綿密に練った計画が一瞬で水の泡になるという事は多々ある。どころか、バタイユに依れば、それは人間の、本能とは言わないまでも、かなり強い欲望でも、構造でさえあるのだ。経験者の方がいらしたら、と思うと気がひけるが、菊地くんは「オレには4人の、死産で出てきた兄弟がいるんだ。男だったか女だったかさえ親父もお袋も教えてくれなかった。オレは、<だから命を大切にしましょう>なんて、当たり前のことを言ってんじゃねえ。戦争なんかなくたって、世の中にそういう事は今でも普通にあるって話。そして、でも、親父とお袋が粘っちゃったのはやっぱ太平洋戦争によって蕩尽を経験してるからだ。だからオレは戦争の子だ」と何度も言っていた。