現在大ヒット中の映画『ファインディング・ドリー』。2003年に公開された『ファインディング・ニモ』の続編として、物忘れの激しい「ドリー」を主人公に描いた物語は、ハラハラドキドキと笑い、そして感動が混ざりあった冒険ファンタジーとなっています。
本作で字幕・吹き替え版の海洋生物の監修を行っているのが、国立大学法人 東京海洋大学名誉博士/客員准教授のさかなクン。お魚の事を語らせたら右に出るものはいない、お魚博士、歩くお魚辞典のさかなクン! 本作の魅力や、私たちがお魚と仲良く暮らしていく為に大切な事とは? など色々とお話を伺ってきました。ちなみに、最初は「さかなクンさん」と言っていましたが、ご本人が「さんはいらないんですよ、さかなクンでお願いします!」とおっしゃったので、さかなクンと呼ばせていただきました。
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(撮影:wosa)
―今日は色々とお話を伺わせていただきます。「ガジェット通信」の藤本と申します!
さかなクン:よろしくお願いします! バジェット……、あっ「ガジェット」通信さんですね! 失礼しました、「バジェットガエル」というカエルちゃんがいるもので、勘違いしてしまいました!
―いえいえ、とんでもありません! まず、『ファインディング・ドリー』の日本版海洋生物監修に抜擢された時のお気持ちをお聞かせいただけますか?
さかなクン:ギョギョッと! ワオ! と、こんな嬉しいことは無いというほど、卒倒しそうなほど嬉しかったです。
―具体的にはどんな事をされたのでしょうか。
さかなクン:出て来るお魚を見せていただいて、日本名がある物は日本名をお伝えしたり、生物学的な動きを重点的に見させていただきました。。
―本作では、ドリーの相棒として7本足のタコの「ハンク」が大活躍しますが、さかなクンがお魚の世界に興味を持ったきっかけがタコだったそうですね。
さかなクン:小学生の時にクラスメイトがノートにタコを描いていて、それが今にも飛び出してきそうな迫力だったんですね。それで、なんだこりゃ?! と興味を持ち始めたので、クラスメイトがタコを描いていなかったら、もしかしてお魚に興味を持っていなかったかもしれません。
タコを見る為に、まずはお魚屋さん、そして水族館に通うわけですが、タコちゃんに会いに行けばそこには必ず色々なお魚がいて「あの四角いお魚はなんだ?! あれはハコフグっていうのか……」と言った感じで、だんだんお魚も好きになっていったんです。
―映画で「ハンク」の活躍をご覧になっていかがでしたか?
さかなクン:本当に素晴らしかったです! ハンクさんがいなかったら、ドリーちゃんが両親を探す旅は成り立たなかったわけです。ハンクさんは一見、強面のタコさんですが、明るいドリーちゃんと“意気投ギョウ”して、物語が進んでいくのがとっても面白いんですよね。そして、ハンクさんは「頑固なタコオヤジ」と言ったお顔が、近所に似ている人がいるなあ〜、という親近感が沸きますよね。他にもアシカちゃんもとってもユーモラスですし、鳥のベッキーちゃんとか、どのキャラも、周りにこんな人いるなあ、と思える愛らしさです。まるで人間の様な、でもお魚の習性を崩しすぎてはいないという所がステキだと思います。
―映画の中で、色々なものに化けてとっても面白い「ハンク」ですが、実際のタコの生態も活かされているのでしょうか。
さかなクン:いかされていますね! タコは壁にくっつくとその色になりますし、変幻自在に色や模様を変える事が出来ます。そして、8本の足を駆使して、色々な動きをします。映画の中でも、その動きを活かして大活躍するので、本当に面白いんです!
―その他にも映画に活かされている魚の生態はありますか?
さかなクン:ドリーちゃんのモデルになった「ナンヨウハギ」が忘れっぽいかというと、それはちょっと分からないんです……。猫ちゃんとかワンちゃんが、人間と比べるとどれだけ物覚えが良いかという、知能実験があると思うのですが、お家の猫ちゃんが悪い事をして「コラー!」と怒ったとしても、しばらくしたら忘れちゃう事ってありますよね。それと一緒で、お魚も一度覚えた事をいつまで覚えているかは定かでは無いんですね。でも、今回映画の中でドリーちゃんの赤ちゃんの頃が出てきますが、危険な目にあった場所や時間というのは覚えていると思うんです。「この海流は気をつけよう」とか「この魚の近くには近寄らないでおこう」というのは、考えて、というよりはお魚達の本能であるかもしれませんけどね。
―映画の世界では、カクレクマノミ(ニモ&マーリーン)とナンヨウハギ(ドリー)が一緒に生活していますが、実際の海の中でも、違う種類同士が行動を共にする事はあるのでしょうか?
さかなクン:あります! 「ムロアジ」の群れの中に「ゴマサバ」が混じって行動したり。水族館なんかで見ていると「あれっ、色は似ているけど形が違うお魚がいるぞ?」って気付くと思います。そうしてムロアジちゃんの中に混ざって生活をしていると、ゴマサバちゃんも自分がサバである事を忘れてしまうのか、背中の特徴的な模様がだんだん消えてきてしまったりもするんですよ。
自分もよく海に潜るんですけど、違う種類のお魚同士が一緒に行動している所をよく見ます。例えば「ヘラヤガラ」という細いお魚がいるんですが、そのまま泳ぐとエサとする小魚が逃げていってしまうので、「ハタ」等の大きな魚にもたれかかる様にして、隠れて一緒に行動するんですね。夜になって、小魚ちゃん達が油断した時に、そ〜っと飛び出してきて、バクっと食べちゃうんです。
―ずる賢いですね!
さかなクン:そうなんです、とっても頭が良いんですね。ずる賢いお魚は他にもいて、『ファインディング・ドリー』には出てこないのですが、ニモちゃんやドリーちゃんが住む珊瑚礁には、お魚をキレイに掃除してあげる「ホンソメワケベラ」というお魚ちゃんがいるんです。他のお魚についた汚れとか、栄養を吸い取っちゃう寄生虫を吸い取ってくれるので、お魚達は「次は私をお願い!」「次はワシをキレイにしてくれ」と行列を作ります。それが海の「クリーニング・ステーション」と呼ばれている場所なのですが、そうして役にたっている以上、ホンソメワケベラちゃんは小さくても、大きなお魚に食べられてしまう事は無いわけです。ところが、そのホンソメワケベラちゃんの人気にあやかろうと「ニセクロスジギンボ」というお魚が登場して、他のお魚が「あっ! ホンソメワケベラだ」と近づいてきたら、(へっへっへ……騙されてるな)とヒレやウロコをブチッと引きちぎっちゃうんです。
―そのお話だけで映画に出来そうです。
さかなクン:ドリーちゃんやニモちゃんが暮らしている珊瑚礁のまわりには、そういった面白い習性を持つお魚がたくさんいるので、ぜひ第3弾、第4弾と映画の続編を作って欲しいです。
『ファインディング・ドリー』の面白いなと思う所は、そのお魚達が全部実在しているので、映画を観て興味を持ったら実際に水族館や海に潜って会いにいけるところです。お魚は見ているだけでとても可愛いし美しいですし、泳ぎなどの動きも面白い、そして釣り上げた時に「グッグッグ……」と音を立てたり、「ギリギリギリ」と歯ぎしりをしたり、耳でも楽しめます。そして、もちろん食べても美味しい。そうやってお魚を五感で楽しんでいただきたいです。
―今、さかなクン私物の図鑑を見せていただきながらお話を聞きましたが、この分厚い図鑑をいつも持ち歩いているのですか?
さかなクン:はい! これはダンベル代わりにもなるんですよ。お魚の種類は世界で約3万種、日本にも4千以上の種類がいて、お魚に魅せられて数十年、一回も飽きる事無く、むしろもっともっと興味は増えています。また、そうしてお魚を好きになって知り合った、お魚屋さん、水族館の職員さん、漁師さん、釣り人に、お魚好きのちびっ子達と、たくさんの出会いがあります。この映画でドリーちゃんがグレート・バリアリーフを飛び出して、カリフォルニアまで旅をした様に、色々な場所で色々な出会いがある、そんな部分も楽しんで欲しいですね。オーストラリアからいきなりアメリカに行って、水が冷たく無いのかしら……と不安になっちゃうのですが(笑)。
―こうしてお話を聞いていると、またこのお話をふまえて映画を観直したくなります。そして、色々な魚を見てみたいです。
さかなクン:こんなに素晴らしいお魚の世界は自分だけにとどめておいてはもったいないと思うんです。小さい頃はもちろん、自分だけが喜んだり楽しんだりしていて、自己満足だったんですが、でもその自己満足の度合いが大きくなりすぎちゃって、お魚の感動が自分一人では抱えきれなくなって、ある日爆発しました(笑)。なので、みんなにどんどん共有していきたい、こんなに楽しませてくれて、学ばせてくれるお魚に少しは恩返しをしたいんです。
―前作『ファインディング・ニモ』が公開された際には、「カクレクマノミ」が大ブームとなりました。本作が公開されると、きっとまたお魚やタコを飼いたいという人も増えると思うのですが、魚と人間が共存する上で大切な事は何だと思いますか?
さかなクン:今でも水族館に行くと小さなお子さんが「ニモニモ!」って嬉しそうにしていますものね。先ほども申しましたが、私達が見て・食べて・楽しんで、お魚から恩恵を受けているので、お魚にもたまには休んでもらって、お魚と人との距離を保つべきだと思います。いつでも、見たい・飼いたい・食べたいとなってしまうと、それは乱獲にもつながるし、自然破壊もひきおこしてしまいます。お魚は地球上ではじめて背骨を持った生き物だと言われています。勇気のあるお魚が水から出て、それがは虫類、鳥類、と進化して人間になったと言われていますから、私たちの大先輩なわけです。そう考えると、お魚にもっと親しみが沸きますし、敬う気持ちが大きくなりますよね。これ以上お魚や生き物が暮らしづらくならない為には、私たちも一つ一つ気をつけていかないといけないなと。
そして、「何が美しい自然なのかな」「守るべき自然とはどんなものだろう」という事は、実際に美しい自然を見ないと分からないと思います。ニモちゃんやドリーちゃんの映画を観ると、「こんなキレイな海が本当にあるの?」と思うかもしれませんが、実際にあるんです。そして、皆さんの周りでも、川でメダカが泳いでいたり、草木や鳥のさえずりなど、小さな自然な輝きに気付けると思うので、映画が自然に目をむける良い機会になってくれればなと思います。
―今日は大変貴重なお話をどうもありがとうございました!
さかなクン:こちらこそ、どうもありがとうギョざいました!
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