貸しスペースのマッチングサービスを提供するスペースマーケットは、2014年に最も注目を集めたスタートアップ企業のひとつ。貸し手側は遊休スペースを有効に活用でき、借り手側はお寺や球場などユニークなスペースも簡単に借りられることから人気を集め、創業から1年で掲載物件数は激増。さまざまなビジネスコンテストで賞を獲得している。彼らが見据える未来のビジョンはどのようなものか、西新宿のオフィスで聞いた。
週刊アスキー2/17号 No1015(2月3日発売)掲載のベンチャー、スタートアップ企業に話を聞く対談連載“インサイド・スタートアップ”、第15回はユニークなスペースを簡単に貸し借りできるシェアリングエコノミーサービスをつくったスペースマーケット重松大輔代表取締役/CEOに、週刊アスキー伊藤有編集長代理が直撃。
↑『スペースマーケット』では、帆船から米国の野球場、由緒ある日本のお寺、古民家、隠れ家カフェまで、あらゆるスペースが借りられる。
■貸し出されているスペースは意外にあるけれど、その情報は顕在化していないケースが多い
伊藤 スペースマーケットはちょうど創業1年ですが、2014年はあらゆるビジネスコンテストの賞を総ナメにされていましたよね。よく名前を目にするので、注目していたんです。
重松 ありがとうございます。今でもまだそうですけど、この1年は本当にバタバタでしたね。
伊藤 本業をこなしつつ、コンテストにも出るわけですからね。バタバタするのは当然です。
↑2014年は、“B dash campピッチアリーナ2014”優勝や“ RISING EXPO 2014”優勝など、コンテストに出場しスタートアップとして高い評価を獲得。サービスの知名度も高まった。
重松 めまぐるしかったんですが、コンテストに参加すると収穫も多いんです。というのは、ほかの参加者は我々のサービスのお客さんになってもらえる可能性がある人たちなので、認知度が上がるのは大きいです。営業の手間が省けますからね。
伊藤 「サービスを使ってみたいんですけど」と、向こうから声をかけてきてくれる。
重松 それと、「うちにもこういうスペースがあるんですけど、貸せないですか?」という問い合わせもあります。
伊藤 なるほど。スペースマーケットのビジネスというのは、貸しスペースのマッチングサービスですよね。出版業界だとレンタルスタジオが身近な貸しスペースですが、スペースマーケットでは遊休スペースをうまく活用しているという意味で、レンタルスタジオとは少し違います。どのようなビジネスモデル構造になっているのですか?
重松 レンタル料から仲介手数料をいただく形です。サイトに物件を掲載するのは無料で、レンタルが成約したら、20~35%をいただきます。つまり、スペースが使われて初めて手数料が発生するわけです。
↑サイトは豊富な写真で物件の概要がわかりやすい。使用目的や収容人数、エリア、予算などでレンタルスペースを検索できる。
伊藤 そうすると、みんなが借りたくなるような良いスペースを探してこないといけない。大変ではないですか?
重松 普通の人はあまり意識しないですけど、ふだんから貸し出されているスペースって意外にあるんです。たとえば、映画館も借りられるし、カフェでも貸し切りは可能です。ところが、その情報は公式サイトの隅っこのほうにチョロッと書いてあるだけだったりして、顕在化していないんです。だから、まずは徹底的に掘り起こしました。
伊藤 サービス開始時点でも、物件はバラエティー豊かでしたよね。ラインアップは最初、何件くらいあったんですか?
重松 当初は約100件ですね。現在は、約1400件まで増えています。
伊藤 おお、すごい! どのように集めていったんですか?
重松 今までの人脈を頼ったりしながらも、ほぼ僕ひとりで営業して集めました。
伊藤 米国の野球場なんて、すごくユニークなスペースもあるじゃないですか。あれも人脈?
重松 あの球場は、僕の知り合いが勤めていたんですよ。それで、そこの社長が来日した際に大相撲観戦に連れていって接待して、「日本でこういうビジネスを考えているから、貸してくださいよ」と頼んだんです。
伊藤 それですんなりオーケーが出たんですか?
重松 米国には貸しスペースビジネスがすでにあったので、すぐにオーケーでしたね。
伊藤 本場の球場が借りられるというのはインパクトがありますよね。「こんな場所が借りられるの!?」とワクワクします。
↑米国の野球場を借りれるなんて、まさにフィールド・オブ・ドリームス。レンタル料は1日20万円から。
重松 まさに、そういう心の“ザワつき”をカタチにしたかったんです。今もサイトに掲載していますが、球場の写真が素晴らしいんですよね。あの写真を載せたいがために、社長に直談判したようなものです。
伊藤 ああ、わかりますね。
重松 で、ぶっちゃけて言っちゃうと、場所が米国なんでだれも借りないんですよ(笑)。
伊藤 そうなんですか!?(笑)
■米国のサービスを研究してたどり着いたのは「スペースって何でもありじゃないか」という結論
重松 でも、サービスのコンセプトを伝えるという意味で、あのスペースがラインアップに並んでいることは重要でした。
伊藤 ほかにも、古民家だったりお化け屋敷だったり、ユニークなラインアップですよね。話は少しさかのぼりますが、ビジネスのアイデアはどうやって考え出したんですか?
重松 最初は海外のビジネスを調べまくって、日本で流行りそうなものを探したんです。条件としては、初期投資がかからず、営業力で利権を押さえてウェブで優位をつくっていくビジネスです。100個くらいのアイデアを出しました。
伊藤 そこからの絞り込みは?
重松 妻がベンチャーキャピタルの投資家なので、一緒にアイデアの検討をしてもらいました。そんななかで、旅行者に空き部屋を貸す“Airbnb”みたいなサービスがおもしろそうだな、と。
伊藤 あのサービスは日本でそのままやろうとすると、法律面でハードルがありますね。
重松 BtoBならいけるんじゃないかと思って、米国で似たサービスを探したらあったんですよ。“Eventup”というサービスが成功していた。
伊藤 そこで「このサービスを日本でも始めたらいけるぞ」と。
重松 はい。Eventupは戦艦が借りられたりして、非常におもしろいんですよ。
伊藤 戦艦!? いかにも米国っぽいですねえ。島をまるごと借りるとかもありますかね。
重松 あとは、お城とかもあります。そう見ていると「ああ、スペースって何でもありじゃないか」という結論にたどり着いたんです。それと日本の企業の研修や会議でも少し変わったスペースが求められているのは知っていて、マーケットはあるだろうなという予感はありました。
↑貸し切り可能なお化け屋敷。6つの部屋を楽しめるお化け屋敷が借りられる。収容人数は4~10人。いっぷう変わった合コンやパーティーなどに使えば、幹事の株も上がるはず。
伊藤 なるほど。スペースマーケットのお客さんは、やっぱり法人が多いんですか?
重松 そうですね。企業の総務担当者が会社説明会や周年記念パーティーの会場を探すケースなどが多いです。あとは、表彰式とか研修、ミーティング、イベントもありますね。
伊藤 最近増えたスペースの利用用途はあります?
重松 最近だと、ポップアップショップ(期間限定店)ですね。広告代理店からけっこう引き合いがあります。
伊藤 へえ。じゃあ、繁華街の人通りの多いスペースなんかも借りられるんですね。店舗の入れ替わりの合間とか、期間を限定するやり方ですよね?
重松 そうです。短期間の物件なので、長く借りてもらってナンボの不動産会社は扱わないんですよ。だから、まだ市場を広げないといけない段階ではありますが、我々が参入しても勝機はあるかなと思っています。
伊藤 貸し会議室だと、法人ユーザーのリピート利用は多い気がしますが、スペースマーケットでも多いんですか?
重松 あります。たとえば、最初に会社のミーティングをお寺でやったとしますよね。すると、手配した担当者に「あの場所は良かったよ。次も、おもしろい場所でやろう」というリクエストがかかるんですね。
伊藤 なるほど。そうなると、やっぱりユニークなスペース探しが大事になってきますね。
重松 はい、ひたすら営業ですね。探していけば遊休スペースというのはけっこうあって、たとえば、会社の会議室は週末は空いていますよね。逆に、結婚式場のような場所は週末が満杯で、平日は空いています。カフェだったら、夜のお客さんは長居はしてもあまりお金を落とさないので、夜は貸し切りにしてしまったほうが割がいいとか。あと、コワーキングスペースも、夜は比較的空いていますね。
伊藤 たしかに、業界によってアイドルタイムは異なります。「空いているところをうまく活用できますよ」ということで、営業をかけていくわけですね。
重松 最近は知名度が上がったことで、申し込みをいただくことも多くなってきました。サイトに“スペースを掲載する”というボタンを用意してあって、直接、スペースを登録してもらえるケースが増えてきました。
伊藤 法人だけでなく、個人でもスペースの登録ができるんですね。一般の人が自家用車でタクシー配車できる“uberX”のようなサービスを思い浮かべました。これまで売り物でなかったモノを売れるという流れが、貸しスペースの業界でもあるんでしょうね。
重松 まだ比率は小さいですが、今後は増えてくるでしょう。個人が所有しているオシャレな自宅とか豪邸を貸し出すこともありうると思います。
伊藤 僕はちょっと変わった不動産物件をネットで眺めるのが好きなんですが、そういう物件を撮影やイベントなどで使いたいというニーズはありそうです。
重松 それは間違いなくあると思っています。
伊藤 ちなみに、レンタル料金を決めるのはスペースの所有者ですよね?
重松 基本的には、オーナーさんにお任せしています。ただ、わからない場合は、我々がお手伝いしていますね。これまでの経験だと、最初はリーズナブルな設定にして、稼働具合を見て上げていくことが多いです。
■今後は提携サービスを増やしていくことでスペースマーケットのユーザーの利便性を高めていく
伊藤 なるほど。では、スペースマーケットの今後の方向性についてお聞きします。
重松 スペースの登録件数を愚直に増やしていきます。勝ちパターンが見えてきているので、人手を増やして営業していきたい。あとはリアルでもウェブでも、提携先を増やしていこうと考えています。我々がまず場所で入口になって、その先のサービスを提供する会社と協力するんですね。企業イベントの企画や実行支援を行なうリンクイベントプロデュースさんと提携することで、一緒にイベントパッケージをつくって売るサービスの提供が可能です。イベントチケットの販売はヤフーさんと提携しています。食事のケータリングを提供する企業と提携したりと可能性があります。
伊藤 なるほど。スペースマーケットでスペースを探すユーザーは、そこで“何か”をしようとしているわけで、その何かを支援するサービスもワンストップで提供すれば、ユーザーの利便性も高まりますね。
↑2015年1月16日には、スペースマーケットなどが主催する賀詞交換会及び祈願会“KIGAN”が東京・港区の増上寺にて開催。スタートアップ企業の経営者や投資家など、約300人が集まった。
重松 現状だとスペースマーケットに登録されているスペースでも、イベントをやってみないとわからないことが多いんですね。たとえば「お寺はこんなふうに使える」という経験値が貯まっていけば、それだけマッチング率も高まります。広告代理店や旅行代理店には、このようなイベントの経験値があると思うんですが、知見は蓄積されていないのがわかったんです。だから、我々のほうでスペースに関する知見をどんどん貯めていきたいなと思っています。
スペースマーケット 代表取締役/CEO
重松大輔
1976年生まれ。2000年、NTT東日本に入社。2006年にはフォトクリエイトに転職し、新規事業や広報、採用に従事して東証マザーズ上場を経験。2014年1月、スペースマーケットを創業。
■関連サイト
スペースマーケット
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