“心が荒んでいれば、<完璧な室内>の完璧さに押しつぶされるだけだ” のくだり、自分もまったく同じことを考えていました。もう10年以上某家具量販店で買ったクッション(枕ですらない)とマットレスとベッド(使い古しすぎてマットレスを支えるための木材が数本折れている笑)で入眠しているのですが、不全に苦しんだことは(入眠直前に突如の高揚がやってきた時以外は)一度もありません。家族と同居していた頃の寝室もずっとタコ部屋だったので、高校生時代にキューブリック『2001年』のラストシーンを初めて観たとき、「ああ、こんなに完璧で清潔なベッドを与えられるのは死ぬ時だけなのだな。良い布団に寝かされるなら臨終が近づいてるんだ」と、変なふうに納得してしまった記憶があります(笑) 2010年以降の映像エンターテイメント作品を支配しはじめたクリシェとして、「真っ暗な部屋の中、寝床の上でスマートフォンの画面だけが登場人物の顔を照らしており、その人物は解離的な目で画面を見つめながら陰鬱に独白している」というものがあり、私はこのクリシェをやってしまった作り手全員に高級寝具と同じくらいの罰金を課したいと思ってしまいます(笑) ライバルとか元恋人とか推しとかの情報をスマートフォンの画面に集めて、結局自分の中の収拾はつかなくて、入眠すらままならない。という行為が「アホの愚行」ではなく「登場人物の切実さを適切に表現」しているものとして流布されるのは、菊地さんもお書きの通り悪質な意味で貴族的で、高級寝具がもたらす快適はスマートフォンがもたらす憂鬱でプラスマイナスゼロ(むしろ少しマイナス)になっており、これが21世紀の『快感原則の彼岸』なのかも、と思っています。 数日前、あの三宅唱監督が OMSB と QN のビーフ関係をもとにした劇映画を完成させた。という夢を見まして、その試写で観た内容があまりにも素晴らしかったので、私は夢の中で(全身の水分が眼から出るんじゃないかと思ったほど)泣き腫らしてしまいました。が、いざ目覚めてみると枕は全く濡れていませんでした。 夢に出てくる想念の内容は「自分の中で既に安全に処理されているもの」で、悪夢でも良い夢でもその内容自体が重篤なものではないと解っていますが、それでも月に何度かは夢の個人性に打ちのめされてパセティックかつ甘やかな気分になることがあります。もし貴族的な入眠不全を抱えている人々がこの(一般的かつ無害な)夢の侵襲を受ける機会を失っているのだとしたら、それは文字通り現実世界での戦争を支えるような悪性のエネルギーの元手になっていてもおかしくないほどですね。
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“心が荒んでいれば、<完璧な室内>の完璧さに押しつぶされるだけだ” のくだり、自分もまったく同じことを考えていました。もう10年以上某家具量販店で買ったクッション(枕ですらない)とマットレスとベッド(使い古しすぎてマットレスを支えるための木材が数本折れている笑)で入眠しているのですが、不全に苦しんだことは(入眠直前に突如の高揚がやってきた時以外は)一度もありません。家族と同居していた頃の寝室もずっとタコ部屋だったので、高校生時代にキューブリック『2001年』のラストシーンを初めて観たとき、「ああ、こんなに完璧で清潔なベッドを与えられるのは死ぬ時だけなのだな。良い布団に寝かされるなら臨終が近づいてるんだ」と、変なふうに納得してしまった記憶があります(笑)
2010年以降の映像エンターテイメント作品を支配しはじめたクリシェとして、「真っ暗な部屋の中、寝床の上でスマートフォンの画面だけが登場人物の顔を照らしており、その人物は解離的な目で画面を見つめながら陰鬱に独白している」というものがあり、私はこのクリシェをやってしまった作り手全員に高級寝具と同じくらいの罰金を課したいと思ってしまいます(笑) ライバルとか元恋人とか推しとかの情報をスマートフォンの画面に集めて、結局自分の中の収拾はつかなくて、入眠すらままならない。という行為が「アホの愚行」ではなく「登場人物の切実さを適切に表現」しているものとして流布されるのは、菊地さんもお書きの通り悪質な意味で貴族的で、高級寝具がもたらす快適はスマートフォンがもたらす憂鬱でプラスマイナスゼロ(むしろ少しマイナス)になっており、これが21世紀の『快感原則の彼岸』なのかも、と思っています。
数日前、あの三宅唱監督が OMSB と QN のビーフ関係をもとにした劇映画を完成させた。という夢を見まして、その試写で観た内容があまりにも素晴らしかったので、私は夢の中で(全身の水分が眼から出るんじゃないかと思ったほど)泣き腫らしてしまいました。が、いざ目覚めてみると枕は全く濡れていませんでした。
夢に出てくる想念の内容は「自分の中で既に安全に処理されているもの」で、悪夢でも良い夢でもその内容自体が重篤なものではないと解っていますが、それでも月に何度かは夢の個人性に打ちのめされてパセティックかつ甘やかな気分になることがあります。もし貴族的な入眠不全を抱えている人々がこの(一般的かつ無害な)夢の侵襲を受ける機会を失っているのだとしたら、それは文字通り現実世界での戦争を支えるような悪性のエネルギーの元手になっていてもおかしくないほどですね。