福井県福井市の浄土真宗本願寺派・照恩寺で実践されている「テクノ法要」。阿弥陀如来を中心にLED照明を配置し、光と音楽で“極楽浄土”を表現するという朝倉行宣住職のアイディアが具現化していますが、2017年に入ってクラウドファンディングサイト『Readyfor』で42人の支援者から398000円を調達に成功。2つのプロジェクターとプロジェクションマッピング用ソフトなどを新たに導入して、お寺の本堂をさらに異次元の空間を現出させることに挑戦。2017年5月3日に正信偈の行譜が行われました。ここではその模様をレポートします。
※参考記事 【動画】プロジェクター投影&舞台照明で極楽浄土を表現!? 「テクノ法要」実践の福井・照恩寺がクラウドファンディング
http://getnews.jp/archives/1611035 [リンク]
築150年の本堂が音と光で溢れることに
JR西日本・越美北線越前東郷駅から徒歩5分ほど。朝倉住職によると明治初期に建てられたという築150年ほどの本堂は見るからに立派。ここで、あのハイテクノロジーな光の演出とテクノサウンドが奏でる“今様”な法要が行われるとは思えないような佇まいです。
本堂に入ると、ご本尊と阿弥陀如来のお姿、そして豪奢な装飾が施されているのに目を惹かれます。そして、柱には越前和紙が垂れかけられていました。手入れの行き届いた美しい内装ですが、この場で「テクノ法要」が行われるのです。
荘厳さと現代っぽさがマッシュアップされた「テクノ法要」
10時より一回目の法要を開始。如来像が光りだし、今回から導入したというプロジェクターが天井の下の壁に万華鏡のようなカラフルな輪を描きます。そして、朝倉住職も敬愛するというPerfumeの作曲を担当している中田ヤスタカ氏を思わせるビートと、トーキング・モジュレーターによる旋律がいきなり古寺を最新の空間へと誘ってくれます。
そして朝倉住職をはじめとする4人の僧侶が左右に分かれ、行譜が始まります。
今回『niconico』の協力によって実現した、和紙への正信偈のプロジェクション。4本の柱に文言が表示されます。このため、参拝者も行譜を口ずさむことができ、実際に檀家と思われる年配の方々が唱和していました。この姿は、音と光があることを別にすれば「法要」そのもの。これには朝倉住職も法要後に「一緒に口ずさんで頂けて嬉しかったですね」と話していました。
朝倉住職が多大な影響を受けたというYMOを想起させるようなキックと電子音のハーモニーに、厳かな行譜が完全に合っています。また、「阿弥陀様は光の仏様。強烈な光を発しているのですね」(朝倉住職)という光景を具現化させるようなまばゆいライトが参拝者を照らす場面も。
とにかく、その模様はとても言葉や写真だけではお伝えできないので、行譜の一部を動画でご覧ください。
『テクノ法要』正信偈行譜 2017/5/3 – YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=_V3RddBNkNo [リンク]
14時からの法要では、『ニコニコ生放送』がその模様を配信。圧巻だったのは、プロジェクターから『ニコニコ』のコメントが流された場面。無数の「南無阿弥陀仏」のコメントが流れる様子は、空間が拡張されたような感覚になりました。
行譜を読み終え、坂本龍一氏にインスパイアされたような静かなピアノ音の旋律が流れて「テクノ法要」はフィナーレ。思わず拍手が起こりましたが、「お寺ではスタンディングオベーションの代わりに合掌して“南無阿弥陀仏”と唱えて下さい」と朝倉住職が諭して、改めて皆で合掌。
正信偈のことを「作詞・親鸞聖人、作曲・蓮如上人とクレジットされています。私はそこに(テクノを)マッシュアップしました」という朝倉住職。「1000年前は極楽浄土を現すために金箔で彩ってロウソクの光を灯していました。でも今は電気があると気づいてしまったんです」と話し、「テクノ法要」についても「これで完成というものはありません。目で見えている字が黒だとしても、それは錯覚。自分の感覚を疑って、これからも形骸化させることなく続けていきたいです」とさらなる進化を追求する姿勢を見せていました。
「ギター法話」やブラスバンド、カザフスタン音楽も
「旧暦でのお釈迦様の誕生日(4月8日)と、親鸞さんの誕生日(4月1日)に近いということから、この日に決めました」という朝倉住職は、今回「極楽音楽花まつり」と題して、さまざまな人をキャスティング。
富山県高岡より招聘された杉谷恵昭師は「ギター法話」を披露。「冥土と浄土」というテーマを話しつつ、合間にギター一本で歌うというスタイルで、こちらも斬新でした。
代表の吉本昌昭氏が照恩寺の檀家であるという縁で、「ふくいウインドブラス」は春の歌のメドレーなどを演奏。本堂の中でブラスバンドが演奏するというのも新鮮な光景なのではないでしょうか。
三蔵法師がシルクロードを通りインドから中国に経典を持ち帰ったということから、カザフスタンの音楽も。弦が2本のリュートのような楽器・ドンブラを、現地の国立楽団出身のイナーラ・セリクバニヴァさんが演奏。カザフ民謡研究家の高橋直己氏が現地の音楽を説明しつつ、自身もコブズという呪い師が使っていたという楽器を奏でていました。
日本だけでなく海外からも!町おこしにも一役
日本全国からだけでなく、海外からわざわざ見に来ている人も見かけた「テクノ法要」。中にはお寺と東郷の町並みが気に入って、民泊の交渉をする若い中国人女性の姿も見られました。
この「極楽音楽花まつり」のために地元の手打ちそばのグループや寿司屋、酒屋なども協力。東郷ふるさとおこし協議会事務局の佐々木教幸氏は「たくさんの人に来てもらえて、東郷の良さも感じてもらえれば」と町おこしにも「テクノ法要」が担う部分があると話してくれました。
また、視察に訪れていた浄土真宗本願寺派の上原大信氏は「新しい試みをやっているお寺はたくさんあります。そういうお寺を支援していきたいと考えています」と型破りな法要にも好意的に捉えていました。いわば宗派の“公認”を得たともいえるだけあって、“極楽浄土”の具現化を追求する朝倉住職の「テクノ法要」はさらに進化していきそう。次回は2017年10月予定ということで、これからどんな仕掛けに挑戦するのか、さらに楽しみが広がりました。
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