“FiNCダイエット家庭教師”は、最先端の検査・分析技術とスマホアプリを組み合わせたダイエット支援サービス。ダイエットを無理なく続けるための仕組みが用意されており、専門家のスタッフから生活習慣の改善につながるアドバイスを気軽に受けられるのが特徴。最安プランで約10万円という料金ながら人気を集めている。今後もさらなる成長が見込まれるヘルスケア分野で、彼らはどのようなビジネス展開を考えているのか。
週刊アスキー3/10号 No1018(2月24日発売)掲載のベンチャー、スタートアップ企業に話を聞く対談連載“インサイド・スタートアップ”、第17回はダイエット支援アプリ、栄養士などのクラウドソーシングサービスを提供するFiNC(フィンク)の溝口勇児代表取締役社長CEOに、週刊アスキー伊藤有編集長代理が直撃。
↑“FiNCダイエット家庭教師”では、食事の記録は写真を撮って投稿すればオーケー。専門家が改善点などを指摘してくれるため、生活習慣改善のための正しい知識が徐々に身につく。
■ダイエットや健康管理は英語の勉強と同じ良い方法論であっても継続しなければ成功しない
伊藤 FiNCの設立は2012年4月ですが、溝口さんの事業のルーツはどこにあるんでしょうか。
溝口 高校3年のときに、スポーツクラブの運営とコンサルティングを行なう会社に入社して、6年~7年ほどはトレーナーとして働いていました。出会いの運にも恵まれて著名なアスリートや経営者の方の指導もさせていただいたのですが、並行してスポーツクラブの運営業務にも関わっていました。その後、ひとつのスポーツクラブを完全に任されることになり、うまくいったことでコンサル業務にも関わり始め、そこから自然と起業につながっていきました。
伊藤 トレーニングジム運営のノウハウがあるっていうのはユニークですね。“FiNCダイエット家庭教師”のサービスでは、スマホアプリや遺伝子検査などのテクノロジーを取り入れているのが気になってます。ジムでもこういった検査は一般的ではないですよね。どうやってたどりついたのですか。
溝口 僕らがテクノロジーを使う根幹は、ユーザーにサービスの利用をいかに“継続”してもらうかなんです。英語の勉強を例に挙げると、毎日ちゃんと勉強していればある程度はできるようになりますよね。受験勉強でも同じで、継続していれば学力が上がるものです。ところが、だいたいの人は良いコンテンツ教材や参考書を探すことばかりに注目して、本当は続けることのほうが大事だという事実を忘れてしまいがちなんです。
伊藤 たしかに、そうですね。
溝口 ダイエットや健康管理も同じで、いかに正しい生活習慣を継続させるかが重要になってきます。だから僕らは、継続させるための数々のフレームワークを導入しています。そのひとつである“パーソナライズ”も、継続のために必要な材料としてユーザーの遺伝子情報や生活習慣などを利用し、アプリに落とし込んでいるわけです。
伊藤 なるほど。つまり、フレームワーク実現のためにテクノロジーを使っている。テクノロジーを使おうというところから出発したのではないんですね。
溝口 フレームワークはそのほかに“インセンティブ”というものもあって、ここにもアプリは必要不可欠です。たとえば、スポーツクラブで来館に応じてポイントを付与する仕組みをつくろうと思うと、手間もコストもかかる。アプリだったら、そういうものを大幅に削減できますよね。これはユーザーが負担するコストの削減にもつながりますので、大きいです。
伊藤 もっと言うと、FiNCのサービスであれば、スポーツクラブという“場所”のコストもなくなりますね。ビジネスとして見ると凄い効率化だ。
溝口 まさにそのとおりです。
■栄養士やトレーナー、インストラクターを集めたクラウドソーシングサービスを提供
伊藤 遺伝子検査や血液検査などの結果は、どういった側面で活用されているんですか。
溝口 アドバイスの説得力をアップさせるための道具という側面があると思っています。科学的なデータやロジックを示されると、人は生活習慣などの行動を変えやすくなるんですね。
伊藤 わかるような気もしますが、「あなたの遺伝子タイプに合わせてこうしましょう」だけで実践できますかね? 僕はそういう意思が弱いので(笑)、やっぱりできないかもしれない。
溝口 ただ、生活習慣を変えるといっても「朝5時に起きてランニングしてください」というのはなかなか難しいし、続けられないですよね。だから、FiNCのサービスは、ユーザー選択支援という形を取ります。生活習慣の改善やダイエット成功のために、「日常での選択の基準を変えましょう」というアドバイスを専門家が提供していくんです。
伊藤 選択の基準を変えるというのは、具体的にはどういうことですか?
溝口 たとえば、「ランチにはカツ丼よりも生姜焼き定食」とか「晩酌するなら日本酒よりも焼酎」といったアドバイスをします。さらに、そういう選択をするのはなぜなのかという科学的な根拠を提示すれば、ユーザーは納得しやすいですよね。
伊藤 なるほど。代謝に対する学習の側面もあるわけですね。でも、アドバイスがくるってことは、サービスの裏側に“人”がいるわけですよね。
溝口 答えるのは、僕らが運営するクラウドソーシングサービスの“FiNC Online Works”を通じて登録してくれた外部スタッフです。栄養士やトレーナー、インストラクターなど、健康指導に従事する人たちに、スキマ時間にスマホアプリを使って働ける仕組みを提供しています。
伊藤 それはおもしろい。栄養士やインストラクターに特化したクラウドソーシングって一般的なんですか。
溝口 いえ、今まではなかったですね。それを構築したのが、世界的に見ても僕らのユニークなところだと自負しています。
↑健康指導従事者向けクラウドソーシングサービス。栄養士やトレーナー、インストラクターなどに、スマホアプリを使ってスキマ時間に働ける仕組みを提供。所定のカリキュラムを受講すると、ダイエット支援の仕事が始められる。
伊藤 サービスの質を一定に保つには、スタッフの質もそろえないといけないと思いますが、登録スタッフ向けの教育制度はあるんですか?
溝口 用意しています。実務に携わる前に運動や栄養、メンタルなどの専門知識を習得してもらいます。それをベースにして、ユーザーの個別指導を行なってもらうわけです。
伊藤 ダイエット支援のアプリやサービスでは、食事などの記録にかかる手間がハードルになりますよね。FiNCのサービスでは、どういう工夫を?
溝口 食事の記録で何が手間なのかを考えると、たとえばランチに定食を食べたときに、「小鉢は何が付いていたか」とか、「みそ汁の具は何だったか」なんていう細こまごま々したことを、すべて自分で入力しなければいけないことなんですね。それに自宅での食事だと、名前がよくわからないようなメニューもけっこうあるじゃないですか(笑)。
伊藤 ありますね。「分類しようにも難しい」という感じのメニュー(笑)。
溝口 そういう食事の内容もまじめに入力していこうとすると、マメな人ほど挫折しやすくなってしまいます。ですので、僕らのサービスでは食事の写真を撮って投稿するだけでオーケーにしました。ユーザーにいかに継続してもらうかという観点で考えると、手間を最小限にするのは必須ですから。
伊藤 なるほど、納得です。
溝口 継続してもらうための工夫はほかにも、スタッフから課されたタスクをユーザーが実行すると、アマゾンのギフト券に交換できるポイントをもらえる仕組みも用意しています。タスクはユーザーの生活習慣を考慮したもので、「食べ物を30回以上かむ」とか「食事の量が多いときは残す」といった内容です。
伊藤 お聞きしていると、ユーザーに継続してもらうための工夫をあの手この手で考えて、サービスの設計にも落とし込んでいますね。溝口さんの思いが強く感じられますが、そこにはやはりスポーツクラブの運営を経験していることが影響しているんでしょうか?
溝口 それは間違いなくあります。スポーツクラブの入会者は、1年で約半数が辞めてしまうんですよ。この数字を半分に減らすことができれば、収益をグッとアップさせられます。
伊藤 ただ、そう簡単にはいかないですよね。続けられれば、だれも苦労しない。
溝口 僕はありとあらゆる手段を試して、試行錯誤を繰り返しました。その経験のなかから、ユーザーがつまずきやすいポイントはどこなのかといった知見を蓄積できたと思います。
伊藤 バックボーンがあるのは強いですね。ところで、FiNCの開発チームの規模はどれくらいですか?
溝口 現在、社内には30人ほどの技術者がいます。技術力も非常に高いものがいて、僕がムチャぶりをしても応えてくれるのは心強いです。
伊藤 意外とエンジニアも多いんですね。現在のユーザー数はどれくらいなんでしょうか?
溝口 累計で1000人強の方々が使ってくれています。
伊藤 プランは60日間で10万5840円の“ライト”と21万3840円の“スタンダード”、32万1840円の“パーフェクト”の3種類がありますが、それぞれのユーザーの割合は?
溝口 ライトが2割、スタンダードとパーフェクトは4割ずつといった感じですね。ユーザー傾向もバラツキがあって、太っている人ばかりでもありません。
↑FiNCの“プライベートジム”は最上位プランを選ぶことで利用可能に。トレーナーに指導してもらいながら、さまざま運動を効率的に行なえる最新トレーニング機器を使用できる。
伊藤 成果保証もうたいますが、目標体重まで落とせなかった場合は返金されるのですか?
溝口 いえ、期間を延長して目標まで到達してもらうという形になりますね。
伊藤 なるほど。そうだ、今日溝口さんにぜひ聞きたいことがあって。リバウンドってなぜしちゃうんでしょう?
溝口 僕らは、リバウンド自体は悪いことだとは考えていません。たとえばアスリートは、オフシーズンになると太る人もいますが、シーズンに入るとちゃんとベスト体重の範囲内に戻しますよね。体重をコントロールできていることが重要で、そのためには自分の身体の状態を正確に把握し、生活習慣との因果関係も理解しないといけません。その知識やノウハウを60日間でユーザーにしっかりインストールするのが、FiNCの目的でもあるんです。
↑プライベートジムでは体脂肪や筋肉の量、身体の歪みなども把握することで、よりパーソナライズされたトレーニングを受けられる。
伊藤 なるほど。60日間という期限を切ってるのはサービスとしてユニークですね。なんとなく、夏期集中学習みたいな雰囲気がありますね。FiNCの今後はどのような発展があるんでしょう。
溝口 ダイエットアプリについては、ユーザー間の競争や交流を促進するため、SNS機能を加える予定です。それと、僕らが創業時から考えているのは、ありとあらゆる検査をすべて無料で提供するビジネスモデルです。その先のサービスとして、今のFiNCダイエット家庭教師のようなものがあり、さらに次のレイヤーとしてeコマース事業があります。生体情報や悩みに応じて専門家が食品や化粧品などの商品をオススメしてくれる仕組みをつくり、そこで僕らは利益を得ます。さらには、健康や理想の体形を手に入れたあとに人が実現したくなることもお手伝いしたい。たとえば、オシャレやおいしい食事を楽しむことだったり、素敵な恋愛をすることだったりで、美容やファッション通販、婚活などのサービス展開も考えています。
FiNC 代表取締役社長CEO
溝口勇児
1984年生まれ。高校在学中からフィットネスクラブでトレーナーとして勤務するかたわら、業界最年少コンサルタントとして新規事業の立ち上げや業績不振クラブの再建事業も担当。2012年4月にFiNCを創業。
■関連サイト
FiNC
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