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【感想】チャールズ・マレー、橘明美訳『階級「断絶」社会アメリカ』(草思社、2013)

2013/06/18 10:29 投稿

コメント:2

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今回取り上げるのは、チャールズ・マレー、橘明美訳『階級「断絶」社会アメリカ―新上流と新下流の出現』(草思社、2013)です。


著者チャールズ・マレー氏は、アメリカの政治学者で、「リバタリアンとして知られる」(著者略歴)方だそうです。
本書は、アメリカにおける今日の「階級」が、具体的にどのようなものなのかを、詳しく論じています。
原題に“1960-2010”とあるとおり、著者は今日のアメリカにおける「階級」は、1960年代頃から、形成されたものだという立場。

もちろん、格差や階級があるのは、大昔からであり、著者も60年代以前には格差が無かった、と言っているわけではありません。
しかし、その「階級」の性質が、60年代以前と今日では全く違う、と著者はいいます。

ではどう違うのか。
1960年代以前における格差は「ほぼ金の有無だけだった」(52頁)。
それに対して、今やアメリカにおける上流と下流は、それぞれに全く別の文化を持つ異質な集団を形成し、両者は交流不可能なほどに「断絶」してしまっているというのです。

この本は、それぞれの階級がいかなる文化を形成し、それがいかに断絶しているのか、そして人々が自分の階級の中でのみ生活を営み、結婚し、子孫を再生産することで、階級が完全に固定化していっていることを、多くのデータに基づきながらみせてくれます。
そこにあるのは、かつての人種による階級ではなく、文化の差異に基づく断絶、アメリカそのものの分断なのだと。

この本のウリは、なんといっても豊富なデータだと思います。
特にすごいのが、両親の学歴ごとの「子どものIQ期待値」(106頁)なるものです。
両親の学歴ごとに、生まれてくる子どもにどの程度のIQが期待できるのかをごく簡単に示したこの表は、日本ではとても掲載できない「悪魔のデータ」だと思います(と思ったら、訳者あとがきによるとやっぱりアメリカでも大論争になったデータなのだそうです)。


日本でも格差社会批判の定番として「格差の固定化」「階級化」が指摘されていますが、アメリカはさすが「先進国」だけあって、既にこの「階級」が完成された状態にあるということがよくわかります。

しかし、もちろんこれは他人事ではありません。
ここで示されるアメリカの情景が、そのまま日本の未来にもなり得るからです。
とすれば、この本を参考に、早いうちに我々の社会を今後どうするか、どうしたいのかを考えておくのが良いのではないかと思います。
折角恰好の見本があるわけですから。

階級化を否定するにせよ、是認するにせよ(ちなみにチャールズ氏は、階級分化した方が国力が上がる可能性が高いということも指摘されていますから、悪いことばかりではありません)、まず一読しておいて損のない本なのではないかと思います。

・・・なんて書きますと、いかにも重い感じがしますが、アメリカの上流と下流文化の紹介本として軽く読んでも十分楽しめる内容。
500頁超えと結構分厚いですが、訳が良いのか一気に読めます。

ただし、著者はリバタリアンというだけあって、アメリカの伝統的価値観への賛美や、激しい福祉国家批判を繰り広げていますが、そちらは余り説得力がありません。
あれだけデータに沿って進めてきた本なのに、伝統的価値観の擁護やら福祉国家の批判のくだりになった途端ほとんど雑感みたいな内容になっていて、ちょっと笑えます。

たとえば
母子家庭などで育った子どもが犯罪に走り易いということは、「今後数十年のあいだに進化心理学の進歩と遺伝学」の成果によって「科学的合意」に達するはず(432頁)、って自分の思想に基づくただの願望じゃないですか(笑)

個人的には、そんな突っ込みどころが散りばめられていることも、本書の見どころ(?)のひとつではないかと思っておりますー。

ご興味のある方は、是非。

コメント

ESLab
No.1 (2013/06/18 10:51)
早速読んでみます
吾妻 (著者)
No.2 (2013/06/18 13:06)
わざわざ、コメントを頂戴しありがとうございます。
よろしくお願いします。

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