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【怖い話】一梅村の祟り神【ホラーSS】

2015/04/10 19:10 投稿

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これは、私たちが高校二年生だった頃のお話です。
*本当は友人たちには「私(仮名)」と呼び捨てで呼ばれていますが、セリフの便宜上「私ちゃん」で統一してあります










「祟り神って、本当にいると思う?」






ある夏の日の事。
夏休みを間近に控え、今年の夏をどう過ごすか考えていると、突然友人(仮名A)がそんな事を言いだした。

私「いきなりどうしたの?」

A「いや、別に深い理由はないんだけど……」

Aは複雑な表情をして言葉を濁す。
Aは何でもはっきり言う性格というか、明るく活発な子なので、何だか珍しいなと思った事を覚えている。
むしろ祟り神とかそういう存在を信じない子でもあったので、その質問は殊の外記憶に残った。

B「あ、わかった。なんか変な計画立ててるんじゃないの? なになに? 肝試し?」

もう一人の友人(仮名B)が面白そうといった風に身を乗り出して話を促す。
私は怖い話があまり好きではないので、正直ちょっと困った。
でも、祟り神だからってホラーな話になるわけじゃないだろうしと、その時は大人しく話を聞く事にした。

A「いやね、この夏にどこか行きたいねって話してるじゃない? んで、いいとこ見つけたんだけどさ」

B「うんうん」

A「その場所が、ちょっといわくつきらしいのよ」

私「いや、何でそんな場所をわざわざ」

A「あんもう、最後まで話聞いてよ」

私「うん……」

A「海が綺麗で山も綺麗で、自然いっぱいの所なんだけど、ちょっと街の方に出れば妙に都会で」

B「すごいね。そんなとこあるんだ」

A「でしょー? でしかも、山の幸も海の幸も豊富だから食べ物がすっごい美味しいんだって!」

B「そこに旅行しないかって話?」

A「うん、そう思ってるんだけど、ひとつ気になる話があってね」

私「それが、祟り神の話?」

A「うん」

それから、雰囲気作りのつもりなのか、Aはやや声のトーンを落として話を続ける。

A「何もかもが最高の土地なのに、そこってあんまり観光客的なのがいないらしいのよ」

B「隠れ名所的な?」

私「いやいや、話の流れ的に祟り神が関係してるんでしょ」

A「まぁ、そうなんだけど……」

B「もう、私ちゃんサクサクしすぎだよ。ちょっとずつ話を楽しもうよ」

私「ごめんごめん」

雲行きの怪しい話なんて楽しむ気にはなれなかったけど、それを主張するのも何か違うし、私は再び話を聞く姿勢に戻った。

A「山の方に神社があるらしいのね。そこの神社が、祟り神なんだって」

B「祟り神って、信仰しないと呪うとかいうやつだっけ」

私「お参りしたり、奉納したり?」

A「私もそんなに詳しいわけじゃないんだけど、その土地の風習がちょっと変わってるらしいのよ」

B「変わってるって?」

A「詳細はどこにも書かれてないけど、その土地にいる人は、観光客とか含めて必ず毎日お参りしないといけないんだって」

私「毎日って、結構人いるでしょうに、皆でこぞって神社に行くの?」

そんな光景を思い浮かべ、ちょっとだけおかしくなった。

A「分社があるらしいよ。流石に一か所にどわっとは来ないでしょ」

B「もうそれギャグだよね」

私「そりゃそうか」

別に馬鹿にしてるつもりは全くないけど、今でもそういう風習が残ってる所はあるんだなぁって、その時はそれくらいにしか思ってなかった。

A「不思議なのはさ、どういうお参りなのかとか、全然書かれてない事なんだよね」

B「うーん、そりゃガイドブックとかにいちいちそこまで書かないでしょ?」

A「いやいや、ネットが当たり前のこの時代だよ? どこかに誰かが書いてるでしょ」

私「匿名掲示板とかで出てそうだよね」

A「流石私ちゃん、ちょっとオタ入ってるだけあるね」

私「はいはい」

B「でも……情報が無いって、なんだか怖いね」

A「昔はそれが当たり前だったけどね」

私「で、なに? その町に旅行に行って、一緒にお参りするってこと?」

A「うーん、そこまでは言ってないけど……なんかそのお参りって、気にならない?」

私「ならない」

B「即答するね……」

A「噂では、ちょっと変わったお参りらしいのよ。そのせいで観光客がいないって話」

私「都市伝説みたいなもんでしょ?」

B「それか、あれじゃない? 日本の『ここは行ってはいけない』みたいな」

私「あぁ、あるね、そういうの……」

嘘か本当かわからないけど、日本各地には俗に言う『立ち入り禁止区域』というものが存在するらしい。
怖いの嫌いだからあんまり見てないけど、私たちの住む近くにも有名な所があるとかなんとか。

A「気になるから色々調べたんだけど、情報がないのよねぇ」

私「情報が無いのなら、別に怪しい場所じゃないんじゃないの?」

B「いや、Aだよ。調べ方に問題があるだけかもよ」

A「おいこらー! どういう意味だー!」

B「そのまんまの意味だけど」

A「全く、失礼しちゃう……んでもありそうな話だし、私ちゃん、ちょっと調べてみて」

私「えー?」

B「怖いの?」

私「怖い」

A「即答するね……んじゃ、今から一緒に調べてみよ。まだPC室開いてるだろうし」

私「はぁ、もう……」


それから私たちは学校のPC室に行って、Aの言う観光地を調べてみた。
『一梅村(いちばいむら)』っていう名前の町なんだけど、検索してみると確かにその町は存在した。
海や山に囲まれているとはいえ町の方は都会なのに『村』? とも思ったけど。
特に変わったところは見られない町。市役所のホームページなんかも普通にあるし、町の良い所を紹介するサイトなんかもあって、ちゃんと観光地してるみたいだった。

けど、Aの言うお参りの話はどこにも見当たらなかった。
もっとも、Aは夏に旅行へ行ける場所を闇雲に検索してたみたいだから、きっとどこかの掲示板でも見たんだろう。
だけどその書き込みはもう消されているのか、色々検索条件を変えたりしてみたけど、見つからなかった。
過去ログとか纏めサイトにいくらでもあると思うんだけどなぁ……と、その時はAの見間違いか何かだという事で話が終わった。


それから数日。
学校も終わり、夏休み二日目の事。
うちに遊びに来ていたAとBが、突然思い出したように一梅村の話をした。やはり気になるからそこへ旅行に行かないかという話だった。
勿論私は渋ったが、なんだかんだAとBに押し切られ、とうとうその旅行を承諾した。



私たちの住む町から電車で二時間、そこからバスで一時間行った所にその町はあった。
思ったよりも近くにあった事にも驚いたが、Aの言う変な噂があるにしては交通の便も良いし開けた場所だったのも意外だった。
海に面した町、少し歩けば自然いっぱいの山。町の雰囲気も明るく、何かあるんじゃないかと心配になっていた私も、この光景を見た時は全部吹っ飛んだ。

二泊三日の計画で、宿は町から少しはずれた所にある旅館だった。
ここも中々風情のある旅館で、料金の割に待遇も料理も良かった。


一日目は、主に町や海に行って遊んだ。町を観光してから海に行った。
ただ、噂通りなのか、観光客は確かに少ないように思えた。海で遊んでいる人たちも、シーズン真っ盛りであるにも関わらず、あまりいなくてなんだか不思議な感じだった。
まぁ遊ぶのにあんまり人が多いのも嫌だし、のびのび遊べたから特に悪い事だとは思わなかった。


ひとしきり遊んでから旅館に戻る。
すぐに、なんだか旅館の様子がおかしい事に気づいた。

A「あれ、受付誰もいないね」

B「奥にいるのかな? 押してみよ」

Bはカウンターに置いてあるベルみたいなのを鳴らしてみたけど、誰かが来る様子はなかった。
出掛ける際に鍵をフロントに預けてあるので、誰か来てくれない事には部屋に戻れなかった。

私「適当に歩いて従業員の人探そっか」

A「そだね。それがいいよ」

B「手分けする?」

私「え、そこまでする必要ある?」

A「連絡はすぐ取れるし、それでよくない? 鍵もらった人はライン流してね」

B「おっけー」

私「はーい」

だけど、この時私たちは忘れていた。
この町には、他とは違う変わった風習があるということを。


手分けして探す事にしてからものの三分ほどで、Aからラインのメッセージが届いた。
だいたい手分けして探す程の大げさな事でもないっていうのにそれみたことか、と思いスマホを見ると……

A『やばい』

本当に、それだけ書かれていた。
何がやばいのかさっぱりわからないし、意味不明さが一番やばいでしょと思いながら『何が?』と返事を書いておく。
でも、それから続きの返事が来ることはない。
何か変な事にでも巻き込まれたのかと思いつつ、部屋に戻る事にする。鍵をもらえたのなら、部屋には入れるだろうと。

ところが、戻ってきた私が見たのは、部屋の前で立ち往生しているBだった。

B「あ、私ちゃん。Aは?」

私「え、それ私が聞きたいけど……開いてないの?」

B「うん。またAが変な事企んでるのかなと思ってたんだけど」

私「まさに真っ最中っぽいね……部屋の中にいるのかな?」

B「わかんない。でも、中からは何も聞こえないけど……」

耳当てたんかい、と心の中で突っ込んだ。

B「どうしよう、探しに行く?」

私「いずれ戻ってくるとは思うけど……」

何とも言えない空気が流れた。
Aはいつもこうやって変なサプライズを一人で計画する子だから、この状況をあまり不思議には思わなかった。
どちらかというと、『今度は何をするんだろう』という期待と呆れだった。

最初は、部屋の前で待っていれば何か起きるだろうと思ってたけど、十分、二十分、三十分待ってもAが戻らないので、いよいよどうしたのかという話になった。
入れ違いになったなら歩き損という事でいいと二人で話して、私たちは一緒に旅館中を探し回った。


だけど今度は、はっきりと違和感に気づいた。
一時間くらい歩き回ったと思う。旅館中を歩き回っているというのに、従業員はおろか他のお客さんの姿さえ一人も見なけなかった。
偶然かもしれないが、ふと見た窓の外にも人っ子一人いなかった気がする。
私たちは『気味悪いね』と笑いながらも、内心得体の知れない恐怖に震え始めていた。

途中、エントランスに来た時、私たちは中庭に鳥居があるのを見つけた。
中庭もかなり綺麗に作られていて、まるでどこぞの美術館みたいだった。
そういえば来た時は早く荷物を置いて遊びに出掛けたかったからと、あまり旅館内を見回す事をしなかった。
そういう意味では、こうして色々見て回れたのは良かったのかもしれない。
私はBと一緒に、鳥居に向かって手を合わせた。

それからもずっと旅館中を歩いて回ったけど誰も見つからず、私たちは諦めてまた部屋の前に戻ってきた。

B「あれ、部屋開いてる」

私「え? A戻ってきたのかな」

今にして思えばものすごく怖い話だけど、その時はやっとAが見つかったかと安心して違和感を疑う事をしなかった。

中に入ると、果たしてAはそこにいた。
私とBが中に入ると、Aはムッとして私たちを怒った。
けど、その内容が私たちにはちょっと意味不明で、対応に困り果てた。

A「どこ行ってたの? ずっと待ってたんですけどー!」

B「どこって、それはこっちのセリフだよ。Aこそどこ行ってたの?」

A「だから部屋にいたんだって。ライン送ってもあんたら来ないし返事も無いし」

私「は? 私返事したけど」

A「来てないって。返事ないしすぐ部屋に来るかと思ったら全然来ないし、何かあったの?」

B「あのさ、確かに私は返事してないけど、すぐに部屋に来たんだよ? でも、部屋は開いてなくて、Aもいなかったよ」

A「あれぇ? じゃあ入れ違い?」

私「私が来た時はBは部屋の前にいたよ。で、三十分くらい待ってたけどA来なくて、探しに行ったんだけど」

A「三十分~? そんなわけないよ。Bたちが来る方がはやかったとしても、私部屋に戻ってからずっとここにいたし。鍵もらってからここに来るまでそんな時間かかんないよ」

B「っていうか誰かに会えたの?」

A「従業員の人いたよ。それで鍵もらったんだけど」

私「えぇ?」

私はBと散々旅館内を歩き回ったけど、誰一人として会う事はなかった。
でも、Aは現に鍵をもらって部屋の中にいた……私とBがおかしかったってこと?
得体の知れない恐怖が少しずつこみ上げて滲み出て来ているような気がした。

ここで喧嘩しても仕方ないので、お互い今度は電話でちゃんと連絡を取ろうという事になり、忘れる事にした。
その日はその後、豪華な夕飯をいただき、ゆっくり温泉につかって、早めに寝る事にした。
一日中遊んでいたからかすぐに眠りに就く事ができた。


二日目は山の方に行こうという話になり、山道を歩く事になった。
観光地と言う事で山道の方も整備されており、大きな伝統ある木や滝つぼなど、見所は満載だった。
山の奥にはお店やお土産屋もあり、自然いっぱいを売りにしている観光地としてはちょっとどうかとも思ったけど、そこの人たちにも良くしてもらって、悪い気はしなかった。
森へ来たお土産にと木で作ったアクセサリーをもらったんだけど、Aの分だけなくて、Aはちょっと機嫌が悪くなった。
もらった目の前で人にあげるというのも気が引けたので後でAにあげようと思ったけど、その頃には忘れてしまっていた。

山道は思った以上に長く、ぐるっと回って旅館に戻った頃には夕方になっていた。
夜まで時間があるから町の方に何か買いに行こうかという話になったが、突然Aが気分が悪くなったと言い出した。
山道ではAがあまり良い思いをしなかった事もあったのでその事かと思ったが、どうも単に体調が悪いだけみたいだった。
一緒に戻ると言ったが、Aは折角だから二人で行ってきなよと言ってくれたので、私とBは少しだけ町に出かける事にした。


町に出て、また私とBは不思議な現象に遭遇した。
適当にお店に入って買い物をして、さあそろそろ帰ろうかという頃、気が付けば辺りには誰一人いなくなっていた。
昨日の旅館内の光景が脳裏に浮かんで、私は思わず顔をしかめた。
それはBも同じだったのか、Bは私の服を掴んで小さく『ねえ』と言った。

全くもって意味がわからない出来事だったが、そこで私はこの土地の風習を思い出した。

私「そういえばここって、毎日神社にお参りへ行くとか言ってなかったっけ」

B「そうだけど……ねえ、まさか今がその時間ってこと?」

私「まさか本当に一斉にお参りに出るとは思わなかったけど、そういう事なんじゃないの?」

B「あはは、なんかすごい一体感だね。でも、不用心だなぁ」

私「それだけお互いを信頼してるんじゃないの? でも観光客は……」

ふと、更に思い出す。
この土地に来た観光客なども含めて、皆がお参りに行くのではなかったのか?

私「……ねえ、それが本当なら、私たちもお参りしないといけないんじゃないの?」

B「ええっ? 急に何言い出すの?」

私「だって、この光景を見たら疑う余地ないじゃん……」

B「それはそうだけど……」

私「でもこの人数いなくなってたら絶対どっかに人だかりが……」

そう言って辺りを見回すと、町のずっと奥の方に誰かがいるのを見つけた。
よくよく見てみると人だかりになっているような気もする。

私「みんないたかも」

B「わ、すごい人の数」

私「ちょっと行ってみる?」

B「ふふ、怖いの嫌いなのに行くんだ」

私「誰もいないここに取り残される方が怖いでしょ」

広い場所に誰もいない光景というのは想像している以上に怖いもので、一刻も早く誰かのいる場所へ行きたかった。

人だかりの所へ行くと、そこにいた人の一部が驚いた顔をしたこちらを見た。
でもすぐに表情を戻して、『貴女達もお参りしていってね』と言った。
人だかりの向こうには小さな神社があり、みんなそこに向かってお参りをしているようだった。
特に何か言ったり動いたりするわけでもなく、ただただひたすら手を合わせているだけだった。
町に誰一人いないのに神社の分社に集まって総勢で祈るって、普通に考えれば酷く奇妙な光景だが、その時は沢山の人の中に紛れられた安堵感でそこまで思う事はなかった。

でも、一つ気がかりな事がある。Aの事だ。Aは気分が悪いと言って旅館に戻ったわけで。
ちょっと連絡しようと思ってスマホを手に取る。
けど、次の瞬間信じられない事が起きた。

さっきまで一心にお参りをしていた人たちが、一斉にこっちを見たのだ。

流石にこれには驚いて、お祈り中にスマホはやばいかと、おとなしくスマホをポケットにしまった。
するとみんな何事も無かったように、再びお参りを始めた。
心臓が止まるかと思った。


それから十五分くらいして、お参りは終了した。
それぞれ解散して、各々のいた場所に戻っていくらしかった。
私とBがぽかんとそれを見ていると、最初に声をかけてくれた人がやって来て、『驚いたでしょ、ごめんねぇ』と言ってくれた。

聞くところによると、この町では毎日神社にお参りをする風習があるらしい。
それは観光客など外から来た人も例外ではなく、誰もが等しく同じ事をするというものだとか。
まさに下調べの通りの事がこの町では起きていた。
けど、観光客などまで巻き込むというのは、いささか現実的ではない。
マナーの悪い客……そうでなくても、毎日こんな風習に付き合おうという観光客なんて珍しいと思う。だいたいは、参加しないだろう。
私はおそるおそるその人に、お参りしなかったらどうなるのか尋ねてみた。
その人は『自分たちはお参りを忘れた事が無いから、実際はわからないけど』と前置きして話してくれた。

この神社は、その昔この地方を守ってくれていた神様で、それはそれは力の強い神様だったらしい。
時代が進んでいくと共に『守り神』などという認識は薄れていったが、この神様はその間に『祟り神』へと変貌を遂げていたとか。
それから不可解な事件が続けて起きるようになり、村を出た人間は例外なくその被害に遭ったのだという。
人々はこれをおそれ、かつての守り神を奉る事にした。
以来、不可解な事件が起きる事はなく、一連の事件は神様を蔑ろにしてしまった罰だという事になった。

その不可解な事件というのは、被害者は身体の一部、または全身を地中に埋められるというものだった。
これが、その昔行われていたらしい『人身御供』を彷彿とさせるということで、事件は守り神の仕業だという話になったらしい。
勿論、人間が守り神をなぞらえて行った犯行とも思われたらしいが、長年に渡って起きている事、被害者は外へ荷逃げた人間やお参りを拒否した者に限定されている事などから、人々の認知は『神さまの仕業』で統一されているとのこと。
最後にその人は『外から来た人が信仰するのは無理があると神様もわかってくれてるから、ちょっとお祈りするだけで大丈夫』と言った。一礼ぐらいしてくれたら、というくらいらしい。
内容は思ったよりもハードだったが、何も観光客に同じ事まで強いているわけではないらしいとわかり、何故だか安堵した。
さっきは同じ風に祈り続けてたんですけど、とも思ったが言わないでおいた。


事前に少し知っていたとはいえ半信半疑どころかほぼ疑っていた話が事実だった事の衝撃が大きすぎて、旅館に戻るまでAの事をすっかり忘れてしまっていた。
お参りの事をAにも知らせてあげないと事件に巻き込まれてしまうかもしれない、と半分冗談で思っていたのだが……


部屋に戻ると、Aはいなかった。
それどころか、彼女の荷物もどこにも見当たらず、まるで先に帰ってしまったみたいになっていた。

私「え、ちょ、意味わかんない」

B「体調悪くなって帰っちゃったのかな?」

私「えー大丈夫かなそれ……てか連絡くらい欲しいよね」

B「だよね……うん、何も来てない」

あんまり人の事を悪く言うもんじゃないけど、Aは思い立ったらすぐ行動するタイプで、時折周囲の事を考えずに動くもんだからこういうことがたまにあった。
でも今回に関しては体調を崩した事が理由らしいし、特に怒りは覚えなかった。
どのみち、明日の昼には帰るわけだし、あとは夕飯食べてお風呂に入って寝るだけ。まぁ問題はないだろうと思っていた。




だけど次の日、事態は急変した。
朝食を終え帰る準備をしている時に、突然旅館の人が部屋を訪ねてきて、荷物を渡してくれた。
それは、帰ったと思っていたAの旅行鞄だった。
私とBは昨日のいきさつを説明すると、その人は神妙な顔をして、ちょっと待っていてくれと私たちに言った。

それから十分程するとさっきの人が戻ってきて、私たちに、ついてくるよう言った。
自分たちの荷物や、Aの鞄を持って。

私たちはよくわからないままにその人のあとをついていき、旅館を出た。
旅館の外には男の人が一人立っていて、私たちを見るなり驚いた表情を浮かべた。
その後すぐに、車に乗るよう言われて、私たちはその人の車に乗り込んだ。案内してくれた旅館の人も一緒だった。
荷物はできるだけ纏めて荷台に乗せ、携帯の電源は切るよう言われた。

車の中では、何かやばい事になってると思いながら、複雑な思いで押し黙っていた。
こういう時自分でもよくわからないけど、私は意外と冷静というか、他の事を考える余裕が作れる子だ。だからこの時も、得体の知れない恐怖に押しつぶされそうになりながら、今進んでる道は家と逆方面だな、なんてことも考えていた。
Bも似たような感じかなと思ってふとBを見ると、Bは真っ青な顔をしていた。

それから一時間程道を走ると、車はある小屋の前に辿り着いた。
うすうす、祟り神関係の何かに巻き込まれてしまったのかとも思っていただけに、思わず『えっ』という声が出てしまった。
結論から言えば私の想像は間違っていなかったのだが、この時は今まさに騙されているのではないかと思ってしまうくらい、そこは胡散臭い小屋だった。

男の人は小屋に入るよう私たちに言った。
中々小屋に入れないでいると、私たちを案内してくれた旅館の人も一緒に入るからと、小屋に入りやすいよう促してくれた。

中に入ると、意外や意外、そこは神社の本堂みたいだった。いや、実際神社の本堂だった。
外装からは全く予想もつかない内装に思わず声が漏れたが、横目でBを見ると、Bはそれどころではないようだった。

私「え、ちょっと、B……?」

声をかけてみるも、Bは何も答えない。
なんだかものすごく気持ち悪そうにして、両手でおなかをおさえている。

男「やっぱりか……」

その様子を見ていた男の人が、そう短く言った。

男「君は、現場を見てしまったんだね? だけど、誰にも言えなかった」

B「っぐ……は、ぃ……」

Bは今にもお腹の中のものを全て吐き出しそうに苦しみながら、小さくそう答えた。
私には、Bと男の人が何の話をしているのか全くわからなかった。

男「大丈夫だ。まだ間に合う。君はこっちに来なさい」

男の人はBを連れて本堂の奥へ行ってしまう。
すると、どこにいたのか横から巫女装束を着た女性が三人やってきて、Bの周りに集まった。

旅館の女性「あなたは、こっちに来て」

私「え、で、でも……」

旅館の女性「大丈夫。あの子は助かるから」

『あの子は』という言い方に背筋の凍るような違和感を覚えたけど、こうなってくると私も冷静でいられなくなっていて、女の人の言うとおりにするしかなかった。

その女の人は私は別室に連れていって、ここで待つようにと言った。
ただその女の人も一緒に待ってくれるみたいで、そこはすごく安心できた。

私「あの、いったい何が……」

旅館の女性「色々わからない事があると思うけど、今は絶対に訊いては駄目。私から話せる事だけは教えてあげる」

その女の人はこの神社の巫女さんだった。
先ほどBを連れていった男の人は神主さんで、ここは由緒正しい神社らしい。
今回の騒動は、想像していた通り、例の祟り神絡みのものらしかった。
この女の人は、観光客がこうなる可能性を考え、あの旅館で働いているのだとか。

それからしばらくは他愛のない話ばかりだった。
この町の財政状況だとか、季節の特産品の話だとか、趣味の話だとか。
正直今何が起きているかが一番知りたい事だったけど、それを訊ける雰囲気ではなかった。
楽しげな話をしているのにその辺りの話題に触れさせない威圧を感じる……本当に巫女なんだなと思った。

けど一時間ほど話をして少し静かになった後、女の人は言った。

旅館の女性「全部終わってからなら、お友達から何があったかを聞いても大丈夫。けど、絶対にしてほしくないのは、その子を責める事と、もう一度ここに来る事よ」

私「わかりました……」

旅館の女性「それから、これからが一番辛い時間になるから、気をしっかり持って、私の言う通りにしてね」

私「はい……」

一番辛い時間と言われてまた怖くなったけど、女の人がいなくなるわけではないみたいなので、まだ安心できた。

~♪

と、突然私のスマホが鳴りだした。
いきなりの事だったのでビクッとしたけど、これまでの重い雰囲気が崩れた気がして、ふふと笑みすらこぼれた。
スマホを見てみる。電話をかけてきていたのは、なんとAだった。

旅館の女性「出たら駄目よ」

私「え、で、でも」

旅館の女性「出てしまったら、あなたも戻って来れなくなるかもしれない」

私「…………」

それがどういう意味なのかは簡単に想像できた。
思わずディスプレイを見る。この異常な空間の中で、スマホの画面だけは普段の日常の通りだった。
それが一層恐怖を感じさせた。

音楽が鳴り続ける。
五分は鳴り続けたかという辺りで、私は思い出していた。
スマホはここへ来る前、車に乗る際に電源を落としていたはず。それなのにどうして着信が来たのだろう。

今まで考えないようにしていた最悪の事態を、もう認めるしかなかった。

A「おーい。ここにいるんでしょー? 私ちゃーん、返事してよー」

今度は外からAの声が聞こえた。
すぐに女の人が私の手を握って、首を横に振る。
返事をしたら連れて行かれる……そういう事らしかった。
あれは、AであってAではないのだ。
私は過呼吸気味になりながらも、目を閉じてAの…Aに似せた何者かの声がしなくなるのを待った。

それから二時間くらい経っただろうか。
長らく続いていた着信もAに似せた何者かの声もしなくなった。
あれからは、女の人との会話も一切ない。女の人から話しかけてこないと言う事は、私から話かける事もしてはいけないのだろうと思い、黙っていた。
これは後から聞いた話だが、想定していたよりも早くに事が起きてしまったため頃合いが見計らえず、私から声を出してはいけないと説明できなかったらしい。察しがよくて助かったと言われた。

その間、私は色々と思い出していた。
AやBと遊んでいる時の事や、学校であった事。まるで走馬灯でも見ているように、今までの事を思い出していた。
そして、どうしてこんな所に来てしまったんだろう。どうして止めようと強く言えなかったんだろう、と後悔していた。

それから更に一時間くらい経った頃、急に辺りが暗くなったのを感じた。
私はずっと目を閉じていたわけだけど、目を閉じていても周りが明るいか暗いかくらいはわかる。

その時だった。

突然肩をぽんと叩かれた。
心臓が跳ね上がるくらい驚いたけど、もしかしてもう終わったのかもしれないと思った。
でも次の瞬間に、それは見事に裏切られた。

A「こんな所にいたんだねぇ。ねえ、遊びに行こうよ」

私は朝食で食べたものを吐き出した。

小屋には入ってこないだろうと思い込んでいた。
漫画なんかでよくある結界がはってあったり、神聖な場所には入ってこれないとか、そういう事を考えていた。
けど、これは祟りなんだ。祟り『神』の仕業なんだ。神様なんだから、入って来れないわけがない。

私は目をぎゅっとつぶって、握ってくれている手を強く握り返した。

A「こんな所に座ってないで、ほら、外行こうよ。今日は山に行きたいなぁ」

声が耳元で聞こえる。
その度に涙を流し、強く手を握って、なんとか耐えた。

その間にも、私は色んな事を思い浮かべてしまう。

本当に今握っているこの手は、あの女の人のものなのか? それ以前に、全部これは私の夢で、今まさにAが寝ぼけている私を起こしてるんじゃないか?
色んな考えが頭の中をよぎって消えていった。
思い浮かぶが、どれもまともに考える事ができず、浮かんでは消え浮かんでは消えた。









旅館の女性「もう、目を開けても大丈夫よ」

どれくらいの時間が経っただろう。
Aの声も聞こえなくなり、結構な時間が経ったと思う。
女の人の声がしたけど、私は暫く目を開ける事ができなかった。
これもまた、女の人に似せた何者かの声じゃないかと思った。

神主「君もよく頑張ったね。もう、全部終わったよ」

今度は神主さんの声も聞こえた。
私は恐怖でもう二度と目が開けられないんじゃないかとも思ったが、神主さんの声に何だかものすごく安心して、自然と目を開ける事ができた。

神主「こっちに来なさい。簡単に事情を説明してあげるから」


それからはぼんやりしているうちに話が次々進んでいった。

まず、私は本堂に連れていかれた。
部屋を出て本堂に入るなりものすごい臭いがしたが、それはBがどれだけ苦しい思いをしたかを物語っていた。
話では、私の数倍は辛く恐ろしい思いをしたらしい。
本当はBから話を聞くのが一番いいらしかったが、Bは到底話をできるような状態ではなかったので、代わりに神主さんが話してくれることになった。
あんな怖い思いしたんんだから当たり前だと思ったが、この手の話を当人以外から聞くのはあまり良くない事らしかった。




事の発端は、Aが町はずれの神社に行った事らしかった。
いつの間にAが神社に行ったんだと思ったが、おそらく旅館の人を手分けして探した際だろう。
そこでAはお参りする事なく、ましてや神様を冒涜するような発言をしたらしい。
Aは元々悪霊だの祟りだのを信じない人間だったから、その手の話を強要されるのが嫌だったんだろう。言い合いになる様が何となく想像できる。
急に人が消え部屋に入れず、探しに出た揚句見つけた人には信じてもいない神様に祈れと言われる……Aの気持ちもわからないでもないが、相手が悪すぎた。

しかし、話はそれだけではなかった。
その日の夜中、怒りが収まらなかったAは旅館にあった鳥居に悪さをしたらしい。
それを、Bは目撃してしまったのだという。
私はまぁ、グースカ寝てたから全然知らなかったけど……

こうしてAは祟られてしまった。
Bは、A程の罪ではないにしろ、Aのやった事を黙認していたという事で大層苦しむ事になった。
私は関係者だが何もしてない見てない知らない、だったため一番軽かったのだという。
それでも苦しんだのは、きっとお参りの最中にスマホをかまおうとしたからじゃないかと私は思った。

けど、実はそれ以上に後にして思えば怖い話があった。
神主さんの話では、Aは旅館の鳥居に悪さをした後すぐに連れて行かれてしまったらしい。
ということは、Aも一緒に遊んでいた二日目には、Aは既にいなくなっていたということだ。
あの日山に遊びに行った、あの時のAは、既にAではないAに似せた何者かだったと。
もし一つでも間違いがあったなら、私やBはどうなっていたかわからない。



それから私とBは自分たちの荷物をまとめて、家に帰る事になった。
Bはもう体調を取り戻していて、身体の具合はすっかりいつも通りのBになっていた。こ
れも、もう全部終わったという証拠らしい。
Aに関しては、まだ行方がわかっていないらしかった。Aの持ち物が残っているのでまだ助かる可能性はあるとのことだったので、後の事は神主さん達に任せる事にした。
なんでも、その手の神様に詳しい巫女が遠方にいるとかで話をしてみるとの事だった。





あれから七年。
社会人になった今でもBとは友達をしているが、Aの行方はいまだにわかっていない。
ただ、行方がわからないというだけで、Aは無事に助かったという話だけは事件から一年後に聞いた。でも、今後会う事は難しいだろうと言われた。
Aの家族は遠くへ引っ越してしまい、行先も私たちは知らない。

私とBは、あの夏から旅行らしい旅行も行かなくなってしまったが、後日談として、何ともがっくりするような、内心複雑な話を噂で聞いた。
祟り神の支配するあの町はその後、神主さんの言っていた祟り神に詳しい巫女さんの活躍で普通の町になったのだとか。
巫女さんが張り切りすぎたとか、巫女さんの先祖が実は祟り神の偉い人で説教かましたとか、現地では巫女さんではなく小さな女の子が頑張っていたとか、色々コミカルな噂が飛び交っているが、真相は誰にもわからない。

けど、言われた通り、もう私もBもあの町へ行こうとは思わない。
そもそも、そういう噂のあるところへ好奇心なんかで行くべきじゃない。

触らぬ神に祟りなし。
















はい、なんだかリゾートバイトみたいな話になってしまっていますが……
フィクションのオリジナルです。ていうか昨日見た夢の内容です。
寝る前に

「うはwww諏訪子様ロッリロリですわすわwwww」

とか考えてたから、きっと諏訪子様に祟られたんだと思います。反省してます。


単に夢で見た話を色々創作して完成させたので、矛盾とか色々あると思います。支離滅裂な部分もあるし、ぐちゃぐちゃです。
話の中で解説できてませんが、『一梅村(いちばいむら)』は読み方変えて変換し直すと『人埋村』で、その昔人身御供で人を埋めて怒りを鎮めていた事に由来しているとわかります。
まぁ後付設定だけどね。夢じゃ何の脈絡も無くそういう過去ができあがって、何の根拠も無くそれが正しくなっちゃうし。
一番最後に言ってた遠方の巫女とは勿論早苗さんの事で、小さな女の子は諏訪子様です。諏訪子様は祟り神の頂点ですので、度の過ぎた一梅村の祟り神を説教したという感じです。
夢にこのオチはありませんでしたが、怖い話は私も苦手ですので、最後に無理矢理和んだというわけです。

出てくる『私』は紅咲ありすの事ではなく、登場人物としての私で、この人が昔語りをするイメージです。
SSの世界では、私や俺など主人公をこう表す物が多いです。

ていうかこれホラーか?
カテゴリよくわかりませんが、なんかまぁ怖い話という事で。



すわすわ可愛いよすわすわ

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