今回はdergeistさんのブログ『長椅子と本棚』からご寄稿いただきました。
■まとめサイトの手法は、テレビのワイドショーと全く同じ
「インターネットがあればテレビはいらない」という意見を耳にするようになって、もう10年ほどは経つのではないだろうか。まだまだテレビは力を失っていないが、少なくともある程度のパイをインターネットに奪われていることは確実だろう。それでは、この変化の理由は何だろうか。インターネットが、情報源として、またエンターテイメントとして、テレビより優れているからだろうか。
そうではない。インターネットがテレビのシェアを奪っているのは、それがテレビと異なるからではない。そうではなく、テレビとちょうど同じような楽しみを提供しているからである。今日はこのことを、インターネットの中でも「まとめサイト」というインターネットの文化と、テレビのワイドショーの共通点に着目することで示してみたい。
具体的には、以下の5点にわたって、まとめサイトとワイドショーの共通点を指摘してみる。
1. センセーショナルな見出しで目を引き、広告収入を得る2. 書き手が話題にしたいネタを「ネットで話題!」と煽る
3. 溢れかえる情報を、読者の代わりに取捨選択する
4. 新聞がまとめてくれた情報を流用してコンテンツを生み出す
5. ニュースとそれへのコメントをセットにして提供する
1つずつ確認していこう。
●共通点1:センセーショナルな見出しで目を引き、広告収入を得る
まとめサイトはPVを稼いでアフィリエイト広告で稼ぐために、センセーショナルな見出しをつける。この手法がテレビと重なることは、改めて説明するまでもないだろう。新聞のラテ欄は、昔からセンセーショナルな言葉にあふれている。そうして視聴率を稼ぎ、広告収入を得るのがテレビ局のやり方である。
●共通点2:書き手が話題にしたいネタを「ネットで話題!」と煽る
まとめサイトに「○○が話題に」と書かれていることは、全くの嘘ではないにせよ、それほど大きな話題ではないことが多い。そもそも本当に大きな、誰でも知っている話題であれば、まとめサイトで紹介する意味は薄いはずだ。それでも、まとめサイトは「○○が話題」と書いて、みんなが話題にしていることを知りたい、という我々の意識につけこもうとする。
この手法も、ワイドショーに酷似している。テレビで「巷で話題の○○」と出てきたら、「またステマか」となる。それほど話題ではないものを「話題」として紹介し、それっぽい街頭インタビューで信ぴょう性を醸し出す。「○○がネットで話題に」とタイトルをつけるまとめサイトの手法は、明らかに、このテレビの手法をなぞっている。
●共通点3:溢れかえる情報を、読者の代わりに取捨選択する
まとめサイトは、わかりづらいナマの情報を取捨選択して、わかりやすい形に料理して提示してくれる。まとめサイトで興味を持ってもとのスレッドを覗いてみたら、あまりの混沌に面食らった、という経験の有る方もいるのではないだろうか。しかしその一方で、まとめサイトの情報は、管理人のフィルターを通した情報でしかなく、最悪の場合デマの温床となる。
この点でも、まとめサイトは、テレビが持つメリットとデメリットをそのまま再現している。テレビのワイドショーは、取材で得たナマの情報を編集し、わかりやすい形に料理して提示する。しかしその過程で製作者の主観が入り込む。また、完成した番組で放送されたことは、主観が入り込んでいるにもかかわらず、すべて真実だと思われてしまう。
●共通点4:新聞がまとめてくれた情報を流用してコンテンツを生み出す
まとめサイトの話題は、2chまとめであれば、ニュースサイト→2chスレッド→まとめサイトという経路を辿ってまとめサイトに載っていることが多い。NAVARまとめなら、ニュースサイトからの直接の引用も多い。その日新聞が提供してくれた沢山のニュースの中から、つまみ食いをして、話題にするわけだ。
これも、ワイドショーでよく見る光景と重なって見える。キャスターが、「今日の朝刊からの気になるトピック」を紹介し、読み上げる。これはそのまま商品として流通しているコンテンツだから、それ自体でそれなりに面白いものである。しかしこれを再び取り上げ、コメントするなりして、さらなる付加価値を生み出す。まとめサイトは、この手法も踏襲している。
●共通点5:ニュースとそれへのコメントをセットにして提供する
まとめサイトの話題の多くは、企業のニュースサイトなどからの転載である。それでは、なぜもとのニュースサイト以上に、まとめサイトに人気が出るのか。それは、記事に対するコメントの存在のゆえであろう。2chまとめサイトはもちろん、NAVARまとめでも、Twitterでの反応をまとめの最後に加えるなどの工夫が施されていることが多い。それらのコメントの中に、自分と同じ意見だったり、少し違う意見だったりを発見すること、これが、まとめサイトの大きな魅力となっていることは疑いないだろう。
ところで、ワイドショーはこれと全く同じ手法で制作されている。ワイドショーでは、まずニュースをVTRで伝えたり、キャスターがトピックをプレゼンしたりする。これに続いてすかさず、スタジオに居並ぶタレントや専門家たちがコメントを述べる。あるいは、VTRの途中に、いわゆるワイプを用いて、スタジオの反応を映す。なぜこんなことをするのだろうか。それは、情報とコメントをセットで提供することで、コンテンツとしての価値が増すからである。インターネットではしばしば悪しざまに言われるこの手法であるが、まとめサイトの人気の秘密は、テレビのこの手法を巧妙に再現したところにこそある。
たとえば、以下を参照。ヽ(・ω・)/ズコー
「日本の地上波のテレビ番組の“ワイプ”って本当に必要!?」 2012年05月31日 『ガハろぐ』
http://gahalog.2chblog.jp/archives/52100913.html
●まとめ
以上、5点にわたって、まとめサイトとテレビのワイドショーの共通点を指摘してきた。
つぶさに見ていくと、まとめサイトの手法とワイドショーの手法の間の共通点は驚くほど多い。まとめサイトは、テレビのワイドショーと全く同じ楽しみを、webサイトという媒体を通じて巧妙に再現しているのである。
特に最後に指摘した、ニュースとコメントを一緒にパッケージ化し、新たな価値を生み出すという手法の巧妙さには、目を見張るものがある。まとめサイトがテレビの手法を激しく非難する記事・コメントを紹介しながら、そのテレビと全く同じ手法でPVを稼いでゆく様は、痛快ですらある。そして我々は、テレビの影響を脱したつもりでも、結局は、同じ手法に踊らされているのである。
執筆:この記事はdergeistさんのブログ『長椅子と本棚』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年03月05日時点のものです。
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