櫻井千秋/大塚製薬株式会社 常務執行役員 コスメディクス事業部門担当リーダー役員秘書として入社後、9年間の秘書業務を経てコスメディクス※部門に異動。「インナーシグナル」「ウル・オス」のブランドマネージメントに関わった後、2010年に36歳で執行役員に就任。2012年、コスメディクス事業部門を統括しつつ38歳で常務執行役員に就任する。
※コスメディクス Cosmedics= cosmetics + medicine
■秘書業務から、畑違いの化粧品事業にチャレンジ
通信販売のみの取り扱いにも関わらず、熱心なファンが多い女性用の基礎化粧品「インナーシグナル」と、同社初の男性用スキンケア「ウル・オス」。どちらも櫻井さんがブランドマネージメントを手がけるシリーズだ。
入社当時は、今とまったく畑違いの秘書採用。「興味があることはトライすべき」というフラットな社風もあり、秘書勤務9年目にして化粧品部門からの誘いを受け、今の現場に飛び込んだ。
「最初の役職は、当時すでに発売されていた『インナーシグナル』のブランドマネージャーのアシスタントでした。とはいえ、化粧品の予備知識はゼロの状態。滋賀にある研究所や工場に週の半分は通い詰めて、製剤の種類をひとつずつ覚えることからのスタートでした。工場長に辟易されるほど、生産現場であれこれ質問していましたね」
■男性向けスキンケアを女性視点で考える
その熱意が認められ、約1年後には化粧品の新ブランド立ち上げ事業の声がかかる。ゼロから商品を作る、またとないチャンス。こうして櫻井さんが市場リサーチから自分で手がけて誕生したシリーズが、同社初の男性向けスキンケア「ウル・オス」だ。
開発現場は櫻井さん以外、全員男性というチームの中、異性ならではの視点で商品アイディアを次々と出した。肌の拭き取りシートひとつとっても、「スーッとするだけじゃ意味がない、ニオイも抑えないと」と主張し、「鋭いところを突く商品を考えるね」と評価を受ける。
こうして3商品からスタートした「ウル・オス」は、30~40代の男性向けスキンケア市場の隙間をついてヒットし、現在は7商品にまで充実した。
櫻井さんが初めて本格的に手がけた男性向けスキンケアシリーズ「ウル・オス」。ブランドのネーミングも、チーム全員で2泊3日の合宿をして決めたという。
■仕事を前に進めるエネルギーは「突破力」
化粧品の基本を現場で覚え、新規ブランド事業を経験。その後、執行役員から常務へ。一見すると、トントン拍子のキャリアアップだ。その理由を聞くと、「現状を変える突破力だと思います」と答えてくれた。
櫻井さんが言う「突破力」をよく示すエピソードがある。社内で今も「伝説の会議」と語られるという、「ウル・オス」の新商品開発ミーティングでの一幕だ。
「発売がほぼ決まっていた商品が、会社幹部が集まる席で急きょ、発売取りやめになりそうな雲行きに。でも開発チーム全員で一丸となって準備にあたっていた私としては、当然納得できません。その商品がいかにブランドのために必要か、会議室で幹部役員を必死で説得しました。会議を中断させるほどの勢いでまくし立てたようで、周囲のスタッフもハラハラしたそうです(笑)」
会議後も、「もう来るな」と言われても幹部役員を何度も訪ねて説得を続け、ついに発売許可を勝ち取った。ちなみに当時の櫻井さんは、「ウル・オス」の中心メンバーだったとはいえ、役職はあくまで係長。いち社員が「突破力」という名の熱意で、会社上層部の意思決定を覆したのだ。