動画も観ていないのに…

【感想】皆河有伽『日本動画興亡史 小説手塚学校 』 1

2014/02/02 07:38 投稿

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今回取り上げるのは、皆河有伽『日本動画興亡史 小説手塚学校1』(2009、講談社)

本書は、小説の技法を駆使したドキュメント。
1巻は、「アトム」が制作されるまでの日本アニメ草創期をめぐる群像劇です。
手塚治虫に関する本は数多くあれど、その濃密さにおいて本書は、『ブラックジャック創作秘話』などと並び特に異彩を放ちます。
ことに、手塚先生本人のみではなく、「手塚学校」に集って来た人々一人一人に密着した作品というのは、他にはちょっと見当たらないのではないでしょうか。

また本書は珠玉のエピソード集でもあります。
たとえば「アトム」の制作現場での一コマ。
ある日、まだ一介の原画マンであった杉井儀三郎(ギサブロー)氏がアトムに汗が流れるシーンを描いていました。
当然、汗は上から下へと流れるもの。これを描くには、数枚のカットを必要とします。
たまたま通りかかった手塚先生が一言。

「汗は動かさなくていいですよ。」
「先生、これは汗ですよ。汗が張り付いているなんて変じゃないですか?」
思わず聞き返した杉井氏に、手塚先生にこやかに
「いえいえ、僕の漫画では全部そうですよ。」

しかし、制作しているのは静止画ではなく動画、漫画ではなくアニメーションです。
杉井氏は反論します。

「先生、これじゃアニメーションになりません!」
「いえいえ」
と、手塚先生、これにも笑顔で答えます。
「これはアニメーションではなく〈テレビアニメ〉です。」

そもそも、週に一本のアニメをあげる事自体が奇跡のように考えられていた時代、唯の「アニメーション」ではなく、「テレビアニメ」を作るとはどういうことなのか、それが凝縮されたエピソードではないでしょうか。

杉井氏はかくして完成した「テレビアニメ」についてこう表現しています。

「映像娯楽の新種」。

我々が当たり前のように享受し、日本が世界に誇る「映像娯楽」は、こうした人々によって創られたのです。

他にも、スポンサーになってくれることを見込んで、承諾も取らないうちからオープニングに森永製菓のエンゼルマークを入れこんでしまったという話(しかも、結局森永はスポンサーとなることを渋り、折角入れこんだエンゼルマークを削ってライバルの明治にプレゼン。こちらがスポンサーになってくれた、という冗談のようなオチつきw)
現在まで(結構悪い意味で)語り継がれる手塚アニメの「安さ」に隠された手塚の戦略とその「あやうさ」等、ご紹介したいことが多すぎる!

作者は本書を「学校」と冠した理由につき以下のように書いています。
虫プロへ陸続と集結した若者たちの無軌道ぶりは会社のそれでも、王にかしずく臣下のそれでもない。学校のサークルのようだった

手塚ファン、アニメファンなら絶対に(勿論そうでない方も!)一度は手にとってみて欲しい作品です。

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