こうした最強のクラムシェル型ノートPCであり、最強のタブレットでもあるVAIO Zを開発した企画担当者およびエンジニア陣にお話をうかがってきたので、その様子をお届けしたい。
↑左からVAIO株式会社 商品ユニット2 部長の笠井貴光氏。商品ユニット2 メカニカルプロジェクトリーダーの原田真吾氏。マーケティング・セールス&コミュニケーション部 商品企画担当の黒崎大輔氏。──今回の製品ですが、まさに満を持してという形になりますが、完成度はいかがですか?
笠井氏 今回の製品は自信作です。私はこれまで歴代のVAIO Zをプログラムマネージャー(以下、PM)としてかかわってきましたが、その中でも完成度は一番高いと自負しています。性能はもちろんアピールする部分ではありますが、カタログにスペックにない部分でお客様が快適に使っていただける部分も研ぎ澄ましている、そういう製品になっています。お客様がご購入する前に、カタログや記事などで見ていただいてドキドキしてもらう、そしてご購入頂いた後にも格好良さだったり、使い勝手の良さそういうところに浸ってほしいと思って設計しました。
──GT3のCore i7を搭載してくるだろうとは思っていましたが、28ワットのIris入りの方を搭載してくるとは思っていませんでした。
笠井氏 これまでの歴代VAIO ZシリーズでもハイパフォーマンスのCPUを採用してきました。それは別に高いCPUを入れたいとか、性能さえ高ければいいということを考えてやっている訳ではなくて、私たちとしてはお客様に使っていただくときに、とにかくレスポンスを良くしたい。それが快適に使っていただけるということだと考えているのです。
電車に例えてみれば、ある場所に行くときに“新幹線”と“特急”の2つの選択肢があれば、新幹線に乗った方が目的地に早く到達します。誰にも時間だけは平等に与えられているので、そうしたレスポンスを改善することで、無駄に待っている時間を少しでも削減できる、これが私たちがハイパフォーマンスのCPUを採用する基本的な考え方です。
↑歴代のZシリーズを担当してきた笠井貴光氏。──他のWindows PCメーカーは28ワットのCPUを採用してくるところはほとんどありません。なぜ、VAIOだけがそれが可能なのでしょうか?
笠井氏 そこにはポイントは2つあると考えています。私たちの会社の強みは、高密度基板実装と放熱技術です。
一般的にPCという製品は、ほとんどのパーツが標準品となっており、パーツベンダーから買ってきて製品にすることができます。その中でVAIOが100%作れる部材は何かと言われれば、それが基板なんです。ですので、ここ10年ばかり私たちは高密度基板実装の技術を磨いてきました。ソニー時代の安曇野事業所で高密度基板実装を始めたのは2004~2005年ぐらいの『VAIO SZ』の頃で、そこから長い間他社が真似するのが難しい技術を積み上げてきたのです。
今回のVAIO Zでは、TDPup(筆者注:いわゆるcTDPでメーカーが独自に対応できるTDP枠の上限のこと、TDP28ワットのCore iではそれが35ワットになる)に対応できるように設計しており、28ワットどころか35ワットでもちゃんと排熱できるように設計しています。国内のサプライヤーの皆様と共同で開発したそうした熱設計を施し、さらにVAIO独自の高密度基板実装技術で基板を小さくつくることで、今度はバッテリーに余分にスペースを与えることができるようになる。かつ、今回のバッテリーはバッテリーケースを使わず、自社でセルから組み立てることで、十分な強度も確保しつつ、大容量を乗せられるように設計しているのです。
そうしたことができるのも、弊社が安曇野の本社に工場を持っているからです。基板の製造も、そうしたバッテリーの組み立ても、すべて弊社のエンジニアと生産の現場が直接調整しながら製造を行なっているからできることなのです。
↑新Zの底面を外したところ。基板の合間をぬうようにヒートパイプなどが置かれているのがわかる。──液晶もかなり明るいWQHD解像度のパネルを採用しています。
笠井氏 液晶ディスプレーはお客様が常に使う部分ですからこだわっています。今回の液晶は、競合他社が採用している2560×1440ドットとほぼ同じWQHD解像度ですが、消費電力は圧倒的に低いです。仮に他社製品のパネルを弊社製品に採用したら同じバッテリー駆動時間を実現するにはバッテリーをあと100グラムほど追加しなければなりません。
今回はパナソニック様のIPSα液晶を採用していますが、それも両社で協力して開発したパネルが採用されています。通常解像度を上げると、液晶素子の開口部が小さくなるのでどうしても暗くなってしまい、バックライトの輝度を上げないといけなくなるのですが、そうすると消費電力が増えてしまう。そこで、弊社がフィルムメーカー、バックライトメーカーも含めてそうした消費電力を上げなくても明るくする技術を持っているところを、液晶メーカー様に紹介し、一緒になって液晶をつくりあげていったのです。
実際、液晶メーカー様とはLEDの素材、配置といった部分から一緒に取り組むことで、液晶モジュールの消費電力をほとんど増やすことなくWQHD化が可能になりました。この製品ではそうした特徴を、電力を削減する方向に活用し、『VAIO Z Canvas』ではAdobe RGBカバー率95%の再現性に活用すると言ったように、製品ごとに性格を変えて使っています。
↑VAIO Z Canvas。──『VAIO Duo 13』で世界で初めて64ビットWindowsで実現した“Connected Standby”(当時の名称。現在はInstantGoに改名されている)ですが、この製品でもちゃんと対応されています。
笠井氏 VAIO Duo 13では世界のPCメーカーで初めて64ビットOSでConnected Standbyのサポートに踏み切りました。とはいえ、当時は誰もその機能には取り組んでおらず、リファレンスデザインも提供されておらず、まさに手探りの中でやってきました。実際、2000点にもおよぶチェックリストをつくってやらなければなりませんでした。例えば、VAIO Duo 13ではPCIe接続のSSDではなくSATA接続のSSDを採用しました。それ以前のVAIO ZシリーズではSSD RAIDなど、ストレージの応答性の良さにこだわってきた部分があったので実現したかったのですが、Connected Standbyとの組み合わせで大丈夫だと確信が持てなかったので泣く泣く落としたという経緯があります。
ですから、今回の製品ではInstantGoとPCIe SSDの両立は、たとえプラットフォームベンダーのサポートがなかったとしてもやりきろうと思っていました。それを目標に開発してきたのです。
──その一方で、InstantGoがサポートされているとなると、やはりワイヤレスWANが搭載されていてすぐ使えるということを実現して欲しかったという声もある思いますが……。
笠井氏 そこは苦渋の決断でした。もちろん私たちもSIMフリー化の流れやInstantGoのメリットをより引き出すためにはワイヤレスWANが必要というのは理解しています。実際、私の製品はVAIO Duo 13も、VAIO Z2も、VAIO Zも、いずれの製品でもワイヤレスWANは搭載可能なように設計してきました。今回の製品でも搭載する検討はしましたが、そこにはいくつかの課題があったのです。
原田氏 ワイヤレスWANを入れるにはアンテナをディスプレー側に入れる必要がありますが、ディスプレー側は変形機構をサポートするためにアルミ素材のカバーを利用しており、電波を通すためにはどこかを切り欠いてプラスチックにするなどしないといけないのですが、そうすると強度が確保できません。では下側に配置するのはどうかと言えば、そこにはWiFiのアンテナがすでにあり、ワイヤレスWANのアンテナを置く場所は確保するのが難しい。
となると、フォームファクターを諦めるのか、ワイヤレスWANを乗せるのか、まさに究極の選択で、製品のコンセプトからフォームファクターは諦められないのではないかという結論になりました。
↑新VAIO Zの設計・製造を担当した原田真吾氏。黒崎氏 難しい選択であったのは事実です。今回のVAIO Zは、やはり過去のVAIO Zがありその系譜を継ぐ製品ということになるので、クラムシェルの形は絶対に必要だろうと判断しました。しかし、そうしたクラムシェルを使い続けてきたお客様にも、タブレットのような新しい形、新しい使い方がある、そうした可能性を提案していきたいと考えているので、“マルチフリップ”という構造を提案したいと企画しました。
↑VAIO Zのマルチフリップ構造。──見た目がVAIO Fit 13Aに似ているため、それと同じような製品、そちらの後継なのではないかと考えられてしまう可能性を検討したりはしなかったのですか?
黒崎氏 議論はありました。確かに新しい形や見た目はインパクトがある。ですがこうした形状を選んだのは、昨年我々の会社がスタートした時にお話させて頂いた“本質+α”という考え方に立てば、“イイモノはいいんだ”とお客様に提案したいという点がありました。
↑企画を担当した黒崎大輔氏。笠井氏 実際には(VAIO Fit 13Aに比べて)99%は完全につくり直しているといっても過言ではありません。
──VAIOがソニーから独立した結果、ソニー製品としての特徴だった、独自のソフトウェアやNFCなどの機能はこの製品からなくなっています。
笠井氏 ぶっちゃけて言えば、そこが他社との差別化になっていたかと言えばなっていなかったというのは我々も感じていました。ですので、新生VAIOではどんなアプリケーションを使うか、それがお客様に選んでいただいた方がいいだろうと判断しました。ただ、今回の製品でも引き続き『CamScanner』というカメラを利用して書類をPDFや画像にするツールをVAIOエクスクルーシブでバンドルしています。これを利用すると、書類をデジタル化したり、例えばホワイトボードを取り込んでPDFにしたりということができます。そういうモデルの機能、特徴を活かし、お客様に提供したい価値を持ったツールは引き続き可能であれば絞り込んでバンドルしていきたいと考えてます。
↑プリインストールアプリ『CamScanner』で、ドキュメントスキャナーとしても活用できる。──VAIO ZとVAIO Z Cavasの位置づけについてはどう考えておられますか?
笠井氏 私はVAIO Duo 13のPMをやっていましたが、VAIO Duo 13の開発をしている時にひとつ迷いがありました。
それは“クラムシェルという形を捨てて大丈夫なんだろうか”ということです。というのも、ここ10年ぐらい、クラムシェル型ではないPCというのが多数登場しますが、それがマジョリティーになっているかと言えばそうではない。結局ビジネスのためのツールであるPCとして考えるとクラムシェルではない形は本質ではなかったのではないかと考えました。
それで、VAIO Duo 13をリリースした後、お客様の反応を見ていると、私たちが想定していたビジネスユーザーよりも、どちらかと言えばクリエイティブ系のお客様の反応が多かったということがありました。ところが、VAIO Duo 13ではどっちもカバーしようと考えてつくった結果、どっちから見ても足りない部分があったのではないかと考えたのです。それなら両者を分けてしまえばいい。それが私たちがVAIO Zをビジネスユーザーに、VAIO Z Canvasをクリエイターにと分けた最大の理由になります。そして、ビジネスユーザーをターゲットにしたVAIO Zでは、ビジネスユーザーの生産性を向上させるためにフリップ構造を採用することで何も妥協しなくてよい2in1を実現したのです。クラムシェルとしても最強、タブレットしても最強、それが私たちのVAIO Zだと自負しています。
↑今回取材に協力していただいた開発陣のみなさんと本誌編集長 宮野。