長年、映画ライターなんて仕事をしているとひねくれてくるもので、ポスターに”余命2ヵ月”なんて書かれてしまうと「また病気をネタにしたお涙頂戴モノか・・・」なんていう警戒心が先に立つ。しかし、『湯を沸かすほどの熱い愛』は、そんな先入観を根底から覆し、乾ききった心の薪に火をつけ、素直に何度も何度も泣かせてくれる素敵な”家族の物語”だった。
◇女優・宮沢りえの真骨頂!観客も思わず「お母ちゃん」と抱きつきたくなる
この映画の見どころは、何といっても宮沢りえが演じる母親像だ。”母の愛”を描いた作品は数あれど、これほどまでに“熱くて強い愛”に満ちた「お母ちゃん」は、未だかつてなかっただろう。
物語は、母娘2人で暮らす家庭から始まる。口うるさい母親・双葉(宮沢りえ)と、学校でイジメにあっている気弱な娘・安澄(杉咲花)。一見どこにでもある日常の中、体調を崩した双葉は余命2ヵ月を宣告される。失踪していた父親(オダギリジョー)を探し出し、連れ子と共に家庭に戻した双葉は、稼業の銭湯を再開し、残された時間で”家族”を作り上げていく。
この物語のお母ちゃんは、決して子供たちだけのお母ちゃんではない。ストーリーが進むに従って、様々な”訳あり”な登場人物が現れ、それぞれの複雑な事情がひも解かれていくのだが、その誰にとっても双葉は「お母ちゃん」であり、お母ちゃんの言葉が登場人物に、そして観客の胸に染みわたる。恐らく、あなたも泣きながら心の中で「お母ちゃん!」と叫んでしまうことだろう。この映画で流す涙は、”死”への涙ではない。お母ちゃんの”愛”への涙なのだ。
◇観終わって心に残る双葉の言葉と母への想い
“強い!熱い!母”と言ってしまうと、なにか物語の中にしかいない特別なキャラクターに思えてしまうかもしれない。しかし、宮沢りえの演じる「お母ちゃん」は、本当は弱くて本当は寂しくて、だけど厳しく・優しく・気丈に振舞っている、生身の母親だ。だからこそ、観ている時には少し理不尽なところもある「お母ちゃん」の言葉も、観終わった後に腑に落ちて、ズシリと胸に残る。そして、誰しもが実際の母親に想いを馳せることだろう。もしも私が選考できるのならば、今年の最優秀主演女優賞は迷いなく宮沢りえに贈りたい。そんな希代の名演技だった。
以下蛇足になるが、この作品に1箇所だけ異を唱えるならば、「最後、何で赤にしちゃったの!?」という点だけだ。何の話か気になる方は、是非、劇場でラストカットにご注目頂きたい。私は普通に黒の方が良かったと思うんだけどな~(笑) しかし、そんな些末な点は抜きにしても、気持ちのいい”衝撃の結末”をどうぞお楽しみに。
◆画像・動画提供:「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会
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(執筆者: 荏谷美幸) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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