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【感想】玉井清『第一回普選と選挙ポスター』(慶應義塾大学出版会、2013)

2013/07/18 10:37 投稿

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選挙期間中につき、今回も選挙関係のお話です。

現在の選挙の原点ともいえるのが、1928年に行われた最初の男子普通選挙(もっとも地方選挙ではもうちょっと前)。
最近この初期男子普通選挙における選挙活動、それもポスターに焦点を当てた面白い研究が出されました。玉井清『第一回普選と選挙ポスター』です。

この選挙で、日本ではじめて納税額に拘らず25歳以上の男子の多数が(例外ありなので)、選挙権を得ました。
有権者は、300万人程度(全人口の約5.5%)から、一挙に1240万人に激増。
新たに有権者となった労働者層をアテにした新党(無産政党←財「産」が「無」い人の政党)も登場します。

それはまさに新しい政治を予感させました。
「昭和維新」という言葉が好んで使われはじめたのもこのころです。


伝統ある大政党にしても、今までと同じ選挙戦をしていたのでは、新有権者の票はつかめない。新しい工夫が必要でした。

もっと根本的な問題もあります。
そもそも、新有権者は、選挙なんてはじめての人達。
どのように投票用紙に記入するのかから教えないといけない、と役人たちは考えました。

「うちの党に投票してくれ」というものから、「誰でもいいから投票にだけは行ってくれ」「正しい投票用紙の使い方はこうだ」というものまで、様々な思惑から、町には大量の選挙ポスターがあふれます。

本書では、そうしたポスターの数々がカラーで紹介されているのですが、これがどれも中々いいんです。
デザインも、うまいものが多いですし、現在に比べて、メッセージが率直だったり、露骨な敵党批判が載っていたり、明らかに他候補のポスターをぱくったとしか思えないものが現れたり、本文を読まずとも、最初のカラーページだけで読み応え(見応え?)たっぷりです。

勿論、本文も中々面白い。
ポスター分析を主軸に、最初の普選の様相を詳しく追っていきます。

特に面白いのは、選挙違反防止を狙ったキャンペーンがもたらした効果です。
候補者から「お金をもらってはいけない」「物をもらったり食事を御馳走になってもいけない」というと、今では当たり前の事ですが、実は普通選挙前にはOKなことが結構ありました。
お金をもらうのは流石にだめでしたが、例えば、食事を御馳走してもらうのは合法。
うまくやれば、物品の贈与も合法的に可能でした。
その意味で、普選前の選挙は今よりずっとカオス。

これに対して、普通選挙の施行と同時に、綺麗な選挙をめざし選挙の取り締まり規則も厳しいものに改正されます。
これを知らせるのに使われたのもポスターです。

「物をもらったら罪になる」、「食事をおごってもらったら罪になる」という具合に、「やってはいけないこと」を示すポスターが大量に刷られました。
その結果、新有権者の中には、「選挙=犯罪とセット」というイメージを刷り込まれ、「選挙なんて行って下手な事をしたら逮捕される」という明らかに趣旨とズレた受け取り方をする人が続出。
結果、はじめての普通選挙にも関わらず、当局の期待を下回る投票率を出す原因の一つとなってしまった、というのです。(もっともそれでも80%ですから結構高い。まぁ、普選までの選挙は90%越えが普通だったので、当局は低いと見たのでしょう)。

と、こんな具合に、本書は我国最初の普選の様子を、ビジュアル史料を駆使して、リアルに、分かりやすく教えてくれます。
お勧めの一冊です。

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