筆者の住むあたりでは早くもセミの声が聞こえ始めました。空蝉とは、セミの抜け殻のこと。源氏物語全編でも非常に珍しい、BLシーン、おっぱい描写のあるシーンが凝縮された『空蝉』エピソードの後半をご紹介します。
「人生にifはない」既読スルーの洗礼
たまたま出かけた先の家で、自分より格下の人妻・空蝉を誘惑したら想定外の抵抗を受け、へこんだ源氏。これきりで終わらせるのはいやだ、なんとかならないか……。結局、弟の小君を引き取って面倒を見る代わり、連絡係として使うことにします。
小君は源氏の言うなりに、手紙を届けますが、空蝉は「こんなお手紙を見る人はいませんとお返事しなさい」。小君は食い下がりますが、「マセた事をしてはダメよ。それなら、もう源氏の君のところにお世話になるのはやめなさい」。そこまで言うとは。
源氏は手ぶらで戻った小君を叱り、「お前は知らないだろうけど、姉さんと私はずっと前から愛し合ってるんだ。でも、姉さんは私を頼りない若造と思って、伊予介のおじさんと結婚してしまったんだよ。姉さんは私を見くびっているようだけど、お前だけは味方でいておくれ」。
源氏が嘘のうまい男ですが、このエピソードでの源氏の嘘つきぶりは出色で、もう詐欺師並と言ってもいいくらい。それにしても子どもまでだますのは頂けないですね。
小君は源氏に宮中へ連れて行ってもらったり、新しい服を仕立ててもらったりと、可愛がられてすっかりなついています。源氏のウソを信じてどんどん手紙を届け続けますが、返事はもらえません。源氏はいら立ち、小君に当たったりします。既読スルーって、嫌だよね~。
空蝉も、頭ではあの夜を忘れようとしつつ、心では忘れられなくなっていました。あんな展開はいやだったけど、「もし人妻でなければ……」。空蝉は繰り返し繰り返しそう思います。でも人生にifはない。空蝉は手紙の文字の美しさ、優しく甘い言葉に心を動かされつつ、既読スルーを通すのでした。
焦れた源氏は「また方違えに」とウソをつき、紀伊守の邸に出掛けます。どうにか空蝉と会えるよう子君に命じますが、空蝉は女房の部屋に隠れて拒絶。さすがにここでは手紙に返事をしています。
源氏はショックで「こんなに手ひどくフラれたのは初めてだ。もう恥ずかしくて生きていられない」とまで言い、姉の代わりに小君と寝ます(!)。子君は源氏の愚痴を聞きながら涙を流しますが、その細身の体付きや髪の様子も空蝉に似ている。泣いている小君はいじらしく、「つれない姉より、弟のほうが可愛いなあ」。
男色は別になんでもない時代、源氏物語でのBLシーンはここだけ。とても貴重なシーンです。にしても姉の代わりに弟を、なんてゲスいよ! 小君は意味がわかっているんだろうか? ともかく、この件で腹を立てた源氏は、空蝉への手紙を止めてしまいました。
ドキッ☆女だらけの囲碁大会に潜入!
しばらくして、源氏は紀伊守の邸にこっそり潜入。その日、空蝉は、継娘になる軒端荻(のきばのおぎ)と碁を打っていました。
2人は姉妹のようで仲がよく、紀伊守も不在なので女だけでのびのび。暑いので室内の几帳(布製のパーティション)などものけてあり、源氏のところからは二人の姿がよく見えました。
後ろ姿と横顔が見えるのが空蝉です。小柄で、手も痩せていて、目は少し腫れぼったく、鼻筋も通っていない。パーツ毎に見ると美人とはいえない顔です。
一方、真正面から見える軒端荻は、背が高く色白でムチムチ、髪もなかなか。華やかで愛嬌のある顔立ちの美人です。そして、着物の前がはだけておっぱいが見えています。
源氏は(ムチムチおっぱいの方、あれはあれでいいけど……空蝉は奥ゆかしいなあ)。空蝉はつつましく服を着て、話し方も振る舞いも感じがいい。一方、ムチムチおっぱいの軒端荻は、早口でキャッキャとはしゃぎ、明るく可愛いけどはしたない。ちょっとギャルっぽいような感じでしょうか。
いつの時代も、女だけの空間は究極にだらしないもんですが……。源氏の身の回りの女性はみんな、いつもきちんとしているので、こんなに開放的になっている女の姿は初めてでした。ましてやおっぱいがはだけている女の子なんて!源氏はムチムチおっぱい・軒端荻にも関心を持ち、小君に「あの子はどこ、もうちょっと見せて」と発言しています。
小君のBLシーンに続き、源氏物語でも希少なおっぱい描写。後のおっぱいは確か子育てのシーンなので、若い娘が無駄に(?)おっぱいをさらしている、という意味でもポイントが高いです。
筆者は女性ですが、二次元でも三次元でも女性のおっぱいを鑑賞するのが好きなので、よく記憶しております。
「おっぱいには勝てなかったよ……」据え膳食わぬは男の恥!
夜になりました。空蝉は最近、よく眠れません。軒端荻は隣でスヤスヤ寝ています。
源氏から手紙が来なくなったのも、自分が仕向けたこととはいえ悲しく、かといって不倫関係を続けるのは嫌。物思いにふけって「あの夜もこんなだった…」と思っていると、なんとも言えないかぐわしい香りと人影が。源氏だ!空蝉はとっさに、肌着だけでそっと抜け出します。
源氏は空蝉と間違え、軒端荻に寄り添います。源氏はあれっ?と思いますが(今更間違えたとも言えないし、あのムチムチおっぱいならまあいいや)。よくないよ!
軒端荻はやっと気が付きますが、恥ずかしがる様子があまりないので、源氏は「寝こみを襲って悪かった」という気持ちすら起きません。「前から方違えに来ていたのは、君のためさ」とテキトーなことを言い、そのまま彼女と契ってしまいます。
おっぱいには勝てなかったよ……。いや、おっぱいなのか、顔なのか、若さなのか、ぜんぶなのか?『据え膳食わぬは男の恥』とは言いますが、本命の弟のつぎは継娘と……これはゲスいよ!!
初めてのわりにあっさりモノになった軒端荻に対し、源氏は「特に好きとも嫌いとも思わないなぁ」と贅沢なことを思い、空蝉に逃げられたのが悔しくて、「どこに隠れているんだ、近くにいるだろうに」。逃げた本命に見せつけているのか?よくよく考えると結構な修羅場(?)です。軒端荻だけが事態を飲み込めていません。
結局、軒端荻にも「なかなか会えないだろうけど待っててね、連絡するから。秘密の恋こそ燃えると、昔から言うでしょう」などと言って別れ、空蝉が来ていた薄衣をこっそりと持ち出すことに成功。自宅に帰ってそれを抱きしめると、彼女の匂いがします。
源氏は手紙ではなく落書き風に「空蝉の身をかへてける木のもとに なほ人がらのなつかしきかな」と書きました。小君は翌日、空蝉にさんざん叱られますが、この和歌を見ると彼女は「どうしよう。あの衣、汗臭くなかったかしら…」と心配します。やっぱり夏は汗のニオイが気になりますね!服の汗臭さの心配をしている女心がリアルです。
空蝉は平静を装いつつ、やるせない思いに「うつせみの羽に置く露の木隠れて 忍び忍びに濡るる袖かな」。単なる出来心でスタートしたものの、思いがけない抵抗で延長戦にもつれ込み、結局は空蝉の逃げ切り勝ちに終りました。
とばっちりを受けた被害者3人、その後
さて、この恋に巻き込まれた被害者が3人。ひとりは子君です。
源氏からは「お前の姉さんはひどすぎる。どうしてこうまで嫌われなきゃならないんだ。私は伊予介のおっさんにも負けるのか。お前もいつまでも可愛がってあげられないかもね」と言われ、空蝉からも「よく考えもせずに行動して!」。僕は言うとおりにしただけなのに…。
もう一人は軒端荻。源氏の言葉を信じて手紙を待っていましたが、子君はいつも空蝉のところへ。少し考えたら分かりそうなものですが、彼女なりに、人知れずがっかりした日々を送っていました。処女を奪われたのにかわいそう。
彼女は後日、蔵人少将と結婚。源氏は「少将も、彼女のはじめての男が自分なら許してくれるだろう」などと思います。もう、なんてツッコんだらいいのかわからない。
さらに、空蝉の夫・伊予介。赴任先から戻り、源氏に挨拶をしますが、妻と源氏の不倫など夢にも思いません。源氏はさすがにきまり悪くなり、「自分にとっては残念だったけど、この男にとっては素晴らしい奥さんだよな」と思い返します。
空蝉はしばらくして夫と共に赴任先へ。源氏からは数多くの餞別が送られます。空蝉は時々、優しい返事を書くことはしますが、再び体の関係をもつことはありませんでした。後年、夫を亡くし、下心のあった継子の紀伊守に言い寄られて出家。尼になったところを源氏に引き取られます。
関係を持ったのはたった一度だけだったけど、源氏と空蝉の縁は細々ながら、相当長く続きます。源氏の「これきりにはしない」という約束は、一応守られたと思ってもいいのかな?
簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/
(画像は筆者作成)
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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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