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“爆音上映”は映画館離れを救済できるのか?

2017/06/20 08:00 投稿

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近年、3Dや4DXなど体感型の上映方式が世界的に人気だが、日本では“爆音上映”が注目を集めている。これは、既存の映画館に音楽ライブ用の音響システムを持ち込み、一般的な映画館とは一線を画する高音質・大音量で作品を上映するという試みだ。映画館離れが叫ばれて久しい昨今、劇場に観客を取り戻す施策として大いなる可能性を秘めていると言えるだろう。

発案者である映画批評家の樋口泰人氏は「ずっと映画館の音響に物足りなさを感じていたんですよ」と語る。「そんなとき、『吉祥寺バウスシアター』で音楽ドキュメンタリーを見たんです。同館はライブハウスの機能も兼ね備えていたため、音楽用の音響機材を所有していたんですよ。それを用いた上映がとても気持ちよくて。このシステムのポテンシャルをもっと活かせば、自分が理想とする音響で映画を見られると思ったんです」。かくして、樋口氏の立ち合いのもと、より繊細により大胆に音響を設定し、オールナイト興行として“爆音上映”企画がスタートしたのが2004年のことだ。

「当初は音楽ドキュメンタリーだけを上映する予定だったんですが、それでは観客が飽きてしまうかもしれないので、フィクション映画も何作か入れることにしました。特にマーティン・スコセッシ監督の『クンドゥン』が予想以上に凄まじくて。もう今まで見ていた『クンドゥン』はなんだったのかと思えたほどです。映画の中に隠された音、作者さえも気づかなかった音の浮上によって、あらゆるものの配置がすっかり変わることを、“爆音”の中で私は実感しました。その経験があったので、今後はむしろフィクション作品を中心にラインナップしていこうと心に決めました」と樋口氏は語る。

この発言からもわかる通り、“爆音上映”の主眼は、単にボリュームを大きくして上映することではない。“爆音”にすることで、通常の音量では聞くことのできない幽かな音までも聴取可能なものとして響かせ、それによって目に映る映像の意味すらも変質させようという、極めて批評性の高い営為なのである。

このオールナイト興行に手応えを得た樋口氏は、その後も「吉祥寺バウスシアター」での“爆音”企画を重ねて着実にファンを増やし、2003年には同館にて「第1回爆音映画祭」を開催。映画祭では映画上映だけにとどまらず、ミュージシャンを呼んで無声映画に即興で音楽をつけるというライブ興行などコンテンツを充実させ、映画好きのみならず音楽好きからも好評を博した。映画祭といっても、いわゆる国際映画祭のように各国から集めた新作がラインナップされているわけではなく、一般公開された旧作が中心であるにも関わらず、興行として成り立たせてしまったのとは驚きだ。

回をおうごとに規模を拡大させた「爆音映画祭」だったが、2014年に「吉祥寺バウスシアター」の閉館が決まる。その際に行われた「ラストバウス 第7回爆音映画祭」は、6週間で約2万2000人の動員を記録した。以後、東京の本拠地を失うこととなるが、京都や大阪、金沢、山口など地方の映画館での“爆音”興行に力を入れた。地方での興行は東京ほどの集客は叶わないものの、それでも回を重ねるごとに確実に客足は伸びているという。こうした樋口氏の地道な活動は徐々に映画館業界から話題を集め、今では「立川シネマシティ」の“極爆上映”や「目黒シネマ」の“雷音上映”など類似企画を提案する映画館も少なくない。

長らく東京での大々的な興行はしていなかったが、今年2017年は丸の内ピカデリーにて爆音映画祭を開催した。また、樋口氏は「機会があれば海外の映画館でも“爆音”上映をやって、世界の人にも“爆音”の楽しさを体感してもらいたいですね」と海外展開にも意欲的だ。今後も、 “爆音”興行から目が離せそうにない。

爆音映画祭オフィシャルサイト:
http://www.bakuon-bb.net

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