今回は田下 広夢さんのブログ『田下 広夢の記事にはできない。』からご寄稿いただきました。
■なんでTSUTAYAにゲーム新古品を売りに行ったら警察を呼ばれたか
TSUTAYAに買ったばかりで封を開けてない新古品のゲームソフトを売りに行って、買い取れないと言われ問答になり、最終的に警察を呼ばれてしまった、という方のブログがちょっと話題になってました。
「TSUTAYAにゲーム新古品を売りに行ったら警察を呼ばれた」 2013年03月06日 『sososo activity』
http://www.sososo291.com/?p=620
ゲームの流通では、中古の取り扱いについて今わりとセンシティブです。上記のサイトにも事例がでてますが、TSUTAYAは中古の買取について行政処分も受けています。
「TSUTAYA、盗品疑いの買い取り品届け出ず 都が行政処分へ」 2011年11月24日 『日本経済新聞』
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2401F_U1A121C1CC0000/
TSUTAYAの、というわけではないんですが、ゲームの小売業における中古買取の仕組みの問題は、ちょっと内情を知っていたりもするので、なんで警察を呼ばれてしまったのか、どうしてこんな対応になってしまうか、というお話をしてみたいと思います。
●なんで警察を呼ばれたのか
TSUTAYAが警察を呼んだのは古物営業法に従ったからです。
古物営業法15条第3項より引用
3 古物商は、古物を買い受け、若しくは交換し、又は売却若しくは交換の委託を受けようとする場合において、当該古物について不正品の疑いがあると認めるときは、直ちに、警察官にその旨を申告しなければならない。
これを怠るとどうなるかというと、不正品申告義務違反で営業停止となります。なので、TSUTAYAが不正品の疑いがあると判断すれば、通報は正しい、むしろ通報しなければいけない、ということになります。ここでポイントなのは「不製品の疑いがある」という点です。そう、疑いなんですよ。不正品だったら通報しなさいではなく、怪しかったら通報しなさいよ、と、そういうことです。しかも、買い取ったらじゃないですからね、「受けようとする場合において」ですから、買取依頼に来た時点で、怪しかったら通報する義務があるんです。
じゃあ、何がどうだったら怪しいという判断をすることになるのか、ここがいつも問題になります。
●チェーン店だから画一的な対応しかできないというTSUTAYAの話
TSUTAYAのチェーン店だから画一的な対応しかできないというのは、建前ではなく、恐らく本音です。ここでブログの筆者は、ご自身が書いているように不正品じゃないことを証明する手段はいくらでもあったでしょう。しかし、TSUTAYA側にそれを受ける手段がない、もう少し正確にいうと、不正品で無いと確認するサービスがないのです。
どこまでだったら怪しくて、どこまでだったら怪しくないという判断は本当に難しいので、TSUTAYAのようなチェーン店が現場のスタッフにどういう判断をさせるかというのは、警察を話し合って、怪しい怪しくないの感覚ではなく、具体的な確認作業に落としこんで線引をします。結果、いくらでも証明する方法があっても、お店側がスタッフに教育している確認方法が限られているので、その確認がとれなければ買取をお断りするし、それでも詰め寄られれば古物法に従って通報することになります。TSUTAYAの場合は、未開封は怪しい、という基準になっているというわけです。
もちろん、この線引の仕方が妥当かどうかというのは、大いに疑問がありますよ、でも線引しなきゃ買取業務自体ができなくなるのも事実です。ちょっと気をきかせて柔軟な対応をすれば、という意見もあるかもしれませんが、その柔軟な対応が枠をはみ出せば営業停止ですから、多くの店舗と従業員を管理する側としては柔軟な対応許すというのは中々難しいところです。実際僕も、お店の買取マニュアルを作成したことがあるんですが、膨大なケースがありすぎて、マニュアルで全てに対応するのはほぼ不可能です。なのでどっかでバッサリ行くわけです、そして、警察に見せて、この通りに対応すれば大丈夫ですよね、と聞きにいくんです。
その時、領収書で確認という項目を設けていなければ、その後の現場でお客さんが領収書があるから不正品じゃないと言っても、急には対応できないことになります。
●警察に「ここはお客さんが引きなさい」と言われた理由
ブログの筆者は警察に「企業やチェーン店の線引があるから、ここはお客さんがそれを理解して」と言われたそうですが、ここまでの話の流れを考えれば、なんでそう言われたか分かるかと思います。警察とお店が話し合って線引してるわけですから、そりゃあ、線引があるから理解してと言ってきますよね。もちろんそんなことはお客さんは知ったこっちゃないですから、悔しい思いをしたというのは、大変同情します。
●不正品で無いと確認するサービスがない
さっきちょっと「不正品で無いと確認するサービスがない」という言い方をしましたが、これは、TSUTAYAのサービスが悪いよね、という見方もできると僕は思っています。色んな方法で不正品でないことを確認してくれるマニュアルがあれば、普通に買い取ってくれるわけです。でもそれをチェーン店がやろうとすると運営コストが半端ないし、万が一に不正品の疑いがあったのに通報しなかった、とされた時のリスクが大きいので、ある範囲で買取拒否するし、通報するわけです。どこで線を引いてそれ以外は断ってしまうのかというのは、中古ゲームソフト販売ビジネスに対する影響と、運営コストのバランスで、基本的にはTSUTAYAの都合でしかありません。
この対応が不愉快であれば、TSUTAYAで買取をしてもらわないで、融通の効きそうな街の小さなゲーム屋さんにでも持ち込んでみる、みたいなことでいいんじゃないかと思います。あんまりなくなっちゃいましたけどね、街の小さなゲーム屋さん。TSUTAYAもそこは覚悟して、これで買取減るかもしれないけどここまでしかできない、と決めてマニュアル作っているはずです。
前述した通り、怪しいかの判断が妥当であったかどうかは疑問があるので、改善の余地がありますが、非常にたくさんのケースが存在し、マニュアルに無いと対応できないという根本部分を修正するのはかなり難しいんじゃないかと思います。チェーン店の限界ではないでしょうか。
●ブログを書いた人の不満や、疑問は、伝えておきます
で、お店側の事情は分かったけど、ゲーム業界それでいいのかと言われれば、それはあんまり良くないだろう、と。ブログを書いている方の不満や疑問も、もっともです。単純に、領収書があれば不正品じゃないと確認できるんじゃないか、みたいなことは当然考えられるわけで。
TSUTAYAの偉い方に直接、というのはちょっと無理なんですけど、もう少し大きい枠組みでゲームの小売店の中古買取に関して取り仕切ってる方をよく知っているので、このブログのことは伝えておきます。
それで何かがすぐ変わるという簡単な話ではないですが、お店の立場と、警察の立場と、ユーザーの利益の間に挟まって大変に苦労しながらも、正義感を持って仕事にあたられている姿を知っていますので、何か少しでも改善する手がかりになるかもしれません。
というところで、大変不愉快な思いをされたでしょうが、それを糧にゲーム業界がなんとか良くなるようできることはしてみますので、少し溜飲を下げていただいて、楽しく真・三國無双7を遊んでいただければいいなあと思う次第です。
執筆: この記事は田下 広夢さんのブログ『田下 広夢の記事にはできない。』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年03月13日時点のものです。
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