オレが月刊アスキーでアルバイトを始めたのは1982年で、ちょうどNECのPC-9801が発売になったころ。ホビー的には8bitが主流で、アルバイトのお仕事としてゲームの移植や、パソコンを恒温槽に入れて何度で暴走するかテストしたり、98の全パーツを並べて写真を撮ったりしていた。
 PCに搭載されていたBASICはもちろんマイクロソフトBASICを元にしたものだが、各社・各機種ごとに方言があって、例えばPC-8001用のゲームはN-BASICで記述してあり、PC-8801や9801では動いても、富士通のFM-7や8で正常に動かすためには、F-BASICの文法に書き換えてやる必要があった。そういえば、テープアスキーというゲームが入ったカセットテープのマスター作りもバイトの仕事だったね。 宮野さん1000号コラム ↑『PC-9801』 NECが1982年に発表した16ビットパソコン。そのシリーズは圧倒的なシェアを誇り、“国民機”の名前で親しまれた。


 BASICはもちろんプログラム言語だがOSでもあり、やがてフロッピーディスクの普及とともにディスクBASICとなったが、filesとかloadとかlistとかrunといった命令を使って、プログラムを確認してロードして表示して走らせていた。
 月刊アスキー編集部のマシンルームには常に最新のPCや周辺機器が揃っていて、西さんが「これおもろいか?」とつぶやきながらビル・ゲイツ氏とともに現われることも日常だった(米マイクロソフトの極東代理店は当時アスキーだったのだ)。徹夜でベニヤ板を土台にしたMSXの開発機を組み立てた覚えもある。

宮野さん1000号コラム ↑“MSX”は各社バラバラだったパソコンの規格を統一する意図で、マイクロソフトとアスキーによって1983年に提唱された規格。写真はその1号機となる三菱電機『ML-8000』。


 98の普及とともに、パソコンは趣味のモノから仕事の道具になってしまい、OSはもちろんマイクロソフトのMS-DOSとなる。dirにcdでmkdirでcopyでchkdskだ。表計算はMultiplanでワープロは一太郎、もちろんキーボードだけで操作していた。でもcandyはマスウ使ってたっけ、それも最初はシリアルポートにつなぐマイクロソフトマウスだったね。クリーム色に緑のボタンがステキでした。あ、もちろん1984年に発売となったMacintoshは最初からあの四角いマウスだったよね。
 一太郎のバージョンアップのたびに浮川さんの話をうかがうため、徳島に出張したのを覚えているが、その進化とともに、MS-DOSのメモリーの壁(1Mbytes!!)をいかに拡張して使うかとか、フロッピーディスクの辞書をメモリーにコピーして日本語変換を高速化するとか、いろいろな工夫が必要だったので、パソコン雑誌としてはネタはつきず、config.sysとautoexec.batの内容をいかに最適化するか、たくさん記事を書いた覚えがある。ラインエディターはedlinで、スクリーンエディターはmifesね。
 それでも足りず、一太郎をより快適に動かすために、より高速なCPUとストレージ、グラフィック能力が要求され、それがPCの強化や買換えを促進したくらいだ。

 1989年にアスキーからEYE・COMというパソコン雑誌が創刊される。週刊アスキー1000号というのは、実は前身となるEYE・COMの創刊から数えた数字なので、さかのぼるとちょうど25年前ということになる。

宮野さん1000号コラム ↑『EYE・COM』1989年に創刊されたパソコン情報誌。月2回刊で、右開きで本文たて書きはPC雑誌にはめずらしかった。


 1990年から'95年にかけて、Windows3.0と3.1が発売となり、PCの画面はDOSのコマンドプロンプトからGUIへと代わり、それに伴って、PCのアーキテクチャーも個別の仕様からDOS/Vマシンへと統一され、劇的に価格が下がっていった。もちろん操作はキーボードに加えてマウスが登場。そして今度はWindowsをいかに「軽快」に動作させるかというのがみんなの心配事となった。メモリーもハードディスクも画面の解像度も、今度はWindowsのために増設したり買い換えることとなったのである。
 Windowsの普及とともに、お仕事ソフトは一太郎+MultiplanからWord+Excelへと移行。 '95年にはWindows95が発売となり、ネットワーク機能を標準搭載した。EYE・COM改め週刊アスキーが創刊となったのが1997年で、ほぼ同時にVAIOノートがB5サイズで登場して、モバイルノートの時代が到来し、翌年Windows98がリリースされ、インターネットの時代がやってきた。

宮野さん1000号コラム ↑『週刊アスキー』は、『EYE・COM』を週刊化し改名する形で1997年に創刊。だから、“通巻”はEYE・COMから引き継いでいる。とはいえ、写真の週刊アスキー創刊号からすでに830号近く出ているのだが。


 当然、より速くて軽いノートPCが競って開発され、オレとしてもWindowsといっしょに非常に楽しい日々が続いてきたのだが、最近のショックといえばWindows8のタッチ操作。何度も書いているが、キーボードとマウスでお行儀よくPCを操作する作法を身につけているオレたちにとって、画面を直接触る行為は、牛丼やカレーやラーメンを手づかみで食べなさいというのに等しい。Windowsのデスクトップはタッチ用にはできていないし。おむすびやハンバーガー(=スマホね)なら手で食べるほうがおいしいけどきちんとしたお料理(=パソコン)はお箸やホーク(マウスやキーボード)を使って、あざやかに食べたいのだ。

 とはいえ、こうして思い出していると、MS-DOSからWindowsに移行するときにマウス操作が必須となった時もよく考えたら気分が悪くなった覚えがある。Multiplanのコマンドキーによる超高速入力が、Excelではマウスを使ったメニュー選択になってイラついたものだ。そう考えると、10年したらキーボードがなくなって、画面タッチがアタリマエだのクラッカーになっているのかもしれないのだが、昔はWindowsと別に「Windows for Pen Computing」があったし、できることなら、Windows9では「フツーのおっさん向けノンタッチ版」と「超イケてるタッチしまくり版」の2バージョン出してほしいな~とは思いながらも、Windows8.1でちょっと先祖返りしてくれたので、安心して毎月PCを買い換えているオレであった。

宮野友彦(みやのともひこ)
週刊アスキー2代目編集長。パソコンはもちろん、カメラ、鉄道、焼き肉が大好き。


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