治体はいろんな理由をいいますが、それを鵜呑みにしてはならないと思います。政府と自治体の姿勢で財源を手当てすれば、認可保育園の整備は抜本的にすすめることができます。
駒崎弘樹さんはブログ上で、「認可保育園を作らない自治体は悪だ」という政府たたきでは、有効な政策を生み出すことには全くつながりません」と書かれていますが、これは逆です。認可保育園を必要な数だけつくるように自治体と国の姿勢を変えることが、待機児童を解消する一番有効な道です。
待機児童問題の一番の大本にあるのは、税金の使い方の優先順位を自治体や国が何におくのかという点です。
いま、アベノミクスの名で、採算のとれない高速道路建設等、不要不急の大型開発に莫大な税金が投入されようとしています。東京都もたくさんの住民を立ち退かせる道路計画を次々具体化しています。保育という法律で自治体に義務づけられた市民サービスもできていないのに、不要不急のものに優先して税金を投入するのはどう考えても間違っています。
認可保育園をつくる財源がないという自治体は、税金の優先順位を洗いなおしてほしいと思います。
憲法25条はすべての人に健康で文化的な生活をおくる権利を保障しています。認可保育園に入れず、認可外にこどもを入れたことで経済的な重い負担を背負うことになったり、認可にも認可外にも入れず、仕事をやめざるをえなくなったりというのは、あってはならないことです。
以上2点述べさせていただきました。待機児童問題を考える参考にしていただければと思います。
それからもう1点、駒崎さんのブログにでてくる、こども子育て新システムについては実は保育関係者のほとんどが反対してます。重大な問題がたくさんあるのですが、たくさんの方がこの問題については、文章を書いているのでこの問題については今回はふれません。
ここから先は駒崎さんのブログの議論からはなれます。
実は、日本の経済界は、保育をビジネス=金儲けの対象にせよということを繰り返しいってきています。政府の規制改革会議等で、「(保育所が)株式会社立となる事例はごくまれ」「株主への配当が制限されるなど、参入の大きな障害となっている」「阻害要因を早急に取り除くべきである」などと露骨に要求しています。
株式会社など営利を目的にした事業体が保育園の運営にのりだす場合、保育の質を切り下げる危険性があります。実際、企業立のある認証保育所では、食材費を一日一人数十円に抑えていました。給食には百グラム十円の鶏肉や見切り品の野菜を使い、おやつは卵ボーロ数粒などという実態でした。
保育園の運営の経費の大半は人件費です。人件費をあまりにも安くしたために、保育士がつぎつぎやめて入れ替わる、こどもにとって不幸な事態もうまれています。
もうけのために無理にコストを削ろうとすれば、こどもにしわ寄せがいくのが保育です。
経済界の側から、現在の認可保育園を自治体や社会福祉法人が運営していることについて、「既得権益」という言葉を使うのを目にしたことがあります。保育園の運営を「権益」という角度でみてしまう時点で、こどものためという視点からブレまくっていると思います。
この経済界の動きは政府もまきこんでいます。待機児童解消の問題とならんで、保育をめぐるこれから大きな問題になります。
いろいろ問題はたくさんありますが、こどものためならエンヤコーラでがんばりましょう。
執筆: この記事は宮本徹さんのブログ『宮本徹 いま言いたい』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年04月16日時点のものです。
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